第73話 やってきたのは


 規則正しい日々が続いていた。

日の出とともに起き出して、タロスや闘神との訓練から一日が始まる毎日だ。

リタは連日のようにやって来て、剣の闘神と訓練をしているた。

その甲斐あって、戦闘力判定はBマイナスからBへと成長した。

新たな必殺技も研鑽中らしい。


「そのうち、鳳凰紅蓮翼斬ほうおうぐれんよくざんを披露するわ!」


 どんな技かはまだわからないけど、頼もしい限りだ。


 僕もタロスとの訓練に余念がない。

黒い刃の活動が暇なときはメリッサも来て、三人で修行することもあった。


 修行が終わると朝ごはんだ。

リタが作ってくれることもある。


「セラの料理の方が美味しいけど」


 そんなことを言って謙遜するけど、リタの料理だってとっても美味しいんだ。

きっと人柄が料理にも出るのだと思う。

リタの作るものは温かみがあって優しい味がする。


 そういえばメリッサも料理を作ってくれた。

初めてのときは凍ったスイカが出てきてびっくりさせられたものだ。


「これはなに?」


「氷スイカ」


「そのままのネーミングなんだね」


「味はいい……」


 たしかに美味しかった。

そして冷たかった。

ただ、メリッサは頭がいい。

それに頑張り屋さんでもある。

スープの作り方を教えてあげたらすぐにコツを覚えた。

きのうも冷たいジャガイモのポタージュを作ってくれたけど、舌触りが良くとても美味しかった。

一ひとつだけ気になるのは、いつも冷たい料理ということかな……。

僕の「料理」に対抗して、魔法を使わずにはいられないようだ。


 シルバーホークの製作も順調だ。

いちばん難しい浮遊装置はすでに完成して、今は機体の骨組みを作っている最中である。


 興味が出てきたのか、毎日のようにシドもやってきた。

ミノンさんの出勤時間に合わせて顔を出すのだ。

そしてシルバーホークの製作を手伝ってくれる。


「俺が稼ぐから酒場の仕事は辞めろって言ってんだけどさ、言うことを聞いてくれねえんだよ。シドがケガをしたときは私が稼がないと、とか言ってさ。俺って愛されてるよなあ」


 ずっとのろけ話をしながらだけど、手もきちんと動かしてくれるので、けっこう役に立ってくれている。

そんなこんなでシルバーホークも順調に形になってきた。


「飛空艇っていうから、いつも飛んでくるあれを想像していたけど、こいつは思っていたよりずいぶんと小さいんだな」


「試作機だからね。いってみればシルバーホーク0式ってところだよ」


 0式は二人乗りになっているのだ。


「ふーん。飛空艇の形とはだいぶ違うなあ。本当に飛ぶのか?」


「飛ぶはずだよ。これは飛空艇というよりも飛行機って呼ばれる乗り物に近いかな。だから似ていないのは当然なんだ」


 スピードを重視した結果、僕が造るのは飛行機に近い形状になった。

もっともまあ、重力魔法を応用した浮遊装置を組み込むから、飛行機とも違う機体ではあるんだけどね。



 そんなこんなで月日は経ち 、二週間が過ぎた。


 その日の午後も灼熱の太陽が砂漠の砂を焼いていた。

工房にはエアコンを四基も設置したので暑くはない。

ファンがうなりをあげる工房で、僕はでシルバーホーク0式の仕上げ作業を行っていた。


「よし、完成だ」


 機体の周りをゆっくりと歩きながら、最後のチェックをしていく。

銀色に輝くフォルムは優美で、見ているだけで惚れ惚れとしてしまう。

外見はレトロな小型のプロペラ飛行機によく似ているけど、その概念自体はまったく違う。

垂直離着陸だって可能だから砂漠のどこへでも行ける仕様になっているのだ。


 飛行機というよりは飛行船に近い感じかな? 

飛行船は空気より比重の小さい水素やヘリウムを気嚢きのうに詰めて浮かせる乗り物だ。

風船の要領だね。

これに推進用の動力がついているのだ。


 シルバーホーク0式もこれと同じで、浮遊装置で浮き、プロペラで推進力を得ている。

ただ、普通の飛行船の速度が時速八十キロメートル~百二十キロメートルに対して、シルバーホーク0式は時速四百㎞キロメートルくらいまでは出せる設計になっている。

帝都までだって半日で行けてしまうのだよ。


 いまのところ定員は二人だけど、今後はもっと大きいものを作って、デザートホークスのメンバーが全員乗機できるようにしたい。


「よし、さっそく飛行実験をしてみるか。タロス、剣の闘神、工房の正面扉を開けて」


 一緒に暮らすうちに、タロスや十二闘神はさらにたくさんの言葉をおぼえ覚えた。

ゴーレムたちの可能性には計り知れないものがあり、僕の『スキャン』でもその技術の全容が解明されたわけじゃない。


 特にタロスと十二闘神は特別製のようで、まだまだ未知の領域が多いのだ。

彼らは古代文明の遺物なのだが、こういったものを作り出せる古代人は相当な技術力を持っていたのだろう。

ゴーレムたちの解析が進めば、古代文明の様子も少しはわかるようになるだろう。


 正面の扉が開き、太陽の光が工房に差し込んだ。

シルバーホークの機体が銀色に輝き、生命が込められる瞬間を今や遅しと待ち構えているようだ。

燃料となる魔結晶をタンクに補充する 。

よし、起動ボタンを押すぞ。

シルバーホーク0式、今こそ産声を上げるときだ。


「おい、あれはなんだ!?」


「こんなことは初めてだぞ!」


 まさに起動ボタンを押そうとしたとき、突然、外から人人々の声ざわめきが聞こえてきた。

シルバーホーク0式を見て驚いているのか? 

違う、みんなは空を見上げているぞ。


「見ろ、見たこともない機体が混じっている。あんな大きな飛空艇は初めてだ」


 新型の飛空艇がきたのだろうか? 

僕は起動装置を押すこともなく、慌てて外へ飛び出した。

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