第40話 デート
~~ 昼の部 ~~
「最初はザビなんだね」
「山小屋に来た順番の、逆だからね」
どうやら4人でそう決めたらしい。ザビ、ミズク、ルゥナ、フィアの順にデートをするようだ。
ザビは晴れ着のような、艶やかな和装であり、これでマスクをしていなかったら、よく似合っていただろう。鬼人族で、角があると周りを威圧するためには仕方ないのだけれど、これが本当の角隠し……?
ボクの手をそっとひくと、袖の中に隠すようにする。そこではしっかりと手をにぎるので、慎み深さを感じさせる演出だ。
「私は……自分でいうのもなんだけど、がさつな女だ。力仕事なら自信もあるが、女性らしいことは何もできない。デートをしよう、とみんなで話し合ったけれど、何も思いつかなかった」
「ザビはそれでいいんじゃないか。小さいころから、家の中で大切に育てられたことは、キミの家に行ってよく分かった。これから少しずつ、女性らしいことを覚えていけばいいんだよ」
彼女はうれしそうに、体を寄せてくる。まだエッチをしたことはないけれど、それは彼女の準備ができていないからだ。正妻の座を射止める、といってうちに来たけれど、彼女もまだ若く、踏ん切りがつかない。それができるまで、まだもう少し時間がかかりそうだった。
ミズクはフリルのついた、可愛らしい服をえらんだけれど、ナナリーの町にある名物の巨大滑り台、巨大ブランコなど、遊びに夢中だ。いずれも木製だけれど、向こうの世界の知識が感じられるもので、遊具の少ないこの世界で、数少ない子供たちの遊び場だ。
ミズクは獣人族だけれど、鳥型で耳や尻尾が目立たない。一緒にいると親子……はちょっと難しいけれど、兄妹には見えるだろう。
でも滑り台では「一緒に滑ろう」といって、ボクの足の上に跨ってきた。ふつうは前にすわったミズクの後ろに、ボクがすわればいいのだけれど、子供用のそれだとボクには小さい。むしろ、そうなることを狙ったかのように、ミズクはボクの股間に自分のお尻が当たるように位置し「行け~ッ!」と、ノリノリで指示をだす。
さっきエドリーとしていなかったら危なかったけれど、何とか反応することなく、滑りだす。十メートルを一気に滑り落ちるタイプで、最後にどしんと落ちる。そのとき、グッとミズクの体重が下腹部にかかってきた。
「私じゃ……感じない?」
どうやらそれも狙いだったようだ。
「感じているさ。でも、今は人前だから我慢しているんだよ。もう少しで、ミズクにもしてあげるよ」
「うん、待っている!」
そう言ったときのミズクの笑顔は、一番輝いていた。
~~ 夜の部 ~~
ルゥナがドレスを択んだのは、ちょっとムードのある店に行きたかったからのようだ。ここではお酒は何歳から、と決まっていないので、誰でも飲める。かといって、アルコール濃度は薄いので、よほど大量に飲まないと酔ってふらふら……ということも少ない。
ルゥナも「初めて」というお酒が気に入ったようで、やや頬を上気させて、目をとろんとさせている。
「エルフの里にいたら、こんなの飲めないのん……」
ボクの肩に、そっと頭を乗せてくる。スレンダーボディだし、成長の遅いエルフ族だから感じにくいけれど、彼女は年上だ。
「里をでたこと、後悔しているかい?」
「どうせ私は、もう里にはいられなかったのん。それに、皆との生活は楽しい……のん。でも、将来はちょっと不安……なのん」
人族と、鬼人族では子供ができる、という。でも、獣人族とエルフ族が、人族とエッチをしても子供はできない。
それに、人族はこの世界で、平均寿命は戦いなどもあるので40年、長生きをしても80年。長生きのエルフは二百年を生きる、とされており、今のメンバーだと彼女だけが残ってしまう。
まだ気にするのは早い……といっても、彼女も気になるのだろう。最後になるのは自分なのだから……。
ボクがルゥナの肩を抱くと、そっと体を寄せてきた。彼女の不安に今は答えをだせないけれど、それを共有し、解決策をみつけていくことが、彼女の幸せにもつながっていく……そう考えていた。
「夕景を見ようと思ったら、夜になっちゃいましたね」
フィアはそういって笑う。屋上にでられるお店で、今は満天の星空が輝いていた。時間が押して、もうすっかり夜である。
「フィアは、記憶が戻らないことが苦じゃない?」
彼女は貴族の家に囚われていたけれど、その前の記憶を失っていた。
「私の親はどんな人なんだろう……って、考えたことはあります。でも、今はそんなこと、考えなくなりました。だって、今が幸せですから」
フィアも最初のころと比べて、笑顔が増えた。動物のお世話も率先してやってくれるし、料理も少しずつボクから教わり、今ではボクがいないときは、フィアがみんなの食事を準備してくれる。
そんなしっかり者のフィアに、いずれちゃんと報いてやろうと思っていた。
「山小屋でみるより、ちょっと星空が暗いですね」
フィアはそういうと、ちょっと伸びをするようにして首に手を回し、ぐっとボクにぶら下がるようにしてきた。
「私の過去はこの星空のように暗いけれど、私は大丈夫。だって、今は私の足元を照らしてくれるアナタがいるから……」
帰る場所もないフィアにとって、あそこが居場所になっている。ボクもそこを守りたい、と彼女の腰に手をまわし、その体をしっかりと受け止めながら思った。
その日は、ナナリーの町にお泊りだ。宿屋と一緒になったレストランで、みんなで食事をする。
みんな……といっても、もう星が瞬く時間なので、ザビは部屋で眠っている。デートの最初がザビだったのも、暗くなったらもう眠気が勝ってしまう彼女を気遣ってのこと。
ボクの左手が骨折していることもあって、料理ができない。たまにはおいしいものを外で食べよう……ということでもある。
「みんな、今日のデートはどうだった?」
「楽しかった!」
ミズクはすぐにそう応じた。
「ちょっと大人の雰囲気が楽しめたのん」
「私も、久しぶりに二人で出かけられて、楽しかったです」
それぞれ時間は短かったけれど、二人きりということがこれまでなかったため、新鮮な感想をもったようだ。
「でも、今日はこれで終わりじゃないんですよ」
ボクは三人に送りだされて、部屋へと向かう。今日は二部屋とって、ボクが一人で寝る予定だった。それは旅行のときぐらい、しなくていい……という判断だったのだけれど、ボクが部屋に入ると「よ、よろしくお願いします」と、ベッドの上で三つ指をついたザビがいた。
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