第75話 再開
外へ飛び出して空を見上げると、北の方から三機の飛空艇がやってくるところだった。
一般的に飛空艇はくすんだオレンジ色をしているのだけど、中央の機体はこれまで見たことのない深緑色である。
しかも大きい。
普通の二倍はある大型船だ。
飛空艇が三機も同時にやってくるなんて初めてのことだぞ。
ひょっとしてパミューさんが僕に追手をかけたのか?
あの飛空艇には僕を捕らえるための兵士が中隊規模で乗っているのかもしれない、と考えたが、それも大袈裟な話である。
普通なら先に監獄長へ捕縛命令が届くはずだ。
わざわざ中央から兵士を派遣してくるなんて妙な話でもある。
となると、デザートフォーミングマシンの存在がバレたか?
帝国はずっとデザートフォーミングマシンを動かすためのキーになる聖杯を狙っていた。
だけど聖杯は僕とメリッサが奪取してしまったのだ。
奴らが聖杯の存在を嗅ぎつけて兵隊を送り込んできたという可能性はある。
まあ、ここでいろいろ推察していても始まらないな。
真相を掴むために奴らの近くまで行ってみよう。
「タロス、剣の闘神、シルバーホーク0式を工房に戻して、扉を閉めておいて」
「……」
二体のゴーレムは無言のまま命令に従った。
ゴーレムたちがいればシルバーホーク0式が盗まれることはないだろう。
飛行実験のことは少し気になったけど、今はそれどころではなかった。
他の住人に紛れて観察していると、間もなく飛空艇は発着場に着陸した。
大勢の兵士たちが走り降りてきて周囲の警戒をしている。
やっぱりいつもとは全然様子が違うぞ。
護送された囚人が降りてくる気配もない。
「監獄長だ」
「グランダスが来たぞ」
周囲にさざめきが広がる。
みんなが固唾をのんで見守っていると、監獄長は飛空艇の代表らしき人となにやら話し合っていた。
すると、すぐに監獄長の禿げ頭に汗の粒が光り出し、顔が青くなるのが遠目でもはっきりとわかった。
大変なことが起きているようだ。
やがて、兵士と監獄長の部下たちがきちっと整列しだした。
いよいよ偉いさんの登場のようだ。
飛空艇の扉が開き、きらびやかに正装した騎士の一団が降りてくる。
そこに続いて出てきたのは……パミューさん!?
それだけじゃない、エリシモさんもいるぞ!
やっぱり僕を追ってやってきたのだろうか?
このままシルバーホーク0式に乗って逃げ出そうという考えがチラッと頭に浮かんだけど、その考えはすぐに捨てた。
だって、僕はなにも悪いことをしていないもん。
それに、ひょっとしたらお姫様たちはぜんぜん別の用事でエルドラハにやってきたのかもしれない。
どんな用事かは想像がつかないけど、困っているのなら助けてあげてもいいと思う。
うじうじ考えていても仕方がない、直接話を聞いてみよう。
そう考えて僕は人垣をかき分けて前に出た。
「こら、近づいてはいかん!」
お姫様たちを追いかけようとしたら兵士に邪魔をされてしまった。
パミューさんたちはどんどん先へ行ってしまう。
「そこを通してください。僕は皇女殿下たちに御用がありまして」
「お前のような子どもが殿下たちに面会できるわけがないだろう。ほら、あっちへ行った」
兵士たちは槍の柄を振って、僕をしっしと遠ざけようとする。
組み伏せるのは簡単だけど、この人たちも悪気があってやっているわけじゃない。
職務を遂行しているだけだもんなあ……。
と、ここで見知った顔が目の前を通った。
パミューさん付きの武官、エイミアさんだ。
「エイミアさーん!」
大きく手を振って存在をアピールする。
「なっ、セラ君ではないか!!」
僕の姿を認めたエイミアさんは、すぐにこちらへやってきてくれた。
「あはは、今日は軍服を着ているんですね。やっぱりこっちの方がしっくりくるなあ。メイド服姿もかわいかったですけど」
今日のエイミアさんはパリッとした帝国士官の格好をしていた。
「ば、バカ者、大きな声で言うなっ!」
エイミアさんは左右を見回して慌てている。
「大尉殿、この少年は?」
「ああ……よい、この子は私が預かる」
「ハッ!」
兵士は脇に避けて僕を通してくれた。
エイミアさんは呆れたような目つきをした後、少し苦笑した。
「まったく、セラ君が逃げ出したせいで大変だったのだぞ」
「なにかあったのですか?」
「パミュー様が
見境いなく物に当たり散らしたというわけですね。
「一時は君の捕縛隊まで編成されたんだが、エリシモ殿下が説得してその話はなくなったんだ。私が隊長をするところだったんだぞ」
「エイミアさんと鬼ごっこですか。なんだか楽しそうだな」
「勘弁してくれ。私は暑いのが苦手だ」
かっちりと着込んだ軍服は見るからに暑苦しい。
こんな姿を見ているとなんだか可哀そうになってしまう。
「時間があったら僕の家へ遊びに来てください。部屋の中を涼しく保つ魔道具を製作してあるんです。それに冷たい飲み物も」
エイミアさんは苦笑しながら首を横に振る。
「君は変わらないな。だがその前に殿下たちのところへ行こう」
「え、やっぱり僕は逮捕されるのですか?」
せっかく逃げてきたのに、帝都に逆戻りはごめんだ。
「そうじゃない。君に依頼したい仕事があるそうだ」
「また、病人を治しに帝都へ?」
「いや、エルドラハでの活動だよ」
「と言いますと?」
「ダンジョン内の考古学調査らしい。詳しくは殿下たちから直接聞きたまえ。私も詳細は聞かされていないのだ」
予想とはまったく違う答えに驚いてしまった。
「それにしても変だな。これまで帝国は調査チームを派遣したことなんてなかったでしょう? 聖杯探しだって現地の冒険者たちに任せていたくらいだし……」
情報を引き出すためにわざと『聖杯』というワードを使ってみた。
「聖杯? そんな話もあったな。たしか高エネルギー体の結晶だったか?」
「そうです。殿下たちはそれを探しにいらっしゃったんじゃないんですか?」
「いや、今回の調査では聖杯などとは比較にならないくらい重要な物を探すようだ。皇帝陛下もかなり本気のようで、特殊な人材まで派遣されている」
まさか、帝国はデザートフォーミングマシンそのものを探しているのか?
「小耳に挟んだのだが、それは地下十階にあるらしい」
「地下十階……」
おかしいな、 デザートフォーミングマシンは地下七階にあるのだ。
だとしたら帝国が狙っているのはまったく別のものか……。
そしてやっぱり、地下七階より下の階層は存在するってことなんだな。
「さあ行こう。君の顔を見ればパミュー様もきっと喜ぶだろう」
「えー、怒られませんか? 僕、いろいろなところをちょん切られるのは嫌ですよ」
「心配ないさ。あれでパミュー様は君のことが大好きなんだからな」
だったらいいけど、念のためにパミューさんが喜ぶようなものをお土産に持っていくとしよう。
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