第10話 暗殺依頼と秘宝
~~ エルフの森 ~~
ヤーセルの町の外れ、街道を少しすすんだところにリクィデーターがいた。
昼なので、狩人のような恰好をするけれど、顔にはマスクをする。リクィデーターは身元を隠すのが一般的だが、かなり背も高いので、どうやら男であることは確実のようだ。
「冒険者が、ギルドの依頼でない仕事をうけ、トラブルを起こした」
「だからって暗殺……。短絡的じゃないか?」
冒険者だからといって、常にギルドの依頼をうけているわけではない。すると、リクィデーターも「手をだした相手が悪い」
「どういうことだ?」
「そいつらはエルフの森に入って、そこにあるお宝を奪おうとした。それをエルフにみつかり、逃亡中だ」
そういうことか……。この世界では、エルフは人族とのかかわりを断ち、森で独立した勢力として存在する。人族とは暗黙の不可侵があり、人族がエルフの森を侵さない代わりに、エルフも人族の領域に踏みこまない……といった協定めいたものが存在する……とされる。
「依頼はエルフから?」
「依頼者について、オマエが知る必要はない」
「もっともだ。でも、ボクがその冒険者パーティーの仲間とカン違いされ、エルフに襲われる可能性もあるだろ?」
「それは大丈夫。今、彼らはエールウォーの滝の近くにいる。そこにエルフは近づかない。とりあえず事件の発端となった冒険者パーティーを全滅させれば、このバカげた争いは止まる」
リクィデーターは吐き捨てるように言った。
「……依頼は分かったが、何でボク? きちんと道理の通った仕事だ。表の冒険者に任せればいいだろ?」
「神聖な場所で、血を流すことは許されない。それに、大ごとにしない……。冒険者の暗殺を、冒険者にさせるわけにはいかないそうだ」
裏専門のボクなら、角が立たない……。
エールウォーの滝にエルフが近づきたがらないのは、そこが神の住まう、神聖な場所だから。そこに四人の冒険者が逃げこんだ。ウィーリア―、ガーディアン、アーチャー、メイジ……。一般的なパーティー構成だけれど、もう一人いる
人質……? 縛られてはいないけれど、焚火をかこむ中に、エルフ族の少女が一人すわっている。
フードを外し、長い髪をまとめているため、尖った耳がみえる。あの少女も助ける……のか? それとも冒険者パーティーの協力者? 判断に困る。
パーティーはすでに、ヒーラー役を失った。エルフ族にも犠牲がでており、互いに引くに引けず、睨み合いがつづく。エールウォーの滝が攻防の最終ラインであり、周りをエルフの森に囲まれ、全滅か? 脱出か? その二択の中、籠城をつづけているような状況だ。
しかし脱出を赦せば、エルフ族と人族の間に禍根がのこり、全面戦争になりかねない。だから全滅――。誰が依頼したにしろ、合理的にして打算的だ。
ただ、ああしてまとまっていられると、ドミネートがつかえない。一人ずつ……が基本だからだ。
それに冒険者もベテラン勢で、経験からも用心を怠っていないはず。
でも、逆に何でそんな奴らがエルフに手をだした? エルフは魔法をつかい、経験を積んだ冒険者ですら、戦うのが難しい相手――。
エルフにドミネートはつかえない。ボクも出会わないことを祈るばかりだった。
~~ エルフの少女 ~~
一人が焚火の近くを離れた。トイレだろう。用を足す場所はベースキャンプと離す必要がある。でも今回は、そんなベテランの知恵が裏目にでた。
ドミネート――。アーチャーの支配に成功する。これまでも他のメンバーがトイレに立ったが、ボクにとっては弓使いがもっとも厄介であり、彼が動くのを待っていたのだ。
アーチャーを操り、眠らせて隔離する。
アーチャーがもどってこないことで、彼らも焦りだした。
ガーディアンがアーチャーの探索にでる。大きな盾は、魔法すら結界によって防ぐ特別製。魔法に長けたエルフに対して、有効な武器となるため、探索役にはうってつけ……のはずだ。
でも、ドミネートには何の防御にもならない。アーチャーの隣に眠らせておく。
残されたウォーリアーと、メイジも明らかに危険が迫っていることを察したが、時すでに遅し。
ボクが姿を現わすと、彼らは敵と見定めて、ウォーリアーが接近戦を挑んできて、メイジは遠方から呪文を唱える。そう、この二人になれば、ボクが望む形に、勝手になるのだ。二人が離れたので、それぞれにドミネートを仕掛けて、眠らせればこの戦いは終わり。
ボクは彼らを殺さなかった。エルフの森を侵した……それはエルフが裁く話だろうから。
そこにいるのに、ずっとすわって動かなかったエルフの少女に近づく。
「大丈夫かい?」
そう話しかけると、美しい、整った顔立ちをした少女は、ボクをじっと見つめ、憐れみとは異なる表情で「助けて……」と懇願してきた。
「……で、何でエルフの少女を連れ帰ってきたの?」
「エルフの森にはもどれない、というし……。この辺りで、他にエルフ族のいるところは知らないし……」
ネルに詰め寄られ、しどろもどろになりながら、そう説明する。
そこには白い肌に、くせのつよいウェーブのかかった金色の髪と、あどけなさの残る顔立ちをした、幼いエルフの少女がいる。
幼い……といってもエルフは二百年ぐらいは平気で生きる種族であり、恐らくボクより年上だ。
ボクも詳しい話を聞いておらず、冒険者が壊滅したことで、エルフが殺到する前にエールウォーの滝を離れる必要があり、慌てて連れてきたのだ。
「詳しい事情、教えてもらえる?」
少女は重い口をひらいた。「私は……ルゥナ。父のラゥガとともにエルフの秘宝、タークォールの雫を手に入れようとしたのん……」
語尾が気になるけれど……。「……え? 冒険者を雇ったのは、君たち?」
「他のエルフにみつからないよう、仕事を終えるつもりだったのん。でも、作戦に失敗して……」
「自業自得か……」
「ちがうのん!」
ぷ~っと頬をふくらませたけれど、細かい説明をするつもりはないようだ。
でも、彼女が来たことで新たな問題が生じた。ボクが暗殺に出かけている間、山菜とりにでかけていたフィアが、ボクの帰宅を知り、満面の笑みで帰ってきたのだけれど、、そこにいるルゥナを見て、きょとんとした表情を浮かべる。二人の少女……、不安しかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます