堕ちる①(5月上旬)

あの日は、5月の始まりに相応しい快晴だった。


クラスメイトたちが去った後の教室で、私は1人、小説の頁をめくっていた。とびきり暗くて陰鬱な私小説。薄い生地のカーテンが、風に持ち上げられてふわっと広がる。唐突に、自分は空っぽだと思った。

「あれ、まだ教室に残ってる人いたんだ」

私が感傷に浸っていると、後ろの引き戸がゆっくりと開き、1人のクラスメイトが姿を表した。

「宮水じゃん。何してんの」

「んー、哀愁感じてた」

「へえ」

「聞いてきたわりに興味なさそう」

「いや、宮水が哀愁って言葉を知ってたことに驚いてる」

「もしかして私、バカにされてる?」

「毎日ノリで生きてる感じじゃん。宮水って」

「あー、処世術?」

「何それ」

ニヒルな笑みを浮かべたこの女は、美少年のような見た目に女子校という環境も手伝ってか、一部の生徒の間で熱狂的な人気を誇っていた。

「瀬奈ってやっぱかっこいいね」

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