第95話 オーケンを追い詰めろ
オーケンの居場所は想像がついた。
おそらく中央制御室だ。
エリシモさんを人質にして、きっとそこに立てこもっているはずである。
一度は来たことがある場所だったので、僕は真っ直ぐに中央制御室を目指した。
途中で隔壁が何枚もおりて下りていたけど、そのつどロックを解除したり、壁に穴をあけたりして進んだ。
少し時間はかかったけど、中央制御室のロックも何なんとか開錠してしまう。
穴から現れた僕を見て、オーケンは色を失っていた。
「なんなんだよお前は! どうして扉を開けられる? どうしてしつこく追ってくるんだよっ!」
オーケンが双剣を振り回しながら駄々っ子のように喚いている。
その腕には怯えるエリシモさんが捕まっていた。
「オーケン、エリシモさんを返せ!」
階段を踏み出そうとすると、オーケンが声を荒げた。
「おっと、それ以上近づくんじゃない。近づけばエリシモ殿下の命はないぞ」
奴の目は本気だった。
もともと人殺しを
「俺がこの女を殺さないと思ったら大間違いだぜ。古代語を読める人間は他にもいる。そいつらをさらってくりゃあいいだけのことだ」
おそらく、オーケンは本気でそう考えているんだろう。
「何なにが望みだ?」
「武器を捨てて大人しく投降しろ。そうすれば命だけは助けてやる。エリシモ殿下のためにな」
「そんな要求はのめない 」
断ると、オーケンはわざとらしい溜息をついた。
「おいおい、そりゃあないんじゃないか? エリシモ殿下が死んじまうぜ。このお姫様はよ、愛しいセラちゃんのために国を売ったんだぜ。なんでも言うことを聞くからセラを殺さないで、ってな!」
「やめてっ!」
絶叫しながら、エリシモさんが僕に古文書を投げて寄こした。
完全に油断していたらしく、オーケンも古文書が僕の手に渡ることを許してしまう。
「それにはアヴァロンの運用方法が書かれているわ。セラ、それを持って逃げて!」
「このアマめ……」
オーケンの左手がエリシモさんの首にかかり、指がめり込んでいく。
「うぐっ……」
呼吸ができなくなったエリシモさんが小さく呻いた。
「やめろ!」
「やめてほしかったらさっさとそいつを返しやがれ。じきに死ぬぞ」
酸素不足によるチアノーゼが出ている。
エリシモさんの顔が青く変色してきた。
僕は慌てて古文書を投げ返す。
「受け取れ!」
オーケンは用心深く片手で古文書を受け取ると、エリシモさんを掴んでいた手を少し緩めた。
「ゲホッゲホッ!」
エリシモさんの細い首にくっきりと指の痕後がついている。
オーケンは本気でエリシモさんを絞め締め上げていたのだ。
「これで振り出しに戻ったな」
オーケンはにんまり笑うが、僕も笑顔で応じた。
「そうでもないさ」
「なんだと?」
「大事なページを何枚か消しておいたんだ」
「バカな、そんな時間はなかったはずだぞ」
そう、本当はそんな時間などなかった。
エリシモさんを助けたくてすぐに古文書は投げ返したから。
でも、僕はしゃべり続ける。
「嘘だと思うんなら調べてごらんよ。最初の百100ページほどが白紙になっているから。ページをもとに戻してほしかったらエリシモさんを解放しろ!」
オーケンは再びエリシモさんの首に手をかけた。
「妙な真似をしたらこいつの首を折るからな」
そう言って台に置かれた古文書のブックカバーに手をかけて、留め金を下に引く。
すると突然ブックカバー全体が光り出し、数千という光るトゲがオーケンに襲い掛かかった。
「あっ!」
僕は古文書に細工なんてしていない。
かつて外したロックを再びかけ直しただけである。
それを不用意に開けようとすれば、トラップが発動するのはご存じ の通りだ。
トラップの発動と同時に踏み込み、オーケンの肩を打って、エリシモさんを解放した。
「大丈夫ですか?」
「セラ!」
エリシモさんが僕の胸の中に飛び込んできた。
かわいそうに、ぴったりと体をつけてブルブルと震えている。
白い首には絞められた痕が青黒くついていて、オーケンに対する嫌悪感がさらに増した。
「後で治療しますから、もう少し待っていてくださいね」
強い力で縋り付いてくるエリシモさんを無理に離して、オーケンに向き合った。
「オーケン、諦めて投降しろ」
「うるさい! うるさい! うるさい! あとちょっとだった……。あとちょっとで世界が手に入るところだったんだぞ! それを邪魔しやがって」
上半身に無数のトゲが刺さった状態でオーケンがわめいて喚いている。
「古文書のロックは僕以外には外せない。治療だって大変だぞ。もう、終わりなんだよ」
そう言うと、オーケンは俯いてピタリと動かなくなってしまった。
「そうかい……終わりかい……。だったら……お前ら二人とも道連れだ!」
エリシモさんに向けて小さな暗器が飛んできた。
フレキシブルスタッフ で撃ち落とすと、それは四つ足の菱で、先端に毒が塗ってあるようだった。
奴は執拗にエリシモさんを狙ってくるので、僕は守るのに手いっぱいになってしまう。
「もういやあっ!」
恐怖で怯えたエリシモさんが、戦闘から逃れようと走り出してしまう。
「エリシモさん、ダメだ!」
下手に動かれると守ることができない。
チャンスと見たオーケンが五個の菱を同時に投げてきた。
そのすべてを撃ち落とすことは不可能だ。
こうなったら身を挺してエリシモさんをかばうしかない。
僕は床を蹴って、エリシモさんの前に飛び出した。
ところがその僕の前にさらに飛び出してきた人がいた。
「メリッサ! どうして……」
「いいから、オーケンを……」
即効性の毒 のようでメリッサの顔から血の気が失われている。
なんてことだ、僕の代わりにメリッサが毒を受けるなんて……。
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