第5話 大きな家と餃子
電車などに揺られること三時間ほど…
僕とゆりは地元に帰ってきた。
「おお、ほんまに可愛い彼女を連れて帰ってきよって」
「ほんとにね、お兄ちゃんにはもったいなさすぎ」
「うるせえ、うるせえ」
「お邪魔します…」
「そんなにかしこまらなくていいのよ」
「そうそう、あ…お兄ちゃんは前ね。うちは彼女さんと座るから!」
「へんな事言うなよ」
「えー、それはお兄ちゃん次第かな」
「どういう意味だよ」
そんな軽口を叩きながらも、車は発進する。
妹であるえりが一緒に乗ってきているとは連絡もきていなかったので、無理やりというか、強引に乗ってきたのだろう。
確かに電話したときに後ろで、妹が騒いでいるような音が入っていたのも、そのせいだということなのだろう。
ひとしきりの会話を終えた僕たちは車に乗り込んだ。
そして第一声が…
「ねえ、なれそめを聞いてみたいんだけど」
「そ、そんなのねえよ」
「そ、それはあたしが告白して…」
「え…女性から告白させたのこいつ」
「いえ、その一目惚れといいますか…」
「お兄ちゃん…大学デビューでもしたの?」
「この格好でしてると思うのか?」
「いや、思わないね」
「だったら聞くなよ」
そんなことを話ながらも、家につくまでいろいろな話をして、気づけばえりとゆりが一緒に寝ることになっていた。
まあ、手をだすなんてことはできないし、そもそもまだ手も繋いだこともないので、いいのだが…
そして、見慣れた家に帰ってきた。
「大きい」
「うん?そうか、田舎じゃこんなもんだけどな」
家を見るなりそう言葉にするが、周りも普通に大きな家ばかりなので、同じように思える。
確かに都会の家に比べると大きいのかもしれないけれど、それでも地元では普通の家だ。
むしろ、家が大きいと大掃除なんかは大変すぎるが…
家につくとすぐにゆっくり家の周りの紹介なんかをしようと思っていたが、それは母親の言葉で変わる。
「ちょっと、餃子包むの手伝ってよ」
「ええ…ちょっと疲れてるんだけど」
「ほほう、迎えにきたわたしの言うことが聞けないと…」
「く…それを言われてしまうと何も言い返せないのじゃないのか」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。ゆりさんの案内は任せてよ」
「えっと…」
「ごめんな、妹に付き合ってやってくれるか?」
「うん…」
こうして、いつものように手伝わされる流れになりながらも、ゆりを送り出した。
※
「大丈夫そうですか?」
「はい。歩くこともあるかなと思いましてスニーカーを履いてきましたから」
「そうなんですね。こんなにしっかりした人がお兄ちゃんの彼女さんって思うと、さすがにびっくりしちゃうね」
「そ、そんなことはありませんよ」
あたしは連れられるようにして、外に出る。
田舎といっても、もっと田舎はあるよと妹さんも言われていたので、ここがかなりの田舎ではないのだろうけれど、それでもいつもと違う風景にあたしはビックリするばかりだった。
見たこともない風景で、外に出ると、夕方というのもあるのだろうけれど、車の音はそれなりに多いのは少し落ち着く。
いろいろなものを見せてもらった。
「あ、ここねえ、しだれ桜なんだ」
「えっと、管理なんかは?」
「管理?してないと思うよ。」
「えっと?それじゃあお花見なんかをし放題ではないんですか?」
「うーん…田舎の人はそんなにお花見しないからなあ…」
「そうなんですか?」
「えっと、当たり前にあるものだからねえ…」
どこかしみじみと遠い目をして妹さんに、あたしは驚きを隠せなかった。
あたし自身も、花見は高校生になったくらいから、毎年のように友達とそれなりにやってきたというのに、田舎ではないというのだ。
当たり前というのは、都会と田舎でこんなに違うんだ…
そのことを再確認した。
その後に、明日の田植えで使う苗などを見せてもらいながら、家に戻った。
※
「お、おかえり」
「えっと、ただいま」
「たでーまー。何?新婚さん?」
「んなんじゃねえよ…」
「そんなことで照れてるようじゃ、逃げられちゃうよ、ねえ」
「あの、えっと、その…」
「ほら、お兄ちゃん。おかえりなさいのチュウくらいしないと」
「お前なあ、さすがに怒るぞ」
「きゃあきゃあ」
「こら、迷惑かけるなって」
「いえ、その楽しいです」
「そうかあ?ごめんな、妹が迷惑をかけて」
「そんなことは、いつもとは違う風景で楽しかったです」
「そうだよねえ」
「お前は調子にのるなよな」
「あははー」
「まあまあ、お父さんたちももう少ししたら帰ってくるから、まずは焼いていきましょうか、お願いね」
「ほいほい。ゆりは座ってくれ」
「わ、わかったよ」
そして、僕は油をひく。
ホットプレートで焼くので、一気に五十個ほど焼けるので楽といえば楽なんだけど、一気に焼くのにはスピードも必要なので、少し急がないといけない。
まずはホットプレートを温めて、すぐに油をひく。
少し油が湯気を立つくらいに温まったら、餃子を一気に並べていく。
底面が焼けたら一気にお湯を入れて蓋をする。
そして、三分くらいすればほぼお湯もなくなり焼けているのもわかる。
ただ、最後にごま油を流して、香ばしさと底面にカリッとしたおこげを追加していく。
これで完成だった。
「ゆりさんは、何につけますか?」
「餃子のたれかな」
「そうですか、えっとえりは、ポン酢ですあっさり食べるときにオススメですね」
「そうなんですか?えっと、ゆうとは何をつけますか?」
「あー…僕は醤油とポン酢のミックスかな」
「うわ、優柔不断」
「うっさいわい。まあ、いただきます」
「あ、いただきます」
「いただきます。食べるぞー」
そんなことを妹に言われながらも、醤油とポン酢を自分なりの割り方で混ぜる。
なんとなくあっさりしたいときはポン酢がやっぱり多めだ。
そしてしっかりとラー油を入れて食べる。
家での餃子。
少し久しぶりだったそれは具沢山だ。
田舎特有なのかはわからないけれど、キャベツ、ネギ、ニラ、たまねぎと、野菜が豊富で、ミンチ肉はあまり入っていない。
だからこそというべきか、野菜の甘味がしっかりとあって、そこにラー油があう。
さらにあっさり食べたいというか、あっさりした具材として大葉が入っているものもあったりと、ご飯を楽しんだ。
田んぼの水加減を見に行っていた父親もかえってきて、その後はのんびりとすごして明日に備える。
まあ、宣言道理にゆりはえりと一緒に寝に行ってしまった。
仕方ないことだと思いながらも、僕は眠りについた。
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