第7話 ありがとうといつもの味
「お兄ちゃん、苗とかって」
「積み終わってるよ」
「さっすが!」
「はいはい、おだててもなんにもなんないぞ」
「わかってるって、用意したらいくね」
「ああ」
「すみません、僕はさきに向かってますね」
「はい」
ゆりさんに声をかけた後、僕は軽トラに乗り込んで、先に田んぼに向かう。
苗などをおろして準備をして田植えを行う。
年一回といいながらもいつもの作業を手際よくやっておく。
途中で母親とえり、ゆりさんが合流して、さらには姉さん夫婦が合流して、姉さん夫婦の子供と遊びながらも順調に作業を進めていった。
「そろそろお昼ね」
そう言いながら、母親は作っていたお弁当をだす。
おにぎりに、豚の生姜焼き、野菜炒め、スパゲッティ、卵焼き、焼きそば、から揚げなどいろいろ入っている。
関西特有というべきか、麺類とご飯ものを食べるのは…
そんなことを思いながらも、僕たちは取り合うように、そしていつものように美味しく平らげていく。
タッパーに入っているというのも、家の料理っていう感じで、大雑把という感じで好きだ。
そして、そのときに知ったことがあった…
僕は母親と苗を取りにいく車内で話をしていた。
「本当によかったわね、あんなにいい子が彼女さんで」
「まあ、僕にはもったいない人だよ」
「そうだねえ」
「いや、否定しろやい」
「ええ…」
「それとさあ」
「なあに、急に会話を改めて」
「ご飯いつもありがとう」
「何、急に気持ち悪いわね。もしかして彼女さんを妊娠させたとか?」
「んな、そんなことしてねえよ」
「え、童貞ってこと?」
「あー、もうそうだけども、違うって、今日もおいしいご飯ありがとうっていいたかっただけ」
「何言ってんのよ。わたしのほうこそ、ちゃんと残さないでくれて嬉しいよ」
「そうか?」
「そうよ。ご飯って確かに作るのって凝ったものほど大変だけど、それでも美味しいって食べてくれるだけで、わたしは嬉しいのよ。」
「それはわかる」
「ええー、まあ今は彼女さんに作ってあげているもんね」
そうだとも違うとも思った。
確かに料理を作ってもらっていることを料理を作ることでありがとうと言いたかったのは確かだった。
でもそれだけではない。
今日もご飯を食べるときには、母親は一番最後に食事を食べ始めていたのだ。
まさにみんなの反応を確かめてから食べるというものだ。
みんなが美味しい、そういってから食べ始める母親を見ていると自分も思うところがあったからだ。
美味しいと言ってもらえるだけで、自分が食べるご飯も美味しくなるというのは作った側が当たり前に感じることだったからだ。
それを母親を見ることで改めて知ることができたのだ。
そんなことを考えているのが、たぶん母親には伝わったのだろう、少し笑ってから口を開く。
「あんたはご飯、美味しいかい?」
「ああ、美味しいよ。美味しいって言われてるのが」
「そっか、それがご飯を作る側が一番感じる瞬間だね」
「まあな」
「ただ、それで満足はさせないよ」
「というと」
「あの子、少し細すぎるからね。レシピ教えるから、しっかりと美味しいもの食べさせてやるんだよ」
「わかってる。さすがに経験者は違うね」
「まあ、あんたたちの好き嫌いをなくさせるのも大変だったんだから」
「それは、面目ない」
その後は、料理のレシピを話しながら、僕たちは田んぼに戻ったのだった。
このときの会話を今後も忘れることが絶対ないだろうということを思いながら、僕は久しぶりの母親との会話に夢中になっていたのだった。
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