第31話 鬼娘
~~ 変化 ~~
「これはカヤネズミの巣だよ」
「害獣なのん?」
「否、昔はイネを食べる害獣、とみなされていたそうだけれど、お米ぐらいの大きさだと食べない、ということが分かって、害獣ではないと判断された。イネ科の植物に巣をつくるだけだよ」
この程度は、テイムするまでもなく分かる範囲の知識だ。
農作業をするルゥナに、尋ねたいことがある、と連れて来られたのだが、そのままそそくさと畑の隅に連れていかれる。
彼女はボクに唇を押し付けると、待ちきれないようにボクの下を握ってきた。
四人ですると、どうしても自分だけの時間が短くなり、物足りないらしい。そこでこうして、二人きりの時間をつくろうとする。
ボクのそれが中々元気にならないと、口をつかってくる。ねっとりと唾液を垂らして、舌で絡めるよう、強く刺激してくる。
ルゥナは舌づかいが上手い。多分それは、エッチをする、自分を気持ちよくさせてくれるそれを、愛おしむ気持ちが強いからだと想像している。それぐらい丁寧に責めてくる。
元気になったそれに満足したように、自ら下半身を露出して、ボクに向けてお尻をつきだすと、自らは木に手をおいた。
「早く、早くぅ~ん♥」
ボクは、彼女の情熱が滾って爆発しそうになったそこへ、静かに後ろから体を沈めていった……。
ジャバ第二王子を倒してから半年……。色々と変わったこともある。
エドリーはナナリー王女の元へともどった。元々、事件をきっかけにして一時的に身を隠す、という目的だったからだ。でも……。
「迎えにくるよ」
という言葉を残して去ったのには、ちょっと苦笑いしてしまう。彼女は、ボクをナナリー王女の婿にしたいのだ。王女といっても第三、そのため王位継承権から遠い。そのため、自分の理想と近い思想をもつボクが適任、と考えているのだ。
変わったことといえば、ジャバ第二王子を倒したことで、様々な波紋があった。
ジャバはこの国最強を謳われていた。それが百騎の騎兵を率いて、たった一人の不審者に敗れた。
それは国の内外にも噂として広まっていた。
ジャバ第二王子を破った無名の人物、しかもそれが、動物や獣人族を大切にする思想をもつ。
その結果、この国から動物や、獣人族を虐げる人族が減った。だから、ボクの仕事が減った。
それはそれでよいことなのだが、ジャバ第二王子を倒したのは誰だ? という犯人探しもはじまっていた。ボクの動きはナナリー王女ぐらいしか知らないので、そちらから漏れる心配はなさそうだけれど、動きにくくなったことは確かだった。
ただ、そのおかげで動物たちと、彼女たちと一緒に過ごす時間がとれる。
動物病院の方も軌道にのり、ルゥナの農作業とともに、食糧事情が改善したことも大きい。穏やかな生活で、心休まる日々……。
でも、気になることもあった。
時おり健忘に陥っていることだ。ぼーっとしながら行動していることもあり、それは一時の緊張から解き放たれた、心の隙だと考えていた。生活に支障があるレベルではないし、気にすることもないほどだけれど、前の世界では98歳まで、植物人間として生きる中で、ボケるのを心配していた。むしろ、そうなったらなったで、逆に楽だろう、と考えていた。
体を動かせるわけでもなく、むしろ自我が少しずつ消失していくなら、それはそれで……。そう考えたこともある。でも、結局そうならなかった。天寿をまっとうすることになった。
こちらの世界では、この歳で? とも思うけれど、少し気になる部分でもあった。
~~ 鬼人族 ~~
ナナリー王女から連絡がある。時おり、食事に誘われることも増えたけれど、今回はちがった。
「実は、鬼人族と今度、話し合いをもつことになった」
鬼人族――。エルフ族が人族とは一緒に暮らさないように、鬼人族も人族とはほとんど交わらない。
「話し合い? また何で……?」
「鬼人族の少女が、私の町にやってきた。その返還交渉という形だよ」
「鬼人族の少女……。またどうして?」
「分からん……。私の町と、鬼人族の町とは隣り合っているわけではない。偶然、道に迷って……ということでもないはずだが、肝心の少女が何も語らないんだよ。そこで、鬼人族に連絡をとると、引き取りにくる、というんだ」
「ん~……。それをボクに語った、ということは……?」
「そう、君に同席……。もしくは陰に隠れて、聞いていて欲しいんだ」
「ボディーガード……ですか?」
「その通りだけれど、上手くいったら食事をおごるよ」
鬼人族といえば、戦闘民族としても知られ、傭兵として雇われれば百人力、ともされた。ただの話し合いですめばいいけれど、もしトラブルになったとき、ボクの力を借りたい、ということだ。
「ちゃんと報酬が欲しいぐらいの仕事ですよ、それ」
「もし戦うことになったら、ちゃんと払うよ。無事に済んだら、夕ご飯を一緒にするのが、報酬とならないかい?」
ずるい言い方をされたけれど、ボクも苦笑いして了承するしかなかった。
ナナリーの町は、いつ来ても気分がいい。それは、獣人族が虐げられていないからだ。ここで暮らす人族も、ナナリー王女の統制がいきとどいていて、人族と同列に扱っている。人族も、獣人族も生き生きと暮らすので、この町は活気があることでも知られていた。
こうした町にくるとき、ボクはマスクをつけるのが常だけれど、それでも「やぁ、来たな」と、まるで見知った様子で声をかけてくる女性がいた。
ふり返ると、顔よりも先に、胸に目がいく。エドリーがいた。
「再会を祝して……と行きたいところだけれど、今日はそんな時間もなさそうだ」
エドリーの案内で、城に向かう。城といっても、ここは戦場と遠く、それほど要害堅固な城があるわけではない。
エドリーは、ナナリーの親衛隊長であり、彼女の案内ですすめばほとんどの場所がフリーパスだ。
ナナリーの居室にくると、大仰に手を挙げて歓待してくれた。
「よく来てくれた。今日はよろしく頼む」
「便利な傭兵になったつもりはないんだけど……。ネルにも声をかけたけど、空振りだと報酬がでない、と聞いて、やる気をなくして……」
鬼人族は一騎当千。だからどこも味方に引き入れようとするけれど、お金では動かないとされ、生体その他にも謎が多い。
百人力のネルがいてくれれば安心だけれど、魔獣なのにお金にがめつくて困る。
「鬼人族の少女と、会っていいですか?」
ナナリーはやや眉を顰めて「会うことは吝かでないが、恐らく何もしゃべってはくれないよ」
ボクも初めての鬼人族であり、少し緊張しているが、ナナリーの態度も気になるところだった。
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