黄昏の戦場
ミコシバアキラ
第1話
隣り合う二つの国があった。片方はライゼン王国、もう片方はエルフタ共和国。隣り合うこの二つの国はあるきっかけから戦争に突入した。もうかれこれ九年にも及ぶ戦争が続いていた。兵力が足りなくなった両国は、力のある者たちを集め傭兵として雇う事を始めた。それを聞いた隣国の猛者達が二つの国に別れ、激化する戦争に拍車をかけていた。
ライゼン王国の国境付近の街ガゼリアの近くでも戦闘は続いていた。
オレンジに染まり始めた空の下で、ある者は剣を振りかぶり、クロスボウで狙う者も居れば狙撃用ライフルで遠くから狙い撃つ者も居て、大斧で薙ぎ払う者も居る。その連携プレーで敵戦車を一つ機能停止させた。
「奴ら戦車潰したのか!?」
ネイズ・フリゲリーは驚いたように声を上げた。
相棒のカイゼ・ロクホートはそれを瓦礫の上から見ながら、
「おーやるねぇ~」
そう呟きトントンと瓦礫の山から降りると、隣に居る長身の男フリゲリーが、
「そんな事を言っている場合か、さっさと援護に行くぞ」
「解った解った」
そう言うと先に行く相棒の後を追って戦車へと近づいていく。
「そう言えば聞いていなかったが、ロクホートお前歳は?」
「三十一」
「は?思ったよりいってるな……」
「因みにフリゲリーは?」
「二十一」
「いやぁー若いね、けどミデル族の年齢は見た目からじゃ全然解らないや」
「ミデル族は十五歳で成人なんだがな」
そうフリゲリーは困った様に顔を掻いたが、ミデル族の特徴として平たく能面の様な顔に小さな目と口、鼻は無い。表情を変えても同族でなければ解らない。ミデル族の男はそれに加えて長身でがっしりとした体格の者が多い。フリゲリーの場合は左腕を失ており義手になっている。殺傷力の高そうな 爪を付けたSF空想小説の中に出てくるの様なロボットの様だと、見た者は言うのだった。そして見た目は妙な周囲に威圧感を与える。黒い衣装を好んで身に着け、返り血を浴びても気にならないからだと本人は語っていた。
ロクホートは血の様な赤黒い髪をしてタレ目で緑の瞳には楕円の眼鏡を掛けている人間の男性だ。身長は人間の男性の平均よりも低く、ダボ付いたサイズの大きい服を身に纏っていた。
フリゲリーとロクホートは戦車に近付くとトンットンッと上まで飛び上がり、ロクホートが腰に差している拳銃を抜くとバンバンと二発撃って金具を無理矢理破壊すると、フリゲリーの大剣でキューボラ、指令官が居る座席部分の隙間に差し込むと蓋を無理矢理こじ開けた。
中に居た敵司令官をフリゲリーその大きな手で引きずり出すと、戦車の下に落とした。中に居た生き残りの敵兵士も引きずり出し、戦車の傍に放り投げるとガタガタと歯を震わせて傭兵たちを見上げる。敵司令官を縛り上げると、他の震え怯える敵兵士たちは無慈悲にもロクホートの拳銃により心臓を撃ち抜かれて絶命させられた。
「お、俺をどうする気だ!」
それにロクホートは、
「君には利用価値があるから生き残しているだけで、利用出来ないとなれば……解ってるよね」
とその言葉に奥歯が震えだす敵司令官。後ろ手に縛られた状態の敵司令官をロクホートが拳銃を突き付けて街がある方角へと歩き始めた。
丁度夕日が沈み始めた頃で、他の傭兵達も引き上げ始めた。
この戦場では日が昇ると戦いを始め、陽が沈むと軍の兵士以外の傭兵達はガゼリアの街へと戻っていくのだった。
ガゼリアの街へと辿り着くと、敵の司令官を軍の本部に引き渡した。
その後は、皆登録しているギルド本部へと向かって行く。そこで今日一日の働き分の賃金である金貨銀貨を受け取ると、気に入りの酒場へと向かって行く。
フリゲリーとロクホートも登録しているアルハドギルド本部へ向かい金貨数枚を受け取ると、気に入りの酒場『ルーナ』に向かい、何時ものA定食を頼む。フリゲリーはミデル族用の食事と白ワインを頼むのだった。
「ぷはー!旨いねぇ!」
「ん、旨いな」
ビールをジョッキでごくごくと飲むロクホートと、共にワインをストローで飲むフリゲリー。
その後、ロクホートはパンにバターをたっぷり付けて頬張ると、フリゲリーをはじめとするミデル族は固形物質を摂取することをせず液体化された食事をパック詰めした物を小さな口で咥えて飲んでいく。
「よくそんなに噛むのが必要な物を食べるものだな」
「この噛み応えが堪らないんだよ、人間にとっては。ミデル族が食べ物に執着しないのが驚きだよ」
「食べ物と言えばただの栄養補給だ、味だのなんだのに興味はないのでな」
「その辺り、相いれないなー」
ミデル族の中にも食事にこだわる者も居るらしいが、残念ながらフリゲリーはそうでは無いらしい。
そんな風に言いながら、ロクホートは鶏肉のローストに齧り付いた。迸る肉汁を味わいながら鶏肉を味わう、骨だけになるまで肉を綺麗に削ぎ取る様に食べると、もう一つの鶏肉に手を伸ばした。
「よくそんなにがっつけるな」
「人間は食いしん坊なんだよ」
「そうか、成程な」
そう時折会話を挿みながら、ロクホートは鶏肉やパンやスープを、フリゲリーはパック詰めされた液状の栄養食を、のんびりと取りながら夜は更けていくのだった。
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