第10話 アスパラ尽くしとポッキーゲーム?
久しぶりにということもあってというか、アパートに帰るとすぐに隣のやつに声をかけられた。
「おお、久しぶりだな」
「どうした…」
「俺は実家に帰れなくて、寂しかったんだよ」
「まあ、お前遠いもんな」
「ああ、なんで俺の実家だけ遠いんだ…」
そんなことを言っているのは、実は同級生で隣の部屋になっているじゅんだ。
そんなふうにして頭を抱えている横からは、幼馴染で彼女、しかも同棲している相手であるあいが顔を出している。
すぐにじゅんの頭を押さえつけていた。
「ちょっと、うちらが声かけたら邪魔じゃない」
「いや、いんだよ。というかよかったら手伝ってよ」
「どうかしたの?」
「いや、実家から結構たくさんの野菜をもらっちゃってさ」
「なるほど、痛む前に使いたいと」
「そうそう」
「ちなみに食材は何を使うつもり?」
「アスパラでいこうかなと思ってて」
「アスパラ…どんなものを作ろうと思ってるの?」
そう言われた僕はいくつかの料理を紹介する。
といってもなるべく簡単なものばかりにしておいた。
まあ簡単なものじゃないと失敗すると嫌だからという点もあるからだ。
「それじゃ、少し休憩したら作るかな」
「わかった。ほら戻るよ」
そんなことがありながらも、部屋に戻ると、まずはといべきかもらってきた野菜を直したり、使った服なんかも直したりした。
そうして時間になるとゆりさんもやってきた。
さすがに家に一度荷物を置いたりしないといけなかったということもあるけれど、それでも野菜はゆりさんのためにと親から渡されたものなので、料理を作るときには食べさせないなんてことがもし母親の耳に入るとどうなるかわかったもんじゃなかったからだ。
そんなことを考えていると、チャイムが鳴る。
相手は誰かなんてことはわかっていた僕はドアを開けた。
「いらっしゃい」
「ごめんね、何度も…」
「いや、僕もちゃんとご飯作らないと、母親に怒られますから」
「そうかもね」
そんな会話をしていると、またチャイムが鳴る。
次はだれかもわかっている。
入ってきた二人は、ゆりさんのことを見て、物珍しそうにしている。
「おい、まさか付き合ってるのか?」
「そうだけど」
「なんということだ、学園のアイドルとそんなことって…」
「アイドルなんだっけ?」
「くそ、お前はそういうところに疎いからか…だから射止められらたのか」
「いや、わかんないけど」
すぐに詰め寄ってくるじゅんに若干の恐怖というべきか、彼女がいる前でそんなことを言っていいのかと心配になるようなことをいうことに驚いていると、あいがしっかりと頭をつかんでいた。
「おい…」
「はい」
「うちがいることわかるよね?」
「わかります」
「確かにうちから見てもかわいいのはわかる。でも、せめて言い方があるだろう?」
「おっしゃる通りで」
「ふん…」
そうして、頭をしっかりと握ることで満足したのか、解放した。
何を見せられているんだ僕たちは…
そんなことを思いながらも、後ろではゆりさんが笑いをこらえているのがなんとなくわかったので、まあいいということにしておこうと思った。
そして、笑いがすぐに収まったら裾を引っ張られた。
たぶん紹介をしてほしいということなんだろう。
「えっと、隣に住んでいる、あいとじゅん。同棲中って感じかな。えっと、ゆりさんの紹介はいいかな?」
「まあ、うちらは話しかけたことなかったんだけどね」
「ああ、高嶺の花すぎてな…それが、それが…」
「おい…」
「いえ、なんでもないです」
こんなことをしていれば、またコントが始まるとしか考えられないので、ささっと中に入ってもらうことにした。
「適当にかけといてよ」
三人に声をかけて、僕はキッチンに立った。
流しにはすでに洗っていたアスパラを置いている。
実はアパートに帰る途中にスーパーに寄ってきていたので、食材も出しておく。
今回作るのはアスパラの天ぷらとアスパラの肉巻きだ。
天ぷらに関しては、少しテレビを見たときに憧れがあった一本をまるまる揚げるというのをしてみたいと思っていた。
まずは固い部分を切り落とし、そしてさらにピーラーをかけて、軽く皮をむいておく。
あとは電子レンジにかけてレンチンする。
これで時短になる。
後は肉巻き用は食べやすい大きさに切って、アスパラの天ぷらは一本にしてみたかったので、キッチンペーパーで水気をとったらそのまま天ぷら粉につける。
肉巻き用に豚バラを巻いていく。
「て、手際いいね」
「そうかな?」
観察と、あいが見に来ていたが、どうやら驚いているみたいだ。
ちゃんと料理をし始めて、まだ一か月と少ししかたっていないので、そこまで手際の良さを感じるかわからないけれど、それでも褒められると嬉しいものだった。
天ぷらはさすがに曲げないと入らないことが分かったので、半分に切ってから揚げた。
本当に残念で仕方ないけれど、どうしようもないと納得させた。
揚げている間に、肉巻きも調理をしていく、塩コショウをして、片栗粉を軽くまぶし油をひいた鍋で、焼いていく。
しっかりと巻いている豚バラがカリッとなるくらいに焼くのが美味しいのだ。
味付けは、簡単に醤油、酒、みりん、砂糖だ。
大体2:2:2:1くらいを目安にいれると美味しくなるので、そんな感じにしておく。
テカリがでれば完成だ。
できたご飯をテーブルに並べる。
「おおー」
そんな言葉とともに、すぐに手を伸ばそうとしたじゅんの手をあいが叩く。
「行儀が悪い」
「あははは…まあ、それじゃ」
「「「「いただきます」」」」
そして食べていく。
肉巻きはしっかりとたれというか、調味料が絡んでいて、片栗粉をまぶしたかいがあったというものだ。
そしてアスパラの天ぷらは塩で食べてみる。
旬ということもあるのだろうけれど、やっぱり味は美味しい。
ただ、食事を味わっているときだった。
「おお、これだったらポッキーゲームできるんじゃね?」
「あんたねえ…」
「いや、だってお互い彼氏彼女だしね?」
「うちだって人の前でそんな恥ずかしいことやりたくないから」
「そんなー」
二人がそんなことを言っていたのを僕はよかったと思って胸をなでおろしたのだった。
手を繋ぐだけで今は精一杯だというのに、そんな見つめあうなんてことをしてしまえば心臓が持つのか怪しいものだったからだ。
ただ、この時同じことを思っている人が隣にいることを僕はわかっていなかった。
そう恥ずかしくてお互いに顔を見ていなかったからだ。
そうして、隣人との騒がしい食事が終わっていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます