第2話 なんでも入れちゃうのがお味噌汁

なんていえばいいのかわからない。

あたしは一人暮らしはできなかった。

といっても誰かとご飯をちゃんと食べることもなかった。

両親は優秀で、医者の二人だった。

同じように勉強はして、大学に行った。

そのときに出会ったのが彼だった。

すぐに好きになった。

あたしは…



「今日もご飯食べていっていい?」

「えっと…」

「ダメかな?」

「いいけど、材料あったかな…」

「残り物でいいよ!」

「難しいことを言うね」

「そうかな?」

「そうだよ」


彼女は難しいことを言う。

残り物でいい。

確かに作ってもらうほうであればそれでもいいのかもしれないけれど、僕は彼女には美味しいものを食べてほしいのだ。

だったら作るものというのは残りものじゃなくて、しっかりとしたものがいいと思う。

ただ、これがいいと見せてもらったものは…


「お味噌汁?」

「そうなの!これ食べてみたい」

「具材なんかはどうしよう?」

「いろんなのが入ってるのがいい、具だくさんみたいなのが憧れるの、なんていうのかな、冷蔵庫にあるものを入れてみましたみたいなの!」

「そ、そうなんだ」


変わったことを言うなと思った。

お味噌汁に入れるものといえば、簡単なものであれば豆腐、油揚げ、わかめといったところだろうか。

うーん…

でも家にあるものといえば、いつも使っている玉ねぎの残り、卵の残り、じゃがいも、ニンジン半分くらいとお味噌汁にいつも使う乾燥わかめだ。

これでいいのだろうか?

でもなあ…

そんなことを考えていると、後ろから彼女の嬉しそうな声がする。


「ねえ、このお味噌汁にじゃがいもいれるのっておいしいの?食べてみたい」

「じゃがいもなら残ってる」

「本当?」

「ああ」


そんないつでも食べられるようなものがいいのかなと思いながらも、考えなおす。

確かに家で作られていたお味噌汁に入っていたものといえば、旬のものばかりだったということを思い出したからだ。

栄養満点のものを食べるということを考えると、それがいいのかもしれない。

ただでさえ彼女、ようやくゆりと名前を呼べるようになった僕の好きな人は、誰が見ても細いとしか思わないくらいの体形なのだから…


家に帰ると、僕は最初にじゃがいもから皮むきをする。

そして一口サイズより少し小さくすると、ラップをかけて電子レンジにかける。

ごおっと音がなりながら、電子レンジが回る姿に彼女がおおっと少し嬉しそうにする姿に笑ってしまいそうになるのをこらえながら、次にはニンジンを短冊切りにして沸かしていたお湯にいれる。

このときについでとばかりにだしの素も入れておく。


「あれ?ニンジンって、じゃがいもとおんなじように切らないの?」

「ああー、お味噌汁だとさすがにしないかな?」

「なんで?」

「えー…」


なんでだろうと思いながらも、少しして勝手に口が動くというべきか、それはすらすらと言葉にでてきた。


「えっと、火の通りがいいのと、触感かな」

「触感?」

「そうだよ、後はメインが今回はじゃがいもにするから、それにあわせてからな」

「でも煮物だとニンジンは大きく切ってあるのが普通じゃない?」

「確かに、ジャガイモもそうなんだけど、形を残すのとホクホクとした触感を残すときは大きく切るかな」

「今回は違うってことなんだね」

「そうだね。もしするなら、ジャガイモと一緒にチンしちゃうからさ」

「確かに、そうしないと火の通り遅いかも」


そんなことを話しながらも、油揚げを水につけて油抜き、ジャガイモのチンが終われば鍋にうつして少したく。

ニンジンが柔らかくなったときに豆腐と油揚げを入れてさらに少し煮込む。


「こ、これが手の上で切るってわざなんだね」

「まあね」


自慢げに手の上で豆腐を切るが、コツはしっかりとある。

上から下に下げる、簡単にいえば、のこぎりのように引いたりして切らないということだ。

引いてしまうと、手も切れてしまうので注意が必要だ。

もし、難しいし、怖いというのであれば豆腐の容器に入ったままで切るか、手で強引につぶしてしまうのも簡単だ。

後は、卵カッターという薄目に切るもので交互に切るのもいいと思う。

というか確か、最初はそうしていたような気がする。


そんなことをふと考えながらも、煮込み終えて、火を止めたらわかめを入れて、しっかりと戻れば、お味噌を入れる。


「ぶ、分量ってみないの?」

「えっと、勘かな?」

「プ、プロみたいだね」

「そんなことないよ。でも…」


こうやって目分量で入れることで、その日の味というか、それが決まっていいものだ。

お味噌汁なんて特にそれが強かった。

その日の気分というべきか、感じた濃さで作るものだった。

湯気をたて、出来上がったお味噌汁を前に座る。


「「いただきます」」

「わあ、ホクホクだあ」

「ふふふ、じゃがいもだね」

「これが、食べたかったの」

「それはよかった」


半分まで食べたところで、七味を少しいれた。


「何、それ!」

「味変だね」

「えー…七味って、豚汁に入れるものだと思ってた」

「結構おいしいよ、後はこれとか」

「ごま油!そんなのも?」

「うん、味変だね」

「へええ、プロだね」

「あははは、そうかも」

「今、ちょっとバカにしたでしょ」

「そんなことないよ」


そんなことを話しながらも、僕たちは食卓を一緒にする。

作りすぎたお味噌汁で梅雨の前の暑さを感じながら…

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