第24話 女子会
~~ 来訪者 ~~
露天風呂をつくったことで、動物たちがよく静養にくるようになった。
これまでは怪我をしたり、トリミングをしたいときに来ていた動物たちも、必要がなくても入り浸るようになった。それは露天風呂のお湯をかけて洗ってもらうためであり、フィアとミズクはそうして動物の体を洗ってあげる仕事が増えた。
でも、そのおかげで動物たちが運んでくれる食糧も増えた。ルゥナが育てる農作物も軌道にのりはじめ、人数が増えたのに食糧事情が安定してきたのは嬉しい点だ。これまではある程度、購入していたけれど、本格的な自給自足を意識できるようになったのだ。
こうなると、ギルドからの依頼をうけずともよくなりそうだが、どうやらそういうわけにもいかなくなった。
〝緊急依頼――。
要人警護。隔離した上で
追及の手から逃れろ〟
「変な依頼ね。完全に、表の仕事じゃない」
ネルもあまり乗り気しないように、そうつぶやく。
「でも、ご指名らしい……」
「また王女絡みじゃない?」
「要人……と聞いて、すぐに思ったよ。ボクに直接依頼をだす……なんて、王女関係しかない」
ボクが指定された場所にいくと「やぁ、来てくれたね」と、声をかけてきたのはエドリーだった。
「何でボクに……」
「キミは町に暮らしていない。ナナリー王女も一時、隠れ住んでいたし、ちょうど隠れるのに都合いいと思ったんだ」
「何があった?」
「ゴートシティのコントートをつぶしたとき、変装していたが、どうやら私と疑われているらしい。ナナリー姫が関与……と思われないため、私はしばらく身を隠すことになった」
「それで、ボクの山小屋が適任だと……?」
「ナナリー姫との通信もできるし、何も問題ないだろ?」
「そっちには都合よくても、こっちには問題大アリだよ!」
~~ お風呂団欒 ~~
結局、エドリーを山小屋であずかることになった。
大樹をつかった転移魔法をつかうとき、エドリーは何も言わずとも、ぎゅっとボクに抱きついてくる。その大きな胸……。弾力というか、その感触だけで骨抜きにされてしまいそうだ。
ただ、事情をみんなに説明するのに骨が折れた。ナナリー王女が来たときでさえ、彼女は貴人で、匿う必要が……と納得してもらったけれど、今度は完全に仕事として彼女を預かるのだ。
それでも今回は獣人族、しかもナナリーの親衛隊長を務めるほど、体力にも自信がある。ちょうどお風呂ができて、動物たちが殺到しているところであり、よい人手になってくれた。また厳格だけれど、コミュ力も高いエドリーなので、すぐに三人とも打ち解けた。
しかし、打ち解けない部分もあって、それはやはりエドリーの胸。フィアが大きくなってきた……とはいっても、成人女性の頭ぐらいあるエドリーの胸は、桁違いのレベルであり、ルゥナやミズクに、少なからぬ嫉妬の波紋を広げてしまう。
「やっぱり胸なのん!」
そう詰め寄られる。ルゥナの場合、胸はほとんどないに等しいレベルなので、余計に気になるようだ。
「あれは……目がいくだろ」
「巨乳が好きなんですか?」
ミズクにも責められ、ボクもたじたじだ。そんなとき、エドリーが「ちょっといいかな?」と、割って入ってきた。
「彼が私の胸に興味あるなら、ちょうどいい。私は抱かれたい、と思っている。でも今のままだと、君たちからの不興を買うだろう。そこで、女性だけで一緒にお風呂に入らないか?」
露天風呂に、女性四人……もとい、スライムのネルもいるので五人だ。
女性だって、エドリーの胸には自然と目がいく。きれいなボール型で、お湯に沈めていても浮き上がってきそうだ。
「私は、彼と結婚したいとさえ考えている」
エドリーの直球に、誰もそれを打ち返せず、口をあんぐりと開けてエドリーの顔をみつめている。
「それは、ナナリー王女の意向かしら?」
打ち合いに応じたのは、ネルだった。
「否……。でも、姫もそう考えているはずだよ」
「でも、王族は同じ王族か、貴族との結婚を優先するはず、でしょ?」
「ナナリー姫は第三王女。後継争いとは無縁だ。なら、血統よりも自らと主義、主張が合う相手と……」
「ふふふ……。その言いぶりだと、本人の意向……ということではなさそうね」
「確かに。これはナナリー姫の口から、直接聞いたことではない。でも、私は姫の影武者の役割を果たすため、小さいころから一緒に育てられてきた。姫が考えることは分かる」
「影武者……ですって?」
「私は……ナナリー姫と背格好、年齢が近いとして、影武者になるために孤児院から連れてこられ、姫と一緒に育ち、その思考、行動をすべてトレースできるようにしてきたのだ」
確かに、エドリーはナナリー王女の生き写し……というぐらい、シルエットだけならそっくりだ。ケモノ耳、尻尾を隠せば瓜二つ。それに話し言葉、口調も、似ているレベルでなく、同じだ。
「エドルという名も、エドリーと改めた。マスクをしていたら、姫と気づかれない自信もある」
恐らくそこにボクがいたら、最初にナナリー王女と出会ったときを思いだしていただろう。兵士の恰好をして、町をお忍びで歩くことができたのも、エドリーが影武者として務めていたからなのだ。
「その影武者が、姫の結婚まで決めるの?」
「姫の幸せを考えた結果だよ。価値観の合う相手と結婚した方が……」
「でも、そうやって慣例を破れば、さらに反対勢力を助長するわよ。国王に健康上の不安があるのでしょう? 下手をすれば、町そのものを取り上げられる可能性だって出てくるわ」
「だから急いでいるんだよ。現国王からのお墨付きを得たい」
「そのために、あなたが彼と寝るの?」
「私は姫の先触れだ。姫がそうしやすいように、私が……」
「それは……違うと思います」
このとき、そういって口をはさんだのは、フィアだった。
「あなたの意志は? あなたは彼のこと、本当に好きなのですか?」
「私の意志など、関係ないんだよ。それが王族に仕える、獣人族の務めだ」
「獣人族は……、人族のために生きるんじゃない!」
フィアは獣人族のことになると、少しムキになるところがある。
「あの施設で、ナナリー姫が私に手をさしだしてくれたときから、私の運命は決まった。あの施設にいても、私は奴隷として売られたか、よくて女郎屋に払い下げ。身寄りのない獣人族なんて、そんなものさ。
姫は、私に生きる意味を与えてくれた。獣人族と、人族が仲良く暮らせる世界の実現……。私もそのためなら死んでもいい、とさえ思っている。
それに、私が彼のことを好きになったのだから、姫も好きになる……と確信しているんだよ」
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