第48話 忙しい生活

   ~~ 告白 ~~


 ボクは山小屋で、フィアと向き合っていた。

 彼女がどうしてこの世界に生まれたのか? なぜ記憶がなかったのか? ボクが知ってしまったことを、彼女に伝えるために……。

 デズの人工授精、人工胎盤、そういった技術により、フィアは生まれた。彼女は実験体の一号。だからそれが、生命として確実なものかどうかを見るため、そのまま育てられた。

 恐らく、ギルドはその事実を知っていた。そして、記憶を奪われた第一号が、デモネス卿へと払い下げられたことを知り、その奪取をボクに委ねた。それは、ボクの下にいることが安全でもあったから。

 いずれ、デズの犯罪的行為を明らかにするためにも、フィアを生かしておく必要があったのだ。

 だから、彼女はボクに預けられた。

 フィアが、獣人族が虐げられていることに心を痛めていたのも、きっと小さいころから自分の弟、妹たちが無体に殺され、利用されていくのを眺めていたからだろう。記憶を消された後も、潜在的にそれを心の中にもっていた……。


 フィアは泣いていた。でも、それは悲しいばかりではなく、彼女は笑顔をみせた。

「生い立ちは悲しいものだったのかもしれない。でも、それを知ることができて、私は幸せです。そして、今こうしている。そのことにも私は幸せを感じています。だから、大丈夫です」

 ボクの胸に、フィアは顔をうずめた。今はこうして、一緒にいる相手がいる。抱きしめてくれる相手がいる。

 彼女にとっては、それが嬉しいはずだ。ボクも黙ってその体を、優しく包んであげた。

「どんな生い立ちだって、フィアはフィアだよ」

 彼女が最初にこの山小屋にきたとき、彼女は自分の名を「フィアウェル」と名乗った。きっとそれは、正確には『フェアウェル』、それは別れの言葉だ。恐らく、デズによる実験体から、売り払われたときに、誰かが彼女に別れを告げるためにそう声をかけたのだろう。それを、自分の名前かもしれない……と思っていたのだ。

 それもまた、悲しい記憶だ。

 でも、フィアはフィアだ。フィアには『美しい』という意味があり、彼女はまさに美しく育った。それは心も……。




   ~~ 結婚 ~~


「両親も、絶対に結婚しなさい、と後押しをしてくれたわ」

「一応言っておくと、ネルに手伝ってもらっての勝利だからね」

「それでも、鬼人族を倒せる人族なんて、もうお婿にもらうしかない、と……」

「あれ? 婿にいくことになったの?」

 ザビが迫ってくるので、ボクも這う這うの体で逃げている。それはこの短期間で鬼人族を次々と倒した、そんな強さを求めて結婚したい、というザビが目の色を変えて結婚を迫るようになったからだ。

「嫌、ダメだ。結婚は我が姫としてもらう」

 今日はエドリーも山小屋に来ている。面倒なのは、彼女はボクに主であるナナリーと結婚させよう、としていることだ。そして、ナナリーの影武者である自分も……という魂胆もあるのだろう。

 ナナリーも満更ではないようだけれど、彼女は王族であり、王族に手をだしたボクとはしばらく距離をおくつもりだ。

 何しろ母違いとはいえ、彼女の兄、それにその母親を倒したのだ。今は国家の敵、となっている。ただ、ボクが喧伝した「鬼人族を倒す冒険者」の噂によって、今は国家も安泰だ。それで、処分を決めかねているところはあるのかもしれない。

 何しろ、ボクは望まないうちにこの国最強、という称号を手に入れてしまっていたのだから。


 動物病院の方も順調だ。最近では、鳥型の獣人族であるミズクの影響か、鳥もよく訪ねてくるようになった。

 露天風呂形式にしているので、そのお湯で水浴びをするためだ。口コミで、お湯での水浴びは気持ちいい、と広まったのかもしれない。毎朝、鳥たちが順番待ちをして水浴びをしていく。

 また、動物たちにもフィアの優しさが伝わるのだろう。ボクがいないときでもよく通ってくる。それはもう病院ではなく、セラピーと同じで、ここにくつろぎに来ているのと同じだ。

 ルゥナは最近、果樹にはまっている。畑の方が軌道にのり、手が空くようになったのと、ナナリーの町で食べたデザートがおいしくて、それを再現しようと試みているのだ。

「ここも随分と充実したな」

 そういって、懐かしそうに目を細めるのはナナリー王女。以前、ここに隠れ住んでいたことがあり、今日は久しぶりの訪問だ。

「あれから、国は変わった?」

「変わったよ。父王が元気をとりもどしたのは、第二夫人が毒を盛っていて、それが止まったからでは? なんて噂もあるけれど、とにかく元気になって、国政に復帰したことで、よい方向になっている」

「第二王子が白痴になったことは?」

「謎の冒険者との遺恨があり、それに負けて仕返しされた……。もっとも、その謎の冒険者を怖れ、他国も近づかない。王位継承レースでは動きがあったが、それ以外では問題ないよ」

 ナナリーは声を潜めて「ただ、私にも跡目争いの目が向けられるようになって、困っているけれどね」


「エドリーは、キミと結婚させようとしているようだ」

 ナナリーは怪しい目を向けてくる。

「結婚はしばらく勘弁です。ボクはまだその気は……」

「私としては、謎の冒険者をとりこんで、国の基を盤石にするのも悪くない、と考えているのだが……」

 ボクは慌てて山小屋をとびだした。ナナリーが本気で、ボクを婿にとろうと考えているとは思えないけれど、ボクの力が無視できなくなってきたことは確かだ。

「私と結婚するのん!」

「私と! 私と!」

 ザビが来てから、ルゥナもミズクも結婚を意識するようになっている。女の子が四人でいるときには互いに牽制し、口にはださないけれど、今日はナナリーがエドリーを連れ、お忍びでくるなど、意識しやすくなっているのだろう。

「二人とも、困らせちゃダメですよ」

 そう言いながら、フィアが近づいてきて、ボクにすっと腕をからめてくる。

「みんなで結婚しましょ♥」

 自分の生い立ちを知って、フィアも気持ちが吹っ切れたようだ。そういって明るく笑う。

 こうして今は平穏な生活だけれど、まだ他の国にいった鬼人族もおり、命をつけ狙われている。もっとも、閻魔様少女からもいわれたように、ボクは勝ち残っていくことを宿命づけられているようだ。襲ってきても、戦って勝つだけだ。

「結婚しよう!」

 みんなから迫られ、ボクもたまらず逃げだした。無為に過ごした前の人生、それと異なるここでの生活は、とても充実していて、楽しかった。ただ暗殺者、テイマ―、それにハーレム……。これからも、ボクの異世界生活は忙しくなりそう……ということだけは間違いなかった。






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暗殺者、テイマ―、それにハーレム。ボクの異世界生活は忙しい。 巨豆腐心 @kyodoufsin

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