第18話 棟上げ

   ~~ 建て増し ~~


「もう一棟、家を建てようと思う」

 今は十畳程度のワンフロアに、四畳程度のロフトがついた形の山小屋で暮らしている。別棟に水回りをまとめており、その分居住空間をシンプルにできた。まだ幼かったボクが動物たちの力を借りながら、家をつくることができたのもこのシンプルさのお陰だ。

「もう一棟を並べて建てる。行き来できるようにして、あくまで部屋を増やす形にしたいんだ」

「エッチ部屋ね……」

 ネルの白い目……というか、スライムなので目がどこにあるか分からないけれど、その冷たい言葉にも負けずにつづけた。

「この小屋は、動物たちにも手伝ってもらったけれど、今度は自分で建ててみようと思う」

 ネルにも手伝ってもらっている。というか、ほとんど木を伐ったのはネルだし、乾燥もしてもらった。それをログハウスのように一部を削って、くみ上げられるようにしたのはボクだけれど、運んで、積んでもらうところまで、力持ちの動物たちに助けてもらった。

 あのころと比べ、魔法も覚えた。というより、色々なことを覚えて、そっちに重点を置いた建て増しだけれど、自分一人の手で何とか成し遂げたいと思っていた。


 ボクはショートスリーパーでもあり、夜間に作業をできるので、時間を有効につかえる。前回、ネルの手順と魔法の使い方をみて、大体のことは覚えた。そのため、作業もさくさく進む。

 ちなみに、木を伐ったところは畑にするため、根っこを掘り返しておく。ルゥナが農作業を頑張っていて、新たな畑を欲しいといっていたのだ。これは土魔法をつかって土を柔らかくし、浮遊魔法で根っこを浮かせる。

 力仕事ではないけれど、魔法をつかうとそれなりに疲れる。この世界の魔法は生命力を還元したものだ。朝方、疲労困憊で一時間ほど眠ると、朝からは動物病院の仕事である。

「大丈夫ですか?」

 フィアが心配して声をかけてくれる。「一緒にするために、頑張るよ」

 何をするか? それが分かっているので、フィアも頬を染める。

「今日から、ミズクにも手伝ってもらおうと思って……」

 獣人族なら、動物ともすぐに親しくなれるので、問題ないけれど……。

「ミズクは大丈夫なの?」

「私も……何かの役に立ちたいです」

「じゃあ、鳥の患者さんが来たら、ミズクにも手伝ってもらおうかな」

「はい!」

 嬉しそうに応じたミズクだったけれど、その出番はすぐに来た。小さな鳩が運びこまれてきたのだ。

「銃……否、魔法で撃たれているね」

 人族が面白がって、もしくは食糧とするために撃った可能性があるけれど、その足に文が結び付けられているのをみて、ボクも嫌な予感がしていた。




   ~~ 兵士のいる町 ~~


「第二貴族のジャバが、王都にいる貴族に当てた手紙です。文面はさっきメールした通り」

 音声通信をしているのは、第三王女のナナリーだ。悩んだ末に、彼女には伝えておくことにした。

「ジャバ兄さんが、謀叛ね……」

 ナナリーの町を抑えることができず、そこを迂回して王都を急襲する。そのため、貴族の協力を仰ぐための手紙だったのだ。

「ただ気になるのは、それを運んでいた伝書鳩ですよ。怪我を負っていた」

「猛禽類に襲われた?」

「否。魔法で撃たれていました」

「どういうことだ?」

「何者かが伝書鳩を撃って、手紙を奪おうとした可能性もあります。そうなると、何者かがすでにこうした動きを知って、文書を奪おうとしていた……」

「確かに、現状では長兄のアルフ兄さんが後継候補の第一だ。でも、ジャバ兄さんがクーデターを起こしても、他の貴族がそれを認めまい」

「ボクは王族のもめごとに関わるつもりはないので、この文書をお渡ししたいと思います。後は、ナナリー王女の裁量にお任せしますよ」

 王族の後継争いに首をつっこむつもりはない。ナナリー王女と知り合っていたから伝えただけで、無視してもよかったぐらいだ。


「でも、ミズクが鳩から聞いた話が、ちょっと気になるわね」

 ナナリー王女との通信を終えると、ネルがそういって、ミズクに話を促す。

「うん……。大体、マッシュルーム通信ができない国境付近の町と、通信するためにどこも鳩を飼っておくそうなんだけど、国境のロクシオンの町をでる前に撃たれたっていうの」

「ロクシオンの町……。国境を守るはずなのに、何をやっているんだか……」

「あら? 国の大事には、口を挟まないんじゃないの?」

「はさむつもりはないよ。でも、いくら権力闘争の結果とはいえ、ボクは怒っているんだよ。鳩が撃たれたことに……ね」

「そっち?」

「何が起きているのか、ミズクと一緒にロクシオンの町に行こうと思う」


 ロクシオンの町――。

 国境の町だけに、警備も厳しいし、何より緊迫感がちがう。元は小さな町で、住民も少しはいるけれど、ほとんどが駐留する兵士たちだ。ただ、その兵士も駐屯という形で農作業を行い、食糧をそこで調達しながら、敵の襲来に備える、という形がとられていた。

 兵士といっても、下士官はほとんどが獣人族だ。同じ獣人族でも、兵士という身分保障がある分、ここにいる獣人族は『幸せ』とされる。でも、戦争がおこれば最前線に立たされるのだ。

「行きたい!」と駄々をこねていたフィアを連れてこなくてよかった……。獣人族の扱いに心痛める彼女のことだから、農作業と軍事教練をくり返す、この町の状況をみたら、ショックで倒れていたかもしれない。

 ミズクはここに来る前、ナナリーの町に寄ったとき、服を買っておいた。ミズクはまだ成長期であり、既製品にした。人族用のものなので、既製品も充実する。ボクの妹……という体でもあり、人族用の服が都合よい面もあった。マスクもつくっておいたので、獣人とバレることもない。

 問題は、第二王子のジャバは砦に籠っている点だ。ここには貴族の数名を配下として引き連れて駐屯しており、また敵と接する場所だ。その司令官にそう簡単に会えるとは思っていなかったけれど、下手に侵入して騒ぎを大きくしたくもなかった。

「ミズクの力をつかうときかもしれない」

「……え、私?」

「鳥と会話できる君なら、町にいる鳥たちから、情報が得られるだろ?」

「やって……みます」

 そう、彼女ならこの町で何が起きたのか? 鳥たちに聞くことができる。鳩もそうだし、町にいる鳥とだって、彼女は会話できるのだ。ボクたちは兵士がうろうろする中を、公園へと向かった。

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