第2話

 ある程度飲み食いすると、食事代を支払い、宿へと向かった。

 『カルスの宿』という大きな宿へと入って行くと、

「ロクホートとフリゲリーが戻ってきたよ~」

 とロクホートが嬉しげに受付で言って宿泊の追加料金を払うと鍵を渡された。何時も使っている部屋へと向かう。四階建ての建物の三階の一室の扉へ 鍵を差し込んで解錠すると扉を開いて中へ入る。入り口近くにシャワーやトイレ洗面台があり、その奥の部屋に窓があり左右対称に壁側にベッドヘッ ドある状態の二つでベッドがあり、フリゲリーは左側へ、ロクホートは右側へと向かって行く。

 二人で一室を使う様になったのは、相棒としてコンビを組んでからで、最初は色々と揉めたものの、今となってはお互いのテリトリーに入らなければ 基本的に何をしても構わないという取り決めになった。それに宿代も折半出来て、今となってはお互い重宝しているのだった。

 フリゲリーのスペースはというと身長的に足りないベッドのサイズを補う為に足を置く台を設置し、液状食事のパックが棚に置かれ、背負っている大剣を置くスペースと義手を手入れする為の用品があり、整理された衣類が鞄状の袋に詰められていた。

 ロクホートのスペースはというと棚に数冊の本が置かれ、拳銃を整備する為の手入れ用品に銃弾などが置かれ、他に衣類などが棚に収容されてた。おやつとしての菓子の袋が棚に数個置かれていた。

「先にシャワー使うよ」

「ああ、義手の手入れをしている」

 そうして腕から義手を外してメンテナンスをしているフリゲリー。

 ロクホートはシャワーをさっさと済ませると、部屋着に滴る濡れた赤毛をガシガシとタオルで拭くと、しっかり乾いてない濡れたままの髪で戸棚から本を取り出して読み始めた。フリゲリーの義手の手入れが終わると、義手をベッドの上に置いていくとシャワー室へと入って行った。あっという間に部屋着に着替えて出て来たそして義手を左腕にはめ込むと、次は大剣の手入れを始めた。 

 そうして思い思いの時間を過ごすと、互いに「そろそろ寝るか」と言い出して、眠りにつくのだった。


 そもそも相棒にならないかと誘ったのはフリゲリーの方からだった。

 この戦場に来たのはフリゲリーの方が先だ。他の傭兵達とはそれなりに上手くやっていっていたが、如何せん自らがミデル族である事から少々避けられているのを実感していた。ミデル族が珍しい事もあるが、他の種族と違い感情が解りにくい点が大きいとフリゲリー自身そう思っていた。勿論戦闘では種族関係なく共闘するのだがその後だ、共に今日の武勲を祝う間柄にある者が居ないのが、少々ではあるが寂しさを感じていた。

 そんな時、西の戦場から流れて来たロクホートは、来て早々恐ろしい程の戦闘力を発揮した。一人で敵軍の一個中隊に当たる人数を軽々と屠り、それでいて怪我のひとかけらも無かったからだ。

