第47話 鬼人族の親子
~~ デズとの戦い ~~
ネルの教えだ。波動には……。「カウンターバルス!」
波動を打ち消すのは、波動。逆位相の波動を、カウンターで合わせてやれば打ち消せる。何度もパルス波を当てられ、それを計算することができた。
「ほう? なら、これはどうだ? ソリトンパルス!」
ボクも慌ててそれを避けた。ソリトン……、孤立波だ。それはカウンターでも消すことが難しい。当たれば体がバラバラにされるほどの衝撃となる。
ただ、この攻撃は一直線で、また一瞬だ。その刹那、当たらなければよい。しかし当たった時の衝撃はすさまじく、柱、壁など石づくりのそれを大きく削る。
鬼人族は魔術に長けるけれど、それが強さの本質ではない。彼女は遠距離攻撃によって、試しているのだ。ボクという暗殺者の力量を……。
異世界に転生し、欲望を満たすために力をつかう。当たり前にそういう考えの者が多いだろう。
獣人族をケモノとみなし、自らの欲望のために自由にする。転生者としてありがちだけれど、逆にいえば、ここでの振る舞いもよく弁えている。力をもつ相手を侮れば痛い目をみる。それが、異世界モノの定番だ。
柱の陰に逃げ込んで「やっぱり強いな」と声をかけた。
「ふん……。ジャバを倒した、というから、どの程度の相手かと思ったけれど、逃げ回るばかりか?」
「魔法によって近づけないようにしているからだろ? 肉弾戦が怖いのか?」
「ふふふ……。安い挑発ね。自分を強化する方に魔力をつかっているけれど、遠距離攻撃は苦手なのかしら? それとも、何かを狙っているのか……?」
「必殺技を最後にだす。それが、異世界モノでの主人公の定番だろ?」
「ここに来た者は、誰もが主人公だと勘違いしがち。でも、ここも世界であるからには、そうそう主人公なんてなれない。ジャバ、それにジザを倒したぐらいでいい気になるな!」
攻撃が苛烈となる。隠れた柱すら折られそうだ。
「ボクは主人公じゃない。そんな大それたものになるつもりもない。ボクは、暗殺者で、テイマ―で、そして女の子たちと仲良く暮らせればいい。その世界を壊そうとするオマエを、倒すだけだ」
ボクは柱の陰からでると、一気に突っこんだ。とにかく、触れないことには勝てないのだ。
「ふふふ……。主人公きどりで、そんな暴走が通用すると思うなよ!」
デズも腕を構えた。でも、そのとき天井から降ってきて、デズの頭に貼りついたのはスライムのネルだ。
魔法で辺りを警戒しつつ、戦っているデズに悟られないよう、少しずつ魔法キャンセルをつかい、近づいていたのだ。
「残念。この物語の主人公は、私!」
魔法なら鬼人族とも対等のネルが、わずかな間でもデズの動きを止めてくれた。この隙にボクはデズの顔面をつかんだ。
「ドミネート‼」
デズはすべてが裏返しになっていた。眼球、皮膚、内臓に至るまで、裏返っているのだ。動くだけで激痛が走り、呼吸すら苦しい。ナゼなら肺とて裏表、ひっくり返っているから。
生きることさえ苦痛、もう力をふるうことさえできない。というか、もう人の姿をしておらず、ただの肉塊にしか見えなかった。
「やったわね」
ネルの手伝いがあって、初めて倒せる相手だ。そう、ボクは主人公なんかじゃないから、一人で何とかしよう、なんてハナから考えていないのだ。
「王都にある、獣人族をまるでモノのように作るところを壊そう。それで、こうした蛮行も終わるはずだ」
ボクと、ネルの二人でかかれば、製造工場など一瞬にして塵芥だ。ただ、ボクらの戦いはこれで終わるわけではない。
~~ 因縁 ~~
ロクシオンの町――。
国境付近にあり、城塞都市のようなものだ。ボクとネルはそこにやってきた。
「やはり来たか……」
因縁の相手、ボクを殺した……殺されかけたジャバだ。
「いい歳こいて、母親の命令には従順か?」
「黙れ! キサマを殺すことこそ、国の防衛に役立つ。だから従ったまでだ」
「自分たちだけが国を守っている……と勘違いしている。おめでたい筋肉バカだな、オマエは……」
「何だと!」
「兵士だって必要だ。食料をつくってくれる、獣人族だって国を守っている。森を豊かにする動物、花粉を媒介して植物を育てる昆虫、それこそ植物だって、国をつくる礎だよ。目先の戦争で勝つことだけが、国を守ることじゃない」
「戯言だ! 戦争に勝たねば、他国に支配され、民どもは塗炭の苦しみに苛まれることだろう。それを守っている我らを敬い、崇め、尊ぶことこそ民の使命。それ以外のことはない!」
「ただの筋肉バカだと思っていたら、自分大好きおバカだったか……」
怒りで、大股で近づいてきたジャバに対して、ボクは手を上げた。
「ドミネート」
ジャバは鬼人族の血をひく……といっても、人族の血を半分はひく。その相手であれば遠距離でもドミネートが利く。
気が抜けたように、ジャバはそこに跪いた。前回は、ナナリーとの約束でドミネートはつかわなかったが、今回はちがう。
すでに、一度殺そうとしてきた相手を、返り討ちにしたまでのこと。
「殺しはしない。でも、死んだ方がマシ、と思うほどの精神的苦痛を味わってもらう。大丈夫さ、89年間も音だけの世界で生きるより、よほど生きていることを実感できるだろう」
呆けた顔をしているけれど、ジャバは時おり顔をひそめ、白目を剥いて泡を吹く。
「この男には、悪い夢をみさせておいた方がいいのかもね」
ネルもそう呟く。
「夢の中では、母親に虐げられた過去を、改めてほじくり返されているだろう。これが本当の鬼婆ってね」
ただ、ここでジャバが倒れることは、ある意味で国の危機である。隣国との境の町にジャバがいたのも、そういうことだ。それをナナリーも懸念していたのであり、そこにボクは一つの策を練っていた。
それは、ジャバを倒した男……として、ボクのことが鳴り響いたときのことを思い出したのだ。
そこで、自ら噂を流した。
ジャバを倒した冒険者は、鬼人族の第二夫人も倒した、と。
しかも、その冒険者は動物を守り、自然を愛し、それを蹂躙し、自然の理を覆す者を赦さない。人間の都合で戦争をしたり、動物たちが暮らす環境を脅かすのは、如何なる者であろうと、例え鬼人族でさえ駆逐する……と。
その噂が、国の内外を越えて広まることを期待する。ナゼなら、鬼人族に転生した者は、この国ばかりでなく、他国へと向かった者もいるだろう。それがどれぐらいの人数になるのか?
そんなことは分からない。でも、鬼人族に転生しようと、自分たちが最強でない、無双できる状況でない、と知らしめれば、それが抑止力になると考えていた。安易に手をだすのは危険だ……と。
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