第9話

 そして次の日、雨だった為殆どの傭兵達は街から出ようとはしなかった。

 それをこれ幸いにとフリゲリーはアルデバの宿へと向かう。扉を開いて中へ入るとアルデバを呼び出した。

 するとアルデバが階段を下りて来てた。今日は怪我の調子が良いらしい。

「あら、フリゲリーどうしたの?」

「アルデバ、明日夕日が沈む頃に街を出てすぐの廃材置き場に来て欲しい、詳しくはその時話す」

「え、ええいいけれど……何かあるの?」

「ああ、大切な事なんだ、頼むから来てはくれないか?」

「……解ったわ、明日の夕日が沈む頃ね」

「ありがとう、じゃぁその時に」

 そう言って宿を後にするフリゲリー。


 フリゲリーが宿へ戻ると、昨日と同じくロクホートが不満げな顔で菓子を頬張っていた。

「また不機嫌か?」

「君は馬鹿だなーと思ってさ」

「馬鹿で悪いか?」

「悪くは無いけど、自分の事大切にしなよって思うね」

「そうか、これでも自分を労わっているつもりなんだがな」

「全然労わってない無いよ」

「はは、そうか」

「はいはい、解ったから明日の用意しようね」

「ああ、解っている」


 次の日の夕日が沈む頃フリゲリーとロクホートが街を出てすぐの廃材置き場で待っていた。

 そうしているとアルデバが一人でやって来た。

「あら?待たせたかしら?」

「いや大丈夫だ」

「僕たちはアルデバさんに話があってね」

「アルデバ、俺は君の事が好きだ、好きで好きで堪らない」

「……え!?」

「だが俺と同じ気持ちの奴がもう一人いる、そいつとの戦いを見て、どちらが良いか決めて欲しい」

「ちょっと待って、私はそんなこと望んでない!」

「ああ、勝手に決めさせてもらった、済まない…こんな勝手な男で申し訳ない」

 そう遠くを見つめながら、呟くフリゲリー。そしてアルデバに向き直ると、

「アルデバ、君は無理をしてはいけないよ。病気の事をきちんと考えた方が良い、傭兵も辞めた方が良い」

 フリゲリーがそう言うと、アルデバは振り返り持った剣をフリゲリーに突き付けた。

「それは私の勝手でしょう?好きにさせて頂戴」

「俺は君を思って……」

 と言うが、口ごもってしまう。

 彼女に無理をさせてはいけないと思うフリゲリーなのだが、彼女の意志を尊重せずにはいられない。どうしたら良いものかと考えるがフリゲリーには良い案が浮かばず、彼女を引き留める外に方法が無かった。

 どうしたものかと考えるがフリゲリーには学がなく、率直に伝える外方法は無かった。

「君はまだ傷が治っていないんだ、だから」

「だから何!私は武勲が欲しいの!貴方と違って弱いから多少無理をしなきゃいけないのよ!!」

「そう言っても、怪我が完治するまで待ってからじゃ駄目なのか?今は無理をしちゃいけない時期だ」

「私は、早く、誰にでも認められる存在になりたいのよ!」

 断固として譲らないアルデバに、フリゲリーは困惑するしかなかった。

 丁度その時、エレンバーがやって来た。

「どもー、でフリゲリーさんやるんすね」

「ああ」

「彼がそうなの!?勝手に決めないで!!何がどうなってるのか説明して!?」

 するとフリゲリーが

「俺たちは恋敵なんだ、君を求めている。だからミデル族流のやり方、剣を交えた戦いで決めたいと思う。アルデバ、君にはこれを見届けて欲しいんだ」

「フリゲリー、貴方勝手よ!」

「勝手で済まない、だから見届けてくれさえすれば後はもう構わないんだ」

「そう言う訳でアルデバさん、俺勝つんで、絶対幸せにするんで!」

 そういうとエレンバーは大剣を抜いた。

 フリゲリーとエレンバーはお互い武器を構えると、一呼吸おいてから激突した。

 これは一人の女性を巡る戦いだ、一切の手加減は許されない。

 本気で大剣を振るうフリゲリーと、それを大剣でそれをいなす様に流すエレンバー。

 アルデバは困惑しながらもそれを見ているしか出来なかった。通りかかった傭兵達がそれを囃し立て、声を上げる。

 何度も何度も大剣を振るい合うと、スタミナが切れて来たのかフリゲりーの足がもつれ始めた。そこを狙ってエレンバーが大剣を振り下ろすと勢いを受け止めきれず尻餅をつくフリゲリー。そこにまた大剣が襲ってきて、寸での処で外れた。否エレンバーが外したというべきか。

 それで決着はつき、フリゲリーはアルデバに、

「こんな勝手な俺より、強いそいつとの方が上手くいくだろう。出来れば頼む」

「か、勝手ね、本当に貴方って」

「そんな勝手な男より、そいつの方が君にお似合いさ」

「フリゲリー………その、すんません」

「いい、それがお前の本当の実力だ」

 負けてしまったフリゲリーは静かに身を引くと、エレンバーとアルデバが体を近づけ睦会うのを見せつけられて、その場からロクホートと共にそそくさと退散するしかなかった。

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