彼女に食べてもらう手料理は結局思い出の味

美しい海は秋

第1話 思いを伝える、オムライス

大学生になった。

田舎から少し都会にきて一人暮らし、慣れないことだらけではあったけど、それでも楽しいこともたくさんある。

一番よかったのは人生で初めての彼女ができたことだろう。

そして今…


「ねえ、何を作ってくれるの?」

「オムライスかな」

「えー、好き!」

「ありがとう」

「もうゆうとのことじゃなくて料理のことだよ」

「え、あの…」

「むう…」

「あはは…」


僕はまだ彼女であるゆりに好きという言葉を口で言えてなかった。

それは恥ずかしいということもあるが、素直に言ってくれる彼女に僕が恥ずかしがっているだけだ。

告白してくれたのも彼女からで、僕はまだメールでしか好きという言葉を言えていない。

今日は勇気を振り絞っていうためにも、大学生になって少しずつ始めた自炊の中でもうまくなってきたオムライスを作る。


オムライス。

簡単にいえば、卵ののっかったご飯。

完全に男目線であればその程度の認識なのかもしれない。

でも違う。

まず、ご飯。

ケチャップなのかバターライスのようなものなのか、それだけでも違うし、卵は卵で固さを選ぶことになる。

かけるソースだってケチャップかデミグラスで選んだりする。


学生で初めて作るオムライスでさすがにデミグラスも自作でみたいなこともできないし、僕はそもそも子供舌みたいなところもあるので、作るのならすべてケチャップだ。

でも美味しく作りたい。

美味しく食べてもらいたい。

工夫はなくても、初めて好きな人に食べてもらうものならばと考えて作るのであればだ…


まず玉ねぎをみじん切りに、鶏肉は胸肉。

安くて学生にはありがたい。

大きさは一口サイズよりもさらに小さく。

子供のときにはお肉ばっかり食べたくなったっけ…


「何か手伝おうか?」

「ううん、いいよ」

「ええー、でもあたしは彼氏と一緒にご飯を作るって少し夢だったんだよね」

「そっか、それなら炒めるのを手伝ってもらおう」

「任せて」


嬉しそうに腕まくりを始めた彼女を見ながらも、まずバターを落とす。

ケチャップライスにするとしても、やっぱりバターは多く使うのが美味しいのだ。

お肉から、野菜の順に炒める。

少し塩コショウをふり、味を少しつけてからご飯を投入する。

炒め合わせて、ある程度炒めたら、ケチャップをかける。

ここでポイントは、ご飯をおいやって、真ん中にスペースを作ってからいれることだ。

これで少しケチャップの酸味が飛ぶ。


「こんなテクニックがあるんだねえ」

「まあ、母さんにね」


あ…

こういうことを母親に教わったって下手に口をしないほうがいいんだっけ…

そんなことを思っていたが、彼女は嬉しそうに笑う。


「いいなー。あたしは危なっかしいからって作らせてもらったことないいんだ」

「そういう感じなんだね」

「だから、こうやって作れるのは嬉しいんだ」


そんな言葉とニコッと笑う彼女に、僕は照れてしまう。

ケチャップライスができたらご飯をお茶碗にもり、半円にする。


「おおー、これに卵を乗せるって感じなんだね」

「うん、そうだね」


それを見て、顔を輝かせる彼女に僕は戸惑いながらも、卵をどうするのかを考えた。

よくあるお店のフワフワ卵。

半分に切ってできるものと普通であれば思うだろう。

でも簡単ではない。

特に今使っているのはキッチンでは難しいのだ。


「ねえ、これって難しいの?」

「そうだね、ガスじゃないとかな」

「た、確かに動画見てるとガスで作ってるのばっかりだね」


そうできるにはできるが、一人暮らしであり自炊をするとなれば、使うのはIHや電子レンジが簡単でいいのだ。

だからそういうものはそろっているのでガスがなかった。

というよりも、ガスは高いと親に怒られてしまったのだ。

あと、請求が電気のほうが一括で払いやすいと言われたのだ。

こういうところはバイトをしているからといっても、お金を出してくれている親に従うのは当たり前のことだ。

という関係のないことを考えながらも再度バターを溶かした。


「バターってこんなに使うんだね」

「あ、油がすごいかな?」

「ううん、作ってるところを初めて見たから気になっただけだよ」

「そ、そっか」


彼女にトロッとしたオムライスを食べてもらいたかった僕はしっかりとバターを溶かした後に、溶き卵を流す。

最初にかき混ぜる。

といっても数秒で、次に少しでも膨れてくればそれをつぶす。

焼いて三分くらいでとんとんとフライパンをゆらし、しっかりと底面から剥がれたのを確認したらケチャップライスの上にのせる。


「おおー」

「出来上がりかな」

「うんうん、食べよう」


二人分を作り終えた僕たちは手をあわせた。


「「いただきます」」

「ふふーん、まずはあたしが書かせて」

「え!」


かけようとしたケチャップを奪われる。

あっと思ったころには初めてなのだろう、キレイではないけど、好きという言葉が書いてあった。

ニコニコとこちらを見ている。

なんと書くのが正解なんだろうか…

やっぱり好きと…

ただ緊張で気づけばぐちゃっとした文字になる。

辛うじて好きと読めるくらいだ。


「ご、ごめん、交換しよう」

「いいの。気持ちが嬉しいんだからね。それに一緒にいただきますができて、ごちそうさまができるのがあたしは嬉しいんだから」


そうしてオムライスを食べ始める。

初めて食べたオムライスの味はバターが少し濃くて、でも笑顔で食べる彼女を見て食べると美味しく感じて、誰かのために作るご飯が美味しいのはこういうことなのだということを感じたのだった。

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