第8話

 それからロクホートはというと、街の裏道を行く者達に声を掛けていた。なんでもいい、例のミデル族女性の情報を探していた。時には金銭のやり取りをしながら情報という物と交換をしていた。

 相手を選ばないロクホートは色んな種族や路上生活をしている者達にまで声を掛けて回った。

 一晩で得られた情報はごく一部だが、ロクホートは眠る事もせず、そのまま情報を集めて回る。

 情報収集を続けていく間に彼女の事が段々と解ってきたロクホート。これをこのまま伝えてしまって良いのだろうかと迷う様な内容だった。けれども彼はどんな情報が出ても構わないと言い張った。だから、ロクホートも集めた情報全てを伝える事に決めた。


 情報収集を始めて一週間、一通りの情報を集めたロクホートは宿へ戻った。けれど、フリゲリーは出払っているようで暫く一人で待つ事にした。

 丁度いい機会なので銃火器の掃除をすべてやる事にした。部屋に油の匂いが充満させながら一丁ずつ分解しては細かく掃除をし、油を差して組み上げ動作確認をする。それを持っている全ての銃火器に施していく。ロクホートが持っている全部で拳銃は五丁あり、その全てを細かく掃除をすると、荷物の中からショットガンを取り出してそれの掃除もしていく。

 そうしていると漸くフリゲリーが戻ってきた。

 部屋の油臭さに顔を顰めると、窓を開けて換気をする。

 そうして大剣をベッドの脇に置いて、買って来たものを整理し始めた。

 ロクホートがショットガンの掃除を終えると、フリゲリーに向き合った。

「フリゲリー、話がある」

「ああ、なんだ?」

「この間頼まれた情報収集、大方集まったから報告するよ」

「お、おお!?わ、解った…」

 ベッドに腰掛けたロクホートと、それに向き合う様にベッドに腰掛けるフリゲリー。

「で、なんだけど………はっきり言う、彼女は病気の身だ、傭兵として戦うなんて出来ない程に酷い病気だ。ミデル族だけが罹るキネル病だよ。聞いた事はあるだろう?」

「キネル病は聞いた事はあるが……実際に罹ってる相手は始めてた」

「どうやら彼女は元々体が強くなくて、けれど色々あって傭兵をしている。何故かは解らなかったけれど」

「そう………なのか………」

「それともう一人のミデル族の男、君より積極的らしいよ、本気で彼女が欲しいなら彼に勝たないといけないと思う。それだけ親しい仲だって聞いてるよ」

「そう、なのか」

 他に細かい事もあるけど聞くかい?と言うロクホートの言葉を拒否して、

「これ以上はいい、聞いたら俺自身どうしたらいいか解らなくなるからな」

「………賢明な判断だね」

 ロクホートにとってこれは聞かせるには問題のある情報だったので、聞かせないで済むならそれが良いと思っていた。なのでこれは良い方向なのだろうと思った。

「で、どうするのさ」

「キネル病は完治する方法が無い、彼女が何故傭兵をしているか解らないが、今俺が立ち向かうのはもう一人のミデル族の男だ。決着を付けなければいけないな」

「決着って……どうやってつけるのさ?」

「アルデバに立ち会って貰ってお互いどちらが強いかを見て貰う。それしか俺には思い浮かばない」

「それじゃ彼女の体調が良い日に頼んで対決するしかないね。相手にどう話付けるの?」

 そう言って心配そうにしているロクホートを見つめながら、

「直接会って話して勝負の日取りを決める、アルデバも体調が良いと良いんだが、そればかりは解らないな」

 フリゲリーは率直に思ったことを話した。彼の中ではこれはもう決まってしまっている事になってしまっていた。


 そうしてフリゲリーは例のもう一人のミデル族の男、レゾン・エレンバーが仲間と飲んでいる席で無遠慮に話しかけた。

「エレンバー、話がある。ちょっと来てくれないか?」

「別にいいけど…なんだよ話って」

 とエレンバーは席から立ち上がってフリゲリーの後を追い、店の端へとやって来た。

「それで、話って?」

「お前、アルデバが好きだろう?」

「はぁ!?いや!それはこんな処で話すもんじゃ無いだろう?」

「俺もアルデバが好きだ」

「…は?」

「つまり俺たちは恋敵なんだ、俺は早めに決着をつけたいと思ったいる。だから…」

「ちょっと待ってくれ!俺はまだそんな事決めてないしっ!?」

 フリゲリーはエレンバーの耳元で

「彼女は病気の身らしい、彼女を支える者が必要だと思った、俺かお前か……そう思ったから今ここでこの話をしている」

「病気!?か、彼女が!?」

「ああ、だから…」

「俺は独り身だから彼女のパーティに入る事も出来るって解ってて声かけたのか?」

「俺も似た様なものだ、だから、彼女に決めて貰いたいんだ、傍に居て欲しいのは誰かを」

「あんた、結構勝手だな」

「ああ、お前より年寄りなんでな」

「それで、何時、何処で?」

「明日、彼女に話す、だから明後日になるな、場所は街を出てすぐの廃材置き場が良いだろう、時間は夕日の沈む頃に」

「解った、勝手なオッサンだよ全く」

「………悪いな」

 そうして話を終えるとエレンバーは席へと戻って行った。何を話したのか聞かれたようだが適当にはぐらかしている様だった。


 フリゲリーが宿へ戻ると、ロクホートが不満気な顔で菓子を頬張っていた。

「不機嫌そうだな」

「そうだよ、僕の仕入れた情報で勝手にお節介な事しようとするなんて、思ってもみないじゃないか」

「それは済まないが……今夜の酒は俺が支払うからそれで勘弁してくれ」

「僕がどれだけ飲むか知ってるの?後悔しても知らないよ?」

「うっ……そこそこで頼む」

「ま、今回はそうしてあげるよ」

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