第44話 復活

   ~~ 転生者の存在 ~~


 閻魔様・少女は悪ふざけをしたときのように、舌をだし、頭をこつんと自分で叩くふりをしてみせた。

「ボクが転生者を殺すことで、あの世界の秩序を保とうとした?」

「概ね、当たり」

 少女はため息をついてから、語りだした。

「人手不足だから……と、転生者を集めてあの世界に送り込んでみたら、秩序が崩壊しかねない事態になってきた。そこで、元の世界でチート能力をもち得そうな人生を送っていた、あなたを見つけて……」

「やっぱり……。ボクの元の世界の人生が影響して、チート能力とやらが与えられていたのか……」

 それは89年間も寝たきり、植物人間だった者など、他に類をみないだろう。ドミネートをつかえた理由……。これではっきりした。

「このドミネートをつかって、鬼人族となった転生者を殺して欲しいのか?」

「そう。もう二人も倒したしね」

「ジャバとジザ? でも、ジャバは転生者なのか? 第二王子だけれど……」

「彼の母親が、転生者なのよ。むしろ、その母親があの世界の秩序を少しずつ変えようとしているの」

「もしかして、ボクを殺したのは……ジャバ?」

「それには答えない。だけど、転生者たちも気づき始めた。鬼人族に対抗できる人族なんて、それこそ存在するはずがないのに、それが現れたことで、何かおかしい……と」


 ジザは獣人族を人工授精、人工胎盤でつくりだし、その赤児の血をつかって若さを保とうとしていた。それもドラキュラ伝説に範をとったものだとしたら、元の世界の知識を悪用……、もしくは誤用した、と言えるのだろう。

「でも、ボクが死んでしまったら、その目的は果たせなくなる」

「そうなのよねぇ~。チート能力を私は与えられない。元の世界で、あなたがかなり特異な人生を歩んだからこそ、その能力をもち得た。そんな人、今後二度と現れないだろうし……」

「じゃあ……」

「でも、私の力で生き返らせることはできないのよ。そんなことをすれば、世界全体のルールに反する」

 がっかりする。閻魔様でも、生き返らせられないのなら、もうダメだ……。

「だから待っているの。あなたを復活させられるかもしれない……」

 そのとき、かなり小さくだけれど、エコーがかかったように聞き取りにくいが「リストレーション!」という声が聞こえてきた。

 ボクの体がぶるぶると震えだす。強烈に全身が何かに引っ張られるようだけれど、ここに留まろうとする力もある。

「憶えておいて。あなたはもう、彼らにとっての敵。逃げることは赦されない。戦って、勝ち残って!」

 閻魔様のその言葉を最後に、ボクは意識が遠のいていった。




   ~~ 蘇り ~~


 ふと目を開けると、ボクは森の中にいた。ゆっくりと体を起こすと、背中にびりびりとした強い痛みはあるけれど、生き返ったことを感じた。

「起きたわね」

 そこにいたのは、スライムのネルだった。

「復活……させてくれたの?」

「死んでいたからね」

「そんな魔法、あるの?」

「ないわよ」

「…………え?」

「多分、あなたなら復活するんじゃないかと思って、あらゆる魔法を試してみたけれど、結局それはできなかった。でも、復活したのよ。あなた自身が」

「どういうこと?」

「未練たらたらで、三途の川を渡る直前で踏みとどまっていたんでしょう。死ぬほどのキズ、出血だったのに、魂は消滅することなく引っかかって残っていた。だから傷を癒して出血を止め、心臓マッサージをするように魔法をかけつづけた。そうしたら蘇ったのよ」

 もしかして、閻魔様があそこにボクをとどめていたのは、死後の世界とやらに行くのを止めようとしていたためかもしれない。

「それと、彼女たちにも感謝しなさい」

 起き上がると、ボクの周りにはフィア、ルゥナ、ミズク、それにザビもいる。ただみんな、疲れ切ったように眠っていた。

「少しずつ魔力を別けてもらったのよ。それに、ミズク以外からは、血ももらったしね。偶々、三人が輸血できたから助かったようなものよ」

 ボクが襲われたことを知って、ネルがみんなを連れてきたのだそうだ。

 

「ネルは……もしかしてボクの使命、知っていた?」

 ボクは気になって聞いてみた。それは、いくら母親犬からボクのことを頼まれたとしても、ずっとボクの傍にいる。魔獣であるスライムがそこまで人間と……とは一般的に考えにくいことでもあった。

「知っていた……というわけじゃない。でも、気づいていた、というべきね。ただ確信があったわけじゃない。むしろ、それに気づいて、あなたに協力するのが妥当、と判断したまでよ」

「それは……転生者である鬼人族を倒すことを望んで?」

「あいつらは、この世界の秩序を崩す。それと対抗できる能力をもつあなたを育て、協力する。別に打算ではなく、それが良いと判断したまでよ」

 母親犬からボクの話を聞いて、ネルが協力した。この子を強く育てて欲しい……という願いに。

「だから鬼人族の里にもついてきたんだね」

「転生者はもう村をでていたことを知っていたけれどね。心配だからついていった。転生者でなくとも、鬼人族は一廉の相手。もう少しあなたが成長してから、鬼人族とは対峙すべきだと思っていたし」

「ネルなら、転生者と戦っても勝てるのでは?」

「魔法対決ならね。でも、戦闘力が段違いだもの。私だって勝てる見込みはない。でもあなたの能力なら……」

「ドミネートは鬼人族でも効く。なるほど、この力で対抗できるまで、自分を鍛錬しないといけない、ということか……」

「私はそれ、と見込んだからこそ、あなたを育ててきた。期待を裏切らないでよ」

「ネルに、何となく導かれていたんだね、ボクは。暗殺者になったのも、そういう方向に導いたんだろ? いずれ鬼人族と戦わせるために……」

 ネルは何も言わないし、表面がつるんとして分かりにくいけれど、ニヤッと笑ったような気がした。


 眼を覚ました皆は、泣きながら抱きついてきた。

 死ぬほどの重傷を負った……と聞いて、駆け付けてきたのだ。みんな、輸血をしてくれるなど、ボクが生き残るのに尽力してくれたし、何より心配してくれたことが嬉しかった。

「みんな、ありがとう」

「よかったのん! よかったのん!」

「心配したんだからね!」

 ルゥナもミズクも泣きじゃくる。フィアとザビは、比較的落ち着いているけれど、それは二人が取り乱すため、冷静さを保とうとしているようだ。

 ボクも今回のことで、よくよく思い知った。元の世界では、鬱々と時を過ごし、早く死にたいと思っていた。でも、ここではちがう。命には限りがあり、その時々を大切にしよう、と……。


 

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