第46話 対決

   ~~ 王都 ~~


「彼女は、あなたが倒したサン・バルラの鬼人族、ジザの研究の中でもあった、獣人族量産計画の中で生まれた子」

「人工授精、人工胎盤の技術でうみだされた、獣人族……?」

「実験体一号、といってよいのか……。その技術を与えたのが、ジャバの母親、デズなのよ。彼女が国王に嫁いだとき、そうした実験をはじめた。誕生した彼女が生かされたのは、それが生命という形で確実に生き残ることを確認するためだった。

 あそこまで生きて、実験としては成功。だから記憶を消されて、トールブの町のデモネス卿に払い下げられた。私たちはその動きを知って、あなたを招聘し、デモネス卿を討った」

 彼女を生かしておくことは、デズの犯罪を証明することにもなる。

「もしかして、デズはもっと多くの獣人族を生みだしている?」

「そして、ある者はシークネイアに売り渡されて、動物のようにただ人間に奉仕する者としてこき使われたり、それこそ殺して肉を食ったり、獣人族の量産によって人族の生活が担保されている。それが今の王都」

 第三王女のナナリーはそれを知らないのか? もっとも、彼女は町の経営に忙しくて、王都に帰るどころではないのかもしれない。

「それは、第二夫人のデズを殺せば止まるのか?」

「一先ず……。第一王子のガリオが王都を離れ、それがさらに加速している。その状況は止められると思う」

「分かった。ボクも因縁のある相手だ。鬼人族だと、敵うかどうか不明だけれど、その依頼、うけるよ。暗殺者として」


 王都・ニージェ――。

 ネルを伴ってここに来た。魔獣であるスライムを連れてきて、町に入れたのはギルドの手引きのお陰だ。王城と呼ばれる中心の高台には、見晴るかすばかりの城砦が聳えており、ボクはそこに侵入している。城砦の外は獣人族が暮らし、様々な仕事に従事しており、城砦にいるのは貴族などの人族だ。

 それは王都の中で、獣人族の促成工場などがあれば、獣人族を立ち入らせることなどできないだろう。バルラ教徒という、宗教的紐帯により結ばれた、秘密を共有する組織ではないのだから……。

 これまで鍛えた暗殺スキルで、ボクも城の中をすすむ。広い城砦だけれど、ギルドから地図を渡されている。さすがに、リクィデーターの案内を期待できないが、地図はかなり詳細で正確なので、隠れながら進むことができる。この辺りは第一王子からの情報もあるのだろう。

 第二夫人の居室へとやってきた。

「入りなさい」

 部屋に近づいただけで、そう中から声がかかった。どうやら、忍びこんで暗殺……という手はつかえないらしい。諦めて堂々と扉を開けた。

 そこには、部屋の中に噴水があり、金箔を張り巡らせた柱など、贅の限りを尽くした部屋があった。

「ギルドの回し者か?」

 奥からそう声がかかり、近づくと、まるで二十代かと思うような女性が、美しいドレスでそこにいた。でも、ジャバがもう三十近いのであって、人族の年齢に直すと五十はいっているはずだ。鬼人族の年の取り方は、人族と変わりないはずなので、ジザがそうだったように、若さを保つよう何らかの手をつかっているのだろう。


「ギルドの暗殺者を、撃退した経験があるようだな」

「撃退? 蚊を追う払うよりも容易いことよ」

 ドレスの下は、引き締まった筋肉だろう。魔法もつかえ、また年齢に応じた経験値も高い。その余裕がにじみ出ていた。

 おでこから生えた角は四本。小さいけれど、それが鬼人族の能力を示すらしい。四本というのは里の長クラスだ。

「獣人族を、人工的につくりだしていたようだな」

「奴らはケモノだよ。それを自由にして、何が悪い?」

「転生者らしい言い分だな……」

 それにはデズも目を細めた。「キサマも転生者か?」

「人族に転生した者だよ。そして、オマエたちが殺そうとした相手だ」

「ジャバは殺し損ねたのか? 相変わらず、つかえない息子だこと……」

「他人に大事な行動を委ねることの方が、つかえない上司ってことだろ?」

 デズの目つきが変わった。




   ~~ 第二夫人 ~~


「ほう……。口の減らない相手のようね」

「生憎と、人でなしにつかう敬語も、媚び諂うだけのひねた心もないもので」

 売り言葉に買い言葉。むしろ、煽り言葉といってもいいけれど、相手を怒らせようとしているのだ。

「ふふふ……。目上の者を敬う、という基本的なことですら、前の世界から引き継がなかったようね」

「その言葉、大っ嫌いなんだよ。目上の者は、敬われるようにふるまうべきだ、というのが正しい。目下の者だけに努力を強いる言葉なんて、腐った目上の人間からの押しつけでしかない」

 デズはゆっくりと立ち上がった。彼女も、言葉では埒が明かないと気づいたようだ。それは転生者だと、それなりに年齢を重ねた相手であり、いくら若く見えても口が達者だから、でもある。

 しかも、ボクは98歳の大往生。耳だけはずっと生きて、色々と思考を重ねてきたのだ。

 相手が何者だろうと、口で負ける気はしない。

 でも腕力、魔法勝負だと勝てる見込みがない。

「ショットパルス!」

 デズの魔法は、一瞬にして体を圧殺しかねないほどの、衝撃波だ。魔力キャンセルを入れても、体が吹き飛ばされた。魔力は最初に籠めるだけで、衝撃波はそのまま伝わるようだ。

 背中のキズとて、ふさがっているとはいっても、まだ痛むぐらいの回復だ。背中を柱にたたきつけられ、思わず血を吐いた。


「ふふふ……。やはり脆弱だな。どうして人族などに転生した?」

「そういう選択肢がなかったんだよ。アンタたちとちがって、最初からハンデがあったのさ。だから鍛えた。それが人間だろ? オマエたちのように、最初から鬼となって努力を怠ったヤツより、よほど人間っぽい」

「転生したなら、その効果を最大限つかってこちらの世界で楽に生きる。それこそ人間だ」

「なるほど……。そんな奴ばっかりだったから、オレのときはその特典がなくなったんだよ」

「それは残念だったね。でも、ここでキサマの異世界生活も終わり。無双もできず、最強も名乗れず、スローライフでもしていれば、短命に終わることもなかっただろうに……」

「スローライフはしているさ。偶に、暗殺者だ」

「なるほど……、じゃあもう死ぬべきね。ショットパルス! ショットパルス! ショットパルス!」

 離れたまま、決着をつける気だ。ボクのドミネートは、鬼人族だと接触していることが必要だから、このままだとじり貧だ。いくら強化をしても、堪えられるレベルの魔力の差ではなかった。










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