第87話 アヴァロンとは?
狭い通路を守る兵士たちの頭上を、ターンヘルムで姿を消した状態のまま飛び越えた。
音もなく着地できたので僕に気が付く者は誰もいない。
奥の方へ行くと兵士たちが食事の準備をしている姿が目についた。
近未来的な部屋の中で床に魔導コンロを並べ、鍋をかき混ぜる姿はどこかシュールだ。
そう言えば朝に食事をしただけで、お昼ご飯も食べていない。
ずっと氷のボートで移動していたから食事休憩ができなかったのだ。
帝国兵たちは腹を満たしてから本格的な調査に乗り出すのだろう。
さて、パミューさんとエリシモさんはどこへ行ったかな?
様子を窺いながら奥へ行くとカジンダスの連中が守っている部屋があった。
オーケンのやつも仁王立ちで警護に当たっている。
あいつらが守衛をしているということは、この中にお姫様達たちがいるのかもしれない。
すぐ隣に部屋があるから、こちらに潜り込んでみよう。
僕が入った部屋は何なにもないところだった。
かつては倉庫だったのかもしれない。
空っぽの棚だけがそのまま残されている。
薄暗い部屋を横切り、パミューさんたちがいると思しき方面の壁に耳をつけてみた。
だが、何なんの音も聞こえてこない。
さすがは古代文明の遺跡である。
僕が借りていた安アパートとは大違いだ。
『解体』のスキルを展開して壁の一部に小さなのぞき穴を作ってみる。
お、向こうの部屋の会話が聞こえてきたぞ。
あれはパミューさんとエリシモさんの声だな。
思った通りパミューさんとエリシモさん二人はこの部屋の中にいたようだ。
向こうの部屋は煌々と明かりがともり、メインコントロールルームといった風情を漂わせていた。
二人は椅子に座って光る石板を覗き込んでいる。
エリシモさんが操作するその石板は大型のタブレットのようだ。
辞書を片手に解読しながら、指で画面をフリックしている。
画面の操作をしながらエリシモさんが口を開いた。
「冒険者たちは全員地上へ戻したの?」
「ああ、奴らにもう用はない」
「セラも帰してしまったのね……」
責めるようなエリシモさんの言葉に、パミューさんはイライラした態度をとっていた。
「仕方がなかろう、。私だって好きでセラを地上へ帰したわけじゃない。本当ならずっとそばに置いておきたかったのだ。だが、ここから先は帝国の最高機密に関わるのだ。アヴァロンが古文書の通りのものならば、それは帝国にとって諸刃の剣になりかねない」
またアヴァロンか、いったいどんなものなのだろう?
「わかっているわ。ただ、私は発見に舞い上がってしまって、ちゃんとお礼も言えなかったから……」
「セラには後できちんと報いてやればいい。なんなら私の親衛隊に招き入れ、ゆくゆくは隊長に据えてやってもいいと考えている。セラが隊長になれば皇帝直属のカジンダスを)凌ぐ組織になるぞ」」
「はたしてセラがそれを喜ぶかしら……」
エリシモさんは小さなため息をついた。
「あれも大人になればその価値がわかるはずだ。今はまだ遊んでいたい年頃なのだろう。エリシモだってそう思うだろう?」
エリシモさんは何なにも答えずにパネルの操作をしている。
「よし、これで地下格納庫の全システムが復旧したはずよ」
格納庫?
ここはそういう施設なのか。
だったらアヴァロンというのは……。
エリシモさんはメモを取りながらパネルをいじり、パミューさんは無言でそれを見守っていた。
二人にそれ以上の会話はなく、重苦しい時間が流れていく。
だが、五分くらい経つとエイミアさんが部屋の中へ入って来た。
「報告します。封鎖されていた扉の解除が確認されました。いつでも通れます」
二人のお姫様は立ち上がった。
「行きましょう。なんとしてもこの任務は成功させなければならないわ」
「ああ、そのために皇女たる我々が派遣されて来たのだ」
二人はタブレットを持ち上げて部屋を出ると、カジンダスを引き連れてさらに奥へと向かった。
いよいよ隠された秘密とご対面のようだ。
僕も足音を忍ばせながら、みんなの後をついていった。
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