第81話 新しい武器
再び静寂に包まれた部屋で、今度こそ僕は鮫噛剣の修理をしようとした。
だけどエリシモさんに会って、僕はとあることを思い出した。
それはエリシモさんに刺さっていたトゲのことだ。
あれは古代文明の高度な技術によって作り出された特殊な魔法合金だ。
特定の波長の魔力を送り込むと形が変化するという性質を持っている。
その技術を応用すれば、刃こぼれしても自動修復する武器が造れるかもしれない。
さいわい構造は帝都で解析済みである。
前金としてもらった金晶や銀晶などを使えば合金の再現は可能だろう。
僕はさっそくメモ帳を取り出して、例の金属について書かれたページを開いた。
素材は手持ちの物で事足りそうだ。
よし、鮫噛剣の修復は後回しにして、新しい武器の製作をしてしまおう。
「ミノンちゃん、でへ、でへ、でへへ……」
シドの寝言が聞こえる。
きっと幸せな夢を見ているのだろう。
僕はみんなを起こさないように、そっと素材を台の上に並べた。
大あくびをしていると、シドがカフェオレをなみなみと注いだマグカップをくれた。
「また徹夜か? ひょっとして女のことでも考えていたか?」
それはシドだよ……。
寝言でミノンさんのことを呟いていたもん。
「違うよ、新しい武器を作っていたんだよ。ほら、鮫噛剣はオーケンの奴に壊されちゃったから」
シドは軽く肩をすくめた。
「あれほどオーケンにはかまうなと言ったのに困った奴だ。今度はどんな武器を作ったんだ? 見せてみろよ」
「これ……」
僕が取り出したのはボールペンより少し太い、万年筆サイズの杖だ。
魔法学校に通う、額に傷がある少年が使う杖よりもだいぶ短い。
「これが武器?」
「うん。フレキシブルスタッフって名前を付けた」
魔力を込めながら軽く振ると杖が光り、一気に二百センチまで伸びた。
太さも直径三センチ強になっている。
「うおっ、でかくなった! なんだこりゃ?」
「最初は刃こぼれしても自動修復する剣を作ろうと思ったんだよ。でも、どうやっても剣の形を固定できなくてさ。明け方までかかってようやく棒の形にだけは固定することができたんだ」
さすがは古代文明の特殊合金だ。
解析はできたと思っていたのだけど、一晩で再現するのは難しかったのだ。
おかげで剣はできずに、孫悟空の使う
ただ、これはこれで便利な武器ではある。
長さは最長十メートルくらいまで伸びるし、太さも直径十センチまでは変えられる。
ある程度強度も調整できるので、しならせることだって可能なのだ。
杖や棍の闘神に技を習えば新境地が開けるかもしれない。
「またみょうちくりんな武器を作りやがって……、どれちょっと貸してみろ」
「重さは十六キロあるから気を付けてね」
「ゲッ、腰を痛めちまうじゃねえか!」
シドは差し出した手を引っ込めた。
一般的な剣や槍の重さは一~三キロくらいである。
それに比べたらこの武器の重さは破格なのだ。
その代わり破壊力も抜群である。
「馬鹿力のセラ以外には使えない武器だな」
大抵の武器なら、打ち合わせた瞬間にへし折る自信がある。
こんどオーケンの奴が因縁をつけてきたら、もう一本の剣も破壊してやるつもりだ。
お姫様たちの朝食を届けに行ったときに確認したけど、奴は予備の剣を下げていた。
徹夜のせいで眠くてかなわなかった。
体調は『修理』で治せるけど、脳にとっては睡眠が必用なのかもしれない。
「寝ていていいよ。私が操縦するから」
タンクの操縦はメリッサが代わってくれると言うので、ありがたくお願いした。
僕は荷台に乗り込み、物資の間に挟まって目を閉じる。
クローラーの振動が響いていたけど、目を閉じるとすぐに眠気がやってきた。
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