第72話 準備完了


 地下七階に拠点を作った僕らは十日間にわたって素材集めをした。

その間にタンクは一人一台を所有するまでになったし、聖杯の間の設備も充実した。

今では卓球台やサウナなんかまでもが設置されているのだ。


 食糧庫には地下六階でとってきた果物から作った果実酒の樽が並んでいるし、コカトリスの肉の燻製や、レッドボアの生ハムなんかまで貯蔵されている。

生ハムは百味実の聖樹から採取したメロンと組み合わせるととっても美味しかった。


 地下七階をくまなく探し、ゴーレムや金属の素材も必要以上に集めることができた。

これなら当面の生活にも困らない。


 素材はたくさんあったので僕はいろんなものを作った。


「はい、これはシドへのプレゼントだよ」


「もしかして酒か?」


「残念ながら中身は入っていないけど、お酒を入れるための容器なんだ。スキットルっていうんだよ」


 スキットルはアルコール濃度の高い酒を入れておくための、携帯用小型容器のことである。

お尻のポケットに入れてもフィットするように丸みを帯びた形をしているのが特徴だ。


「こいつはいいや。ありがとな、セラ」


 シドはお土産のブランデーをさっそく補充し入れていた。



 噂によるとダンジョンはさらに深い階層があるらしいけど、地下八階に続く階段はどこにも見つからなかった。

マッピングしながらあらゆるところを回ったけど、それでも発見できなかったのだ。


「グランベル王国の古い文献には地下十階まで存在すると記されている」


 メリッサはそう言っていたし、黒い刃も探しているみたいだけど、手掛かりのかけらさえないのが現状だ。

グランベルの王女だったメリッサが言うのだから嘘ではないと思うけど……。

ただ、それが事実なら入り口はどこにあるのだろう? 

これだけ探して見つからないというのもおかしな話だった。


 素材も十分じゅうぶん集まったので、デザートホークスは地表に戻ってきた。

僕らが迫ると、他の冒険者は慌てて道を空けてくれる。

それもそのはずで、タンクが七台も連なって通るうえに、荷物を担いだタロスと闘神たちまでもがついてくるのだ。

その迫力たるや尋常なものではない。


「すみません、すみません!」


 狭い通路でこの圧迫感は迷惑である。

なんだか悪いことをしているみたいで、すれ違う人ごとに謝ってしまった。


「かぁっ、まぶしい!」


 真っ先に地上に出たララベルが大きな声を上げている。

半月ぶりの太陽に僕も頭がくらくらするようだ。


「絶対に太陽を直接見ちゃダメだよ。目が潰れちゃうからね。最初は薄目をあけて、少しずつ慣らすんだ」


 ダンジョンからいきなりまぶしい場所に出て失明する人は多いのだ。

一人だけだが、僕もそういう患者を治療したことがある。



 一息ついた僕たちはタンクで街のハズレを目指した。

ここは僕があらかじめ監獄長に話をつけておいた土地だ。

けっこう広いスペースだけど、何なにもない場所なので月々赤晶七百グラムで借りられた。

この場所に『作製』で石造りの小屋を建てた。

デザートホークスの倉庫兼工房だ。

しっかりと硬質化させておいたから、砂嵐がきてもびくともしない造りになっている。


「よし、工房ができたぞ。この中に荷物を運びこ込んでね」


「ここで飛行機を作るの? 泥棒とか来ないかな?」


 リタが心配するのも無理はない。

僕らが持ってきたのは貴重な素材や大量の魔結晶なのだから。


「大丈夫、タロスや闘神たちを連れてきたのは僕らの訓練のためだけじゃないよ。ついでにここのガーディアンをやってもらうためなんだから」


「なるほど。このゴーレムたちが相手なら手を出す奴はいないわね。たとえいたとしても秒殺だわ」


 タロスの戦闘力判定はS、闘神たちだってAである。

これに敵う冒険者なんて滅多にいないはずだ。


「まあ、殺さないように命令はしておくけどね」


 荷物の搬入が終わると、今回の探索の報酬を山分けした。


「飛行機に使う素材の分は貸しにしておいて。そのうちにちゃんと返すからね」


「何なに言っているの、お姉さんはセラの血だけもらえればそれでじゅうぶん」


「そう言うわけにはいかないよ、ミレア」


「アタシだって別にいいよ。これだけあれば何なんでも交換できるもんな」


「ララベル……」


「酒代のかわりだ。とっておけ」


 シドはヘラヘラと笑っている。


「そんなことより俺はもう行くぜ。愛するミノンが俺の帰りを待ちわびているからな」


 シドはそそくさと出て行ってしまった。

けっきょくリタもメリッサも飛空艇に乗せてくれればそれでいいと言って、今回の報酬は今日渡した魔結晶だけでいいと言ってくれた。


「ありがとう、みんな。僕はしばらく飛空艇作りに集中するよ。次の活動は未定だけど、用があるときはいつでも言ってね」


 全員が無事に戻って来られてよかった。

こうして、長期にわたった素材集めの探索は終わった。

しばらくはこの工房に腰を落ち着けて飛空艇の製作にかかるつもりである。

さて、どんなものができあがるかな。

試験飛行はどこまで行こう? 

そういえばこの世界の地図を持っていなかったな。

どこかで手に入るだろうか?


 そういった諸々のことを考えていると、僕はワクワクがどうにも止まらないのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る