第82話 彼女はいったいどんな顔をしていたのか
よくわからない夢を見た。
夢の中で僕は前世の
しかもまだ六歳くらいだ。
縁日でお母さんにあんずの水飴を買ってもらうんだけど、僕は泣いている。
本当に欲しかったのはあんずの水飴じゃなかったからだ。
「じゃあ、なにが欲しいの?」
お母さんに聞かれたけど、僕にはわからなかった。
本当に欲しいものは自分でもわかっていなかったのだ。
ただ、これじゃないと言って涙を流していた。
自分の涙が頬を伝う感触で目が覚めた。
ぼんやりした頭に周囲の人々の会話が入ってくる。
なんだろう、よ良く知っている人たちの声だ……。
「セラは休んでいると言っている。お引き取り願おう」
メリッサの声だ……。
「別に食事を急げと言っているのではない。セラの様子が見たいと言っているのだ。そこをどけ」
こちらはパミューさんの声である……。
「しつこいな」
「貴様、皇女に対して無礼ではないか。身の程を
なんだかケンカをしているような……。
「ふふん、お前こそなにができる? 帝国皇女の力とやらを検分してやってもいいのだぞ?」
「なんだと……私が誰に対しても寛大だと思うなよ」
まずい!
突然頭がはっきりとして、僕は荷台から飛び出した。
「ストップ! そこまでっ!」
メリッサが抜刀した騎士数人に囲まれている。
僕は慌てて間に入った。
「セラ、そこをどけ。その女を不敬罪で捕らえる!」
「やめてください、パミューさん。メリッサも剣をしまって!」
二人ともにらみ合ったまま引こうとしない。
「かばい立てするな。お前も一緒に捕まえるぞ」
「だったらそうしてくださいよ」
二人で捕まった方が逃げるのも簡単だろう。
僕があくまでもメリッサをかばうのを見て、パミューさんは子どものように
「なぜだ、なぜそうまでしてこの女をかばう?」
「だってメリッサは仲間ですから。それに……」
「それになんだ!?」
「僕の許婚でもあるんです」
「なん……だと……」
パミューさんは驚愕の瞳でしばらく僕らを見ていたが、やがて踵を返して無言のまま立ち去ってしまった。
ずいぶんあっさりと引き上げたな……。
どうやらこの場は収 まったらしい。
僕もオーケンに喧嘩を売っているから人のことは言えないけど、帝国皇女に真正面からつっかかるなんてメリッサは無茶もいいところだ。
僕らの後ろに集まってきていたデザートホークスのメンバーたちも、ほっと胸をなでおろしていた。
「あービックリした。逃亡生活が始まるのかとひやひやしたぜ」
シドが笑いながら頭をかいている。
「アタシはいつだって家出の準備はできているからね。セラと一緒に飛空艇を奪ってトンズラしたってかまわないさ!」
ララベルは楽天的だ。
「あーっ! メリッサったらとんでもないドヤ顔をしているわよ。皇女の前で許嫁宣言されたからっていい気にならないで!」
ミレアがメリッサを指さして叫んでいた。
メリッサのドヤ顔?
そんなの見たことない。
興味に駆られてメリッサを見ようとしたけど、顔を背けられてしまった。
メリッサと目が合あったリタも指をさす差す。
「ほんとだ! メリッサのくせにニヤケちゃって、氷の鬼女らしくないっ!」
メリッサがにやけている?
信じられない!
「メリッサ」
「またあとで!」
顔を隠しながらメリッサは走って部屋を出て行ってしまった。
それにしてもメリッサはいったいどんな顔をしていたのだろう?
気になって仕方がなかった。
シドが寄って来て僕の脇腹を肘で小突いた。
「ついにセラも年貢の納め時か? ハーレムを解体してメリッサに決めるわけだ」
「なにを言っているんだよ。メリッサが国の決めた許嫁ってことはみんな知っているだろう? だから僕はかばったわけで、本当に結婚するかはまだ保留だよ……」
十三歳の子どもにそんなことを決めさせないでほしい。
「そうよ、シド。余計なことを言わないで!」
「変な口を挟まないの」
「シッシッ!」
リタ、ミレア、ララベルにまで邪険に扱われるシドはかわいそうだった。
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