第93話 アヴァロンにとりつけ!


 エレベーターの出口は砂漠の真ん中に突き出ていた。

以前にこんなものを見かけた記憶はない。

おそらく格納庫の天井が開いたときに出現したのだろう。


 僕たちが地上へ着いたときには、アヴァロンはすでに大地から百メートル以上も上昇していた。


「ミレア、僕を抱えてあそこまで飛べる?」


「夜ならそれも可能だけど、まだちょっと無理だわ……」


 マントで直射日光を遮りながらミレアは答えた。

ヴァンパイアである彼女にとって、太陽の光は殺人光線と同義だ。

日の光が注いでいるうちは百パーセントの力が出せないのである。

太陽が沈むまではあと一時間くらいはかかるだろう。

そんな余裕は僕らにない。

その間にアヴァロンは遠く離れてしまう。


「くっそぉ、もう、手はないのかよ!」


 ララベルが悔しそうに空を見上げる。


「いや、まだ手はあるさ!」


 僕はグランダス湖の湖畔にある自分の工房へ向かって走り出した。



 砂の上を全速力で走ったので他のメンバーとの距離がだいぶ空いてしまった。

唯一の例外はメリッサだけだ。

彼女だけは僕の脚力についてきている。


「セラ、どうする気?」


「シルバーホーク0式で追いかける」


 試運転もまだの機体だけど、もうそれしか方法がない。


「ついにアレが飛ぶのね」


「だけど、ひょっとしたら空中でバラバラになってしまうかもしれないんだ。特に無理な飛行をすれば……」


 戦艦からの攻撃だって考えられる。

急旋回なんてしたらどうなるかはわからない。

できることならメリッサには乗ってほしくないというのが本音だ。


「それでもいい、セラと一緒なら怖くない」


「メリッサ……」


「あいつを落っことしに行こう」


 メリッサは僕をピクニックに誘うみたいにそう言った。

僕らの飛行機が壊れるだなんて微塵みじんも考えていないような笑顔だ。


「わかったよ。一緒に行こう」


「うん!」


 タロスと剣の闘神に手伝わせてシルバーホーク0式を工房から引っ張り出した。

浮遊装置、推進器、すべての計器はオールグリーンだ。


「よし、出発するよ!」


 後部座席にメリッサが滑り込む。

と、ここで追いついたシドとリタとララベルがシルバーホーク0式の脚に飛びついた。


「みんな!」


「私を置いていくなんてひどいよ、セラ」


「そうだそうだ! このグレネードをあのデカブツに食らわせてやるんだから」


「いいから、さっさと飛べよ。置いていかれちまうぜ」


 もうあれこれ言っている暇はない。


「みんな、しっかり掴まっていてね。シルバーホーク0式、発進する!」


 二基のプロペラが回転速度を上げて、シルバーホーク0式は緊急発進した。

目指すは西に遠ざかる巨大戦艦だ。

あれを何なんとかするには、オーケンたちが戦艦の運用に慣れていない今が最後のチャンスだろう。


「このままアヴァロンの甲板を目指して突撃するよ。まともな着艦は期待しないでねっ!」


 乾いた大地にプロペラの唸りが大きく響き渡った。



 小型機なのでスピードはシルバーホーク0式の方があり、アヴァロンに追いつくのは簡単だった。

だが戦艦からの魔法攻撃は激しく、取り付くのは難しい。

機銃のような武装から飛んでくるのは無属性のエネルギー弾だ。

弾幕が厚い、これじゃあ近づけないぞ。


 不意に後部座席のメリッサが立ち上がった。


「何なにをするんだ、メリッサ? 危ないぞ!」


 エネルギー弾は機体をかすめて飛んでいる。

当たればタダでは済まないはずだ。

それなのにメリッサは無言のままに氷狼の剣を抜き、精霊狼を二体召喚した。

精霊狼は銀の尾を引きながら砂漠の空を走っていく。

彼らの軌跡にかすみが立ち上が った。


「そういうことか!」


 精霊狼の作る靄が煙幕のように広がっていく。

シルバーホーク0式はその中を飛び、翼に損傷を受けながらもアヴァロンの甲板に不時着した。

ほとんど追突といっていい着地だった。


「いたたたた……。みんなケガはない?」


「けっこう重症だよ」


 肩を押さえたリタが答える。


「アタシも脚が……」


 ララベルのパンツには血が滲んでいた。


「腰が、腰がぁ……」


 シドもか……。


 僕は大急ぎで皆を『修理』で治療した。


「とんでもねえ無茶をしやがって。まあ、治ったからいいけどよお……」


 シドが腰をさすりながらブツクサ言っている。


「ほんとに、セラじゃなきゃ完全な自殺行為だよね」


「ごめんよ、リタ。もう痛くない?」


「ええ、大丈夫。それより入り口を探しましょう」


 どこから内部に入ろうかと考えていたら、正面にあった鉄の扉が左右に開き、敵が向こうから現れてくれた。

聞き覚えのある嫌味な声が響く。


「いよぉ、セラ・ノキア。こんなところまでご苦労なこった。せっかく来たんだ、歓迎してやるぜ」


 人を馬鹿にしたような態度のオーケンが、部下を従えて現れた。

自分が負けるだなんて少しも考えていないようだ。

僕の中で凶暴な欲求が鎌首をもたげる。

コイツにほえ面をかかせてやるっ!

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