第34話 鬼人族の村

   ~~ ジャバを倒したのは…… ~~


「私と戦って欲しい」

 ザビからそう凄まれる。鬼人族と戦える人族など、そうそういないだろう。それを分かって、そう依頼するのだ。

 ナナリーの町で冒険者として知られ、かつナナリー王女とも近い。ジャバ第二王子を駆逐した冒険者、としての疑惑が増しているところだ。

「キミはどうして、ジャバを倒した冒険者を探しているんだい? もう教えてくれてもいいじゃないか」

 半ば強引に、駄々をこねるようにそう尋ねてみた。ダメ元だったけれど、ザビは意を決したように言った。

「私は、ジャバを倒した冒険者と結婚しようと思って……」

 予想していたけれど、最強種として、より強い者を求める意識か……。

「でも、鬼人族と人族じゃあ、子供はできないだろ?」

「そんなことはない。子供はできる。ジャバも人族との間の子よ」

「えッ⁈ でも角が……」

「詳しいことは知らないけれど、人族との融和のため、鬼人族から嫁いだ女性がいたそう。その女性から生まれたのがジャバ。角は、人族との間だと出たり出なかったりするらしい。一度、角がないとその系統は人族の間で婚姻をくり返しても角がでないそうよ」

 それは重大な話をふくむけれど、ザビはそこまで意識していないようだ。それは人族の中にも、鬼人族の血をもつ者が相当数いる可能性がある、ということ。

「じゃあ、ジャバを倒した冒険者……というのは?」

「鬼人族の血をひく者、という可能性が高い。そして、鬼人族の中でもその強さが知られていたジャバを倒した者なら、結婚したいと思ったの」


 ジャバは大きな刀を回転させ、竜巻をつくって竜として攻撃するなど、極めて高い攻撃力をほこる魔法を駆使してきた。

 あれも鬼人族の血がそうさせたのなら、やはり鬼人族は最強種であり、その血を強くひくジャバは最強なのだ。

 でも、それを倒したボクって……?

「アナタじゃないの?」

 ザビにそう迫られたとき、不意に声がした。「私よ」

 そのとき、横から声をかけてきたのは、ネルだった。

「私はそいつの師匠。魔法に関しては、私の方が上。だから、手伝ったの」

 ザビがネルに向けて、火炎の弾を放つ。でも、ネルは風圧でそれを吹き飛ばしてしまった。

「これで分かったでしょ。私は鬼人族だろうと、魔法で負ける気はしない。何なら、私と結婚する?」

 それがトドメだ。ザビも力が抜けたように、その場に座り込んでしまった。




   ~~ 鬼人族との闘い ~~


「助かったよ」ボクがそういうと、ネルは体を大きくふった。

「助けたつもりはない。でも、彼女はこれで諦めるとは思えないわよ。それに、もう一人嫁が増えて、嬉しいんじゃない?」

「それは……嫌々、最強の嫁だよ。しかも、怖い義兄つきだ。ただ、気になることがいくつもある。転生者の話もそうだし……」

「あなたの出自も、ね」

 ネルにはすべて話していた。ボクが転生者で、生まれてすぐに捨てられたこと、などだ。

「ボクはどこかの貴族の娘、もしくは妻が、不貞によってできた子だと考えていた。だから生まれ自体が不都合で、捨てられたって……。でも、もしその相手が鬼人族だったら……」

「不都合どころの騒ぎじゃないわね。角が生えていたら、もう言い逃れもできないものね」

「ボクに角はないが、魔力やドミネートも鬼人族による影響なら……。ボクは鬼人族の村に行ってみようと思う」

「おすすめはしないけれど……。分かったわ、私もいく」

 ザビも、ジャバを倒した冒険者を探して家をでたが、その相手が魔獣であるスライムだと知って、村にもどる決意をしていた。そこで、彼女を送るついでに、村を訪ねてみようと思ったのだ。


 鬼人族の村――。町、というより村、といった方がいい。山がちの地形に、ぽつ、ぽつと家が点在する。戦前しか知らないボクからすると、懐かしい光景だ。

 ボクとネルが、ザビと一緒に来ていた。

 ザビの家は、山の頂上付近にある。水の調達には不便そうだけれど、戦争となったときは、山城として戦う上で、もっとも重要であり、それだけ地位の高い家柄といえそうだ。

 それは二人の使用人がいたことでも分かる。ベドとギジェが、まるでザビが帰ってくることを知っていたかのように、山道の途中で待っていた。

 彼らに連れられていくと、そこは大きなお屋敷で、日本家屋に近い。むしろ人族の町の、こじんまりとした家より余裕もあって、快適な印象だ。

 彼女の両親は、まだ若かった。それはザビがまだ若い……という以上に、鬼人族は若いうちに結婚するのが常識かもしれない。だからザビがこの歳で村を一人ででたのだろう。

「そちらの御仁が、結婚相手かな?」

 両親も勝手知ったるかのように、そう尋ねてくる。

「いいえ。結局、みつけられませんでした。こちらはお世話になり、渡りの人に会いたい、ということでお連れしました。この人も渡りだそうです」

「転生者? それは珍しい。人族に転生することはほぼないはずだが……」

「そうなんですか?」

「本人たち曰く、強さを求めると鬼人族になるようだ」

 それは能力の高望みをするなら、最強種である鬼族、となるのだろう。

「その人たちに会えますか?」

「生憎と、成長するとすぐに村を出て行ってしまうから、今はいないよ」


 がっかりする。でも、ここでは転生者が満足しないことも、何となく分かる。それは過疎の村から都会へ……といった感じだろう。特に、前世の記憶があるなら尚更のはずだ。

 そのとき扉が開いて、ザビの兄が入ってくる。

「この男は何だ⁈」

 そう言うが早いか、剣で打ちかかってきた。ボクも咄嗟に補助魔法をつかって腕力を増強し、その剣技を受け止める。

 屋敷の中で、まさか全力で戦わないと思ったが、補助魔法をつかっても何とか……というレベルだ。

 顔を寄せてくるけれど、こちらはマスクをしていて、表情が隠れていて助かった。驚愕していることが知れたら、侮られたはずだから。

「表に出ろ! 決着をつけてやる」

 そういって、体全体で押しこんできた。家の建具をふきとばして、外へとはじき出されてしまう。

 飛び上がったザビの兄は、その剣から炎を吹きだして振り下ろしてきた。

 まともに受け止めても、炎で焼き尽くされるだけだ。

「手を貸すわ!」というネルの言葉に意を強くし、オレは師匠であるネルの薫陶を思い出して、技を繰りだした。

「ブレイジング・ライド‼」

 炎には、より強い炎で打ち返す。風で消すことができたり、氷で冷やして何とかなるレベルならそうするけれど、それより強い炎には、炎で返すしかない。ネルのブーストがかかった魔法だ。ザビの兄を大きく吹き飛ばしていた。


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