第28話 国のため?

   ~~ 意外な死 ~~


 この城砦で暮らしてきた獣人族は、この後も自分の在り様に悩むことだろう。獣人族を家畜のように扱い、生殖すらコントロールされ、価値観すら奪われてきた。いきなり外界にでても、戸惑うことの方が多いはずだ。

 しかも、へラムによって慰みにされていた少年たちは、その倒錯に苦しめられるのかもしれない。

 地獄にいても、その地獄を甘受しつづけていた方が、幸せなのかもしれない。でもこれから、解放された世界を生きて欲しい。ボクは切に願っていた。

 ただ、これで終わるわけにはいかない。ボクは港湾管理センターのようになった、その城塞を後にし、さらに海沿いの突端になっている城に向かう。

 ここでは、こうした城で働く獣人族は、みんな全裸にさせられているのだ。それを放置しつづけた、ボドウェ卿にも一言、言ってやらないと……と考え、その城に忍びこんだ。

 むしろ、こちらの方が要塞として築かれたはずだけれど、侵入は容易だった。ナゼなら、兵士がいないから。

 堂々と中に入って、ボドウェ卿の元までたどり着く。

「キサマの息子は、すでに人の体を為さなくなった。獣人族を人と見做さないようなヤツは、自らも人でなくなる、ということだ」

 ボドウェ卿は不審者にもかかわらず、何の反応も示さない。不思議に思って彼が寝ているベッドに近づくと、すでに骸骨となっていた。


 唖然とするけれど、ギルドが死んだことを知らなかったように、その事実は隠蔽されていたのかもしれない。むしろ、息子のへラムが自分勝手にふるまうことができたのも、父親が亡くなったことと関係するのか……。

 国王の盟友。その特権、特別扱いによって、その死すらも中央に知れることなく済まされていたようだ。

 これもまた哀れ……。

 ボクはその要害にいる獣人族に知れないよう、その城を出た。

 町をでて、リクィデーターと会って、このことを伝えた。マスクに隠れて、顔は分からないけれど、相手も驚いていたようだ。やはりギルドはその情報を知らなかったようである。

 それはそれでナゾとして残る。でも、ボクは仕事をやり終え、山小屋へともどったけれど、今回の話はここで終わらなかった。




   ~~ 急襲 ~~


 エドリーから「シークネイアに行ったか?」と問われる。仕事の細かい話は、彼女たちにはしないことにしていたが、国に関することは、エドリーを通してナナリー王女に伝えるべきかもしれない。

「へラムの暗殺に……」

「それは困ったことになった」

 話を聞くと、歴戦の雄として知られたボドウェ卿が、あの港町を管轄しているからこそ、他国に睨みが利いていた、ということらしい。

 しかしその死が明らかになると、他国からの脅威が予想される、というのだ。

「薄々、王族の中でも王都に来ないボドウェ卿に、懐疑的な見方はあったそうだ。でも生きている、としていた方が都合よかったので、そうしていたのだよ。しかし、息子のへラムが死に、そういうわけにもいかなくなった。

 王族の中で、第一王子のガリオが仮の領主としてシークネイアに赴任することとなったんだ」

「ガリオ……。あまり武勇で知られた人ではないね」

「行政官タイプの人だからね。今も国王の片腕として、政治の世界では名が知れている。でも、格という点では、今その領地を治められるのは彼しかいない、となった」

 この国で数少ない港町……ということは、逆にいえば他国からみれば、その町を攻略しさえすれば、大きな足掛かりになる、ということでもある。

 仮の……とするように、一旦は落ち着かせるために、ガリオが向かうことになったようだ。王族の中で、武勇に秀でるのは第二王子のジャバであり、今は別の国境の警備で、ロクシオンの町にいる。彼を動かせない以上、長兄が動くしかなかった……ということだが、これが問題を引き起こした。


 ボクとフィア、ルゥナ、ミズクとロフトにいて、お愉しみだったところ、ナナリー王女と連絡をしていたエドリーが、慌てて駆け込んできた。

「姫が、話がしたい、と……」

 深刻そうな表情に、マッシュルーム通信にボクも加わった。

「ジャバ兄さんが、ロクシオンの町をでて、王都に向かっているとの連絡があった」

「どういうこと? 以前、その話があったときは、ジャバ第二王子の直接的な関与がなかった、と結論がでたはずだろ?」

「ジャバ兄さんは直情型、悪く言えば短慮の人だ。もしかしたら、そうした話を耳にして、やってみたいと思ったのかもしれない。それが、ガリオ兄さんが王都から動かざるを得なくなったことで、くすぶっていた思惑が動きだし、野心に火が点いたのかもしれん」

「じゃあ、ナナリーの町に?」

「否、ここを避けて、騎馬で移動しているようだ。わずかな兵で、一気に王都を陥れて、王位継承権を得るつもりだろう」

「…………。その話は分かった。でも、何でボクに?」

 王族の話は、王族内で片づければ済むこと。国の政治に、口をだすつもりはボクにない。

 ボクの不興に気づいたのだろう。ナナリー王女は声を潜めるようにして語った。

「あのときは言葉を濁したが、動物を魔獣化する技術の開発に、ジャバ兄さんが関わっていた疑いがある」

「何だって?」

「当然、この国で使用するつもりではなく、他国を混乱させるため、兵器とするため実験を繰り返していたのでは? という話だ。確証がないので私も追及できなかったけれど、もしジャバ兄さんが王位を継承すると、動物たちにも不都合なことが起きる可能性がある……」


 それが、ボクを動かす動機になる、と知っていて打ち明けた。それは分かっているけれど……。

「だから、ジャバ第二王子をボクが止めろ、と?」

「頼めるのは、君だけだ。君なら……、特殊な力をもつ君だけが、ジャバ兄さんを止められる」

「…………」

 以前、脅しをかけたことはある。でも、ボクのドミネートは相手を特定してかけるものだ。もしジャバが複数の騎兵でもって動いているなら、それはドミネートがつかえない、かけにくい、ということでもある。

「頼む! この国を……、動物たちを救ってくれ!」

「…………。分かった。でも、ボクは国のことに関わるつもりはない。これは絶対。でも、ボクはアナタのために動きますよ。アナタが理想とする、獣人族と、人族が対等で、仲良く暮らせる国にこの国がなって欲しいから、今はジャバ第二王子を止めようと思う」

 ボクはそういって立ち上がった。






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