第71話 お風呂で上機嫌


 特別料理のおかげで体力が回復した僕は、ダンジョンで手に入れた素材をもとに『作製』で家具を作っていく。


「まずはベッドを作っていこう」


「おう、早いところ頼むぞ!」


 すでに酒が入っているシドが暢気のんきな大声を出したす。

ちょっぴりうるさいけど、今日は活躍してくれたから大目に見よう。

それに不測の事態で戦闘になっても『修理』を使えば血中のアルコールは分解できるのだ。

問題はないだろう。


 人数分のベッドは一時間くらいででき