 その功績から声を掛けるものが多く、様々なパーティや傭兵ギルドも勧誘に出たが、

「大人数で群れるのは苦手でね」

 と言ってこの街の大手ギルドに所属している者や仲間の多い傭兵達を一斉に敵に回した。

 フリゲリーが出会ったのは弱小ギルドのアルハドギルドに所属証明を書いている時だった。フリゲリー自身興味があったので軽く話しかけてみた。

「よお、おまえさん凄腕らしいが、このギルドで良いのか?」

 フリゲリー自身はミデル族であることから大きいギルドに所属することが出来ず、今のアルハドギルドに所属せざるを得なかった。

「えーと、何族だっけ?」

「ミデル族だ、ネイズ・フリゲリーという」

「そうだったそうだったミデル族ね。僕はカイゼ・ロクホート、ここのギルドのヒトかな?宜しく」

 そう言って手を出してくるロクホートに挨拶代わりの握手をすると、

「さっきも言ったがお前さんこんな弱小ギルドで良いのか?お前さんならどこでも優遇してくれるだろうに」

「ああ、そういうのには興味が無くってさ、面白いヒトと話がしたいからここに来たんだけど、他に違う人種は居るかい?」

 そう軽く笑みを浮かべながら言うロクホートに、

「俺の他にアデリー族やエルバド族やらが居るぞ」

「そうなのか、それは嬉しいね」

「なんだ?他種族と話したいのか?変わった奴だな」

「そうなんだよね、変わった奴なんだよ」

 そう微笑むロクホートに何か感じ入ったのかフリゲリーは興味をそそられた。

「お前さん、宿は決まってるのか?」

「いやぁ~来たばっかで決まってないんだよ」

「お前さん大手ギルドの誘いを断っただろう?圧力掛けられて恐らくお前さん泊る所多分無いぞ」

「だろうねぇ~」

 それにも笑顔で答えるロクホートに、どうしたものかと考えた末、フリゲリーは思い切った決断をした。

「………お前さん、俺と一緒の部屋はどうだ?」

「……え?」

 言った後に少々後悔しながら、フリゲリーは続ける。

「俺の部屋は二人部屋でな、そこしか空いて無かったから使っているんだが、正直部屋代が高くて困っている。折半で構わないなら、その…どうだ?」

「良いのかい?素性のよく解らない相手を一緒の部屋に連れて入って」

「そう言ってくるなら、大丈夫だと思うが?」

 フリゲリーはニヤリと笑ってみせるが、ミデル族は表情が解りにくいので笑っているのかはロクホートには解らなかった。

「それじゃお言葉に甘えていいかな?ついでに背中の大剣も気になるし、宿で色々話を聞かせてよ」

「俺のつまらない話で良いなら構わないが?」

「つまらないの前提なんだ」

 それにハハハと笑うロクホートに、フリゲリーは何ともいえない表情をする。ロクホートからはそんな風には見えなかったが。

 そうしてフリゲリーの使っている『カルスの宿』へとやって来ると、受付の者は良い顔をしなかったが、フリゲリーの連れという事で仕方がないという顔をして鍵を渡してきた。その鍵を受け取り使っている部屋へと向かう。

 三階にあるその部屋は左右対称でベッドヘッドが壁側に向いている二人部屋だった。左側のベッドは使用跡があり荷物が置かれていたが、もう片方の右側のベッドは使われた痕跡はなく、綺麗な状態のままだった。

「そっちを使ってくれ」

「悪いね」

 そう言うとロクホートはボスンとベッドに寝そべった。

「あー何日ぶりのベッドだろうー」

「シャワーもある、使うといい」

「有難く使わせて貰うよ」

「ああ、そうするといい」

 そう言って、義手の手入れをするフリゲリーを横目に、ロクホートはシャワー室へと向かうのだった。


 その日から二人はお互い一緒に行動するようになった。近接戦闘のフリゲリーと後方戦闘のロクホートとでは相性が良かったのもあり、いつの間にか二人は周りから相棒同士と呼ばれるようになった。

 本人たちもそれに不服は無かったので、言われるがままに行動するようになった。


 傭兵達の朝は早い。

 朝が来ると、二人とも日の出と共に起床した。

 互いに着替えると、洗面台を交代で使い、銃や剣、義手に異常がないか装備の点検をした後、万全の装備をしてから部屋を出て鍵を閉める。そうして部屋を出ると一階の食堂へ向かい、ロクホートは人間用の朝食を、フリゲリーはミデル族用の栄養食を頼むと、席に着いた。

 この宿はアルハドギルドに所属しているものが多い。かといって他のギルド所属の者も居る為、ギルドから宿へと出る給付金に差が出るもので、アルハドギルドの者達の扱いは他のギルドの者達と違い粗雑に扱われている。

 現にロクホートの食事は昨夜の酒場で出た料理よりも質素かつ量の少ない食事を渡されている。他のギルドの者はそうではないらしい事がすぐに見て取れた。けれど文句を言う事も無く、ロクホートは出されたコーヒーに口を付け、パンに何も塗らずにそのまま口へ放り込む。そうして何個かのパンを食べ終えると、ミデル族用の栄養食のパックを飲んでいたフリゲリーの食事が終わるまで待つのだった。

 そうしてゆっくり朝食を食べ終えると、宿に部屋の鍵を預けて、ガゼリアの街を出て漸く戦場へ向う為宿を後にした。

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