第3話 おにぎりとご飯粒
最近は食べるのが楽しいと思う様になった。
あたしはこれまでご飯はただ、栄養を取るものだとしか考えられなくなっていたことを今更ながらに痛感した。
誰かと一緒に、その日のことを話しながら、そしてその日の作ってもらったご飯をかみしめて食べることがいいものというのを知っていったのだった。
※
「お、お米がなくなってきた…」
「お米?買ってるやつ?」
「ううん、違うよ。今使っているお米は、入学のときに一緒にもってきたんだけど、そろそろなくなりそうだなって」
「そ、そんな大事なものをあたしは食べさせてもらってたの?」
「違うよ、確かに作るのは手間にはなるだろうけど、おいしく食べてもらうために作っているものだからね。どうせ、次のGWには実家に帰って田植えの手伝いをしないといけないしさ」
「作るって、すごいね」
「どうなのかな…周りは作っている人多かったし、普通かなって」
「そうなんだね」
GWには実家に帰ることを考えても、今日はしっかり目にご飯を使わないとか…
「やっぱり、おにぎりかな」
「え?そんなにご飯使って大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。このまま部屋に置いておくわけにもいかないし、ここで使っておかないとかな」
「そうなんだ」
お米を炊くために炊飯器に二合いれる。
そして水をいれながら、とぐ。
「お米って洗うの?」
「えーっと、普通はね」
「そうなんだ!」
料理をしたことがなければわからないだろう。
それに今では無洗米というものも多く使われているので、それもあるのかもしれない。
そして炊飯を押す。
その間に、中に入れる具材の用意をする。
「おにぎりは、何が好きだっけ?」
「えっとね、ツナマヨだよ」
「お、いいね」
「そう?ゆうとは何が好きなの?」
「梅干しかな」
「渋いね」
「そうかな…」
でも梅干しは美味しいと思う。
味もいろいろあるし、あるよね?
そんなことを思いながらも、ツナを用意する。
まずはということで口の部分を開けると、隙間をあけて、中にある油を抜く。
これでまず油っぽさをなくして、そして少しの塩コショウとマヨネーズをあえる。
「塩コショウをするんだね」
「うーん、しなくてもいいけどするほうが好きだからかな」
「次は?」
「鰹節でつくるおかかだね」
鰹節に醤油をまわしかけ、あえる。
これでよし、簡単だ。
あとは常備していた梅干しと、海苔をだしておく。
「味付け海苔でやるの?」
「うん、こっちのほうが美味しいし、味付け海苔のほうが少し湿っているから、巻くときにに巻きやすいんだよ」
「なるほど、博識だね」
「そうかな?」
感心するゆりの視線を感じながらも、ご飯が炊けるのを待つ。
簡単に具材なんかの用意をしたといっても、二人で用意したこともあって、時間は少したっていた。
その後、二人で少しだけゲームなんかをしていると、炊飯が終わった音がする。
炊飯器をあけた僕は、少しまずまぜた。
そして、手を洗う。
「お、おにぎりにするんだよね」
「うん、のせれる?」
「の、のせる?えっと…」
どうやらゆりは本当にご飯を作るのが初めてなのだろう。
おにぎりでさえ、戸惑っているようだ。
よくラップをしないのかと声が聞こえてきそうな気もするが、確かにラップをしてやるやり方もあるだろう。
でも、すぐに食べるというのにラップを使ってというのも面倒く…もったいないのだ。
だから家でお腹がすいていたときによくやっていたやり方だ。
少しの塩を手になじませると、手際よく少しのご飯を手にのせ、具材をのせ、さらには上にご飯をのせる。
少しの我慢から、すぐに握りにかかる。
左手は真っ直ぐとして、右手で三角を作る。
五回くらいで握る。
「おおー…」
「どうしたの?」
「すごいなって」
そんなにすごいものなのだろうか…
「ゆりもやってみる?」
「うん」
しっかりと手を濡らした状態で、塩、ご飯、具材と乗せたところで、手がぷるぷると震えだした。
僕は慌ててお皿を出す。
そこにおにぎりの残骸を置いたゆりは涙目だ。
「あ、熱すぎるよ…」
「ご、ごめん」
「ううん、これが握れるってすごいね」
「まあ…慣れかな?」
そんなことをしながらも、僕がおにぎりを作り、最後にゆりに海苔を巻いてもらって僕たちは食卓についた。
ちなみに、ゆりがにぎれなかったおにぎりもそのままにしてある。
そのままでも自分の作ったものだから、食べてみたいといったのだ。
「「いただきます」」
その言葉とともに、食べる。
おかかは具材を真ん中に寄せすぎたせいで少し周りがただの握り飯になってしまったが、ツナマヨは美味しく、梅干しは…
最近は梅干しが練り梅で少ししか入っていないということも多いけど、自分で作るということで大胆に二個も入れたおにぎりは美味しかった。
ゆりには入れすぎじゃないと言われたけど、でも僕はこれがちょうどよかった。
そうして食べ終わった僕はゆりの食事を見ていたが、ゆりも食べ終えたのか、ご馳走様をする。
ただ、すぐに僕は注意をしてしまった。
「ゆり、ご飯粒が残ってるよ」
「え…」
言われると思っていなかったのか、戸惑う。
僕も普通のことだと思って注意をしていたので、戸惑うゆりに戸惑ってしまう。
でも、一度言ってしまったことで、それにご飯を美味しく食べてほしい僕は再度口にした。
「ゆりは、ご飯粒くらいって考える?」
「それは…」
「確かに僕も作るまではどうだろうって思ってた。でも食器に残っているものを食べるってことは、それだけでおいしかった。すべてを食べきってしまうくらいにはって考えたりするんだよね」
「それはそうかも…」
「それに、お米は特にさ、作ってるものだから余計にね」
「そうだね」
「五月蠅かったかな?」
「ううん…作っている人が言うのなら、説得力があるよね」
「あはは…美味しいから、残せないし、残したら怒られちゃうことが多かっただけだよ」
「そっか…」
言い過ぎたかなとおもったけれど、ゆりは残ったご飯粒を食べる。
そしてごちそうさまといった後に、あることを言ったのだった。
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