第92話 アヴァロンを追え!

 地下十階へ戻った僕たちは、パミューさんたちと合流した。


「セラ、戻ってきてくれたか!」


「はい、すぐに出発しましょう。みんなで力を合わせればオーケンの野望をきっと防げます」


「よし、全員突撃だ。オーケンを成敗した者には恩賞を好きなだけ取らす! 一兵卒であっても爵位を授けるぞ」


 パミューさんの言葉に、兵たちの士気はあがっていた。


 再び長い通路を抜けて格納庫を目指した。

ところが、格納庫の手前まで来て僕らは異変に気がついた。


「扉が閉じているぞ!」


 パミューさんに指摘されるまでもない。

何重ものロックが掛かった金属製の扉は閉鎖されていしまっていたのだ。


「あーはっはっはっ、残念だったな。もうこちらには入って来られないぞ」


 壁に設置されているスピーカーからオーケンの声が聞こえてきた。


「ここを開けないか! 命令だぞ!」


 パミューさんが叫ぶけど、言うことを聞くようなオーケンではない。


「本当はお前たちなど、なぶり殺しにしてやりたいところだが、姉と小僧の命を助けないとエリシモ殿下は古代語の翻訳をしてくれないからな。命だけは助けてやるからありがたく思えよ」


「セラ! お姉さま、逃げてください。早く!」


 オーケンの後ろからエリシモさんの声が聞こえる。


「エリシモ、オーケンの言うことなど聞くな。すぐに戦艦を止めるのだ」


「私には……無理です」


「それでも帝国の皇女か! これは祖国存亡の危機なのだぞ。オーケンの脅しに屈してはならん。たとえ死んでもアヴァロンを止めろ!」


「無理なのよ……、だって、言うことを聞かないとセラに向けて主砲を発射するって……」


 オーケンの奴め、僕を脅しの種に使っているのか? 

もう許さない!


 怒りに任せて「解体」でロックを外そうとしたら、僕の体に電撃が流れた。


「ひゃっはっはっはっ! 言い忘れていたけど、その扉を無理に開こうとするとひどい目に遭うらしいぜ。まったく、古代文明ってのは恐ろしいよなぁ」


 攻撃性を持った防御壁か。


「お前たちはそこで俺様が世界の覇王になるのを見ておけ。この艦はそろそろ出発だ。じゃあな!」


 周囲にアラームが鳴り響き、異様な振動が体に伝わってきた。


「な、なにごとだ?」


 ふらつく身体でパミューさんがしがみついてくる。


「戦艦が動き出そうとしているのか? こうしてはいられない!」。


 一刻も早く扉を突破しなければ。


「どうする、セラ? マジックグレネードで扉を破壊するか?」


 ララベルが提案してくるけど、マジックグレネードの威力程度ではかすり傷をつけるのがせいぜいだろう。


「いや、扉がダメならこっちだ!」


 僕は壁に手をついてスキャンを施す。

壁は鉄板入りの分厚いものだったけどスキルを使えば通路は作れそうだ。


 ありったけの魔力をフル回転させて壁に穴を開けていくと、やがて人一人が通れるくらいの穴ができた。


「よし、突入する!」


 僕は這いつくばり、匍匐前進ほふくぜんしんで穴の中を進んだ。



 格納庫内はさっきよりも明るかった。

なんと天井部分が開いていて、赤みを増した夕方の空が見えているではないか。


 周囲の様子を窺うと、異音を立てながら戦艦アヴァロンが浮かび上がるところだった。

開口部から外へ出るつもりなのだ。


 全長四百メートルもの物質が浮き上がるさまは圧巻だった。

しばらくは思考が停止して、言葉が出てこない。

古代文明はなんてものを作り上げたんだ……。


「待て!」


 我に返った僕は走って追いかけるが、すでにアヴァロンは三十メートル以上浮かんでいた。

ジャンプをしてもギリギリで追いつくことができなかった。


「遅かったか」


 僕の次に格納庫へ入ってきたメリッサも呆然と浮かび上がるアヴァロンを眺めている。


 何なんとかならないのだろうか? 

使えそうなものはないかと周囲を見回すと、地上に向かって伸びる鉄柱が見えた。


 あれは……エレベーターか!


「あれに乗る!」


 叫んで向かうと、穴から這い出してきたデザートホークスたちも次々と僕の後に続いた。


 エレベーターに飛び込み、すぐに上昇ボタンを押すした。

乗っているのはデザートホークスの仲間だけだ。

パミューさんたちを待っている暇はなかった。


 高速エレベーターではあったが、アヴァロンとの距離はあまり縮まらなかった。

このままではオーケンを取り逃がしてしまう。

僕は祈るような気持ちで上部に浮かぶアヴァロンを睨み続けた。

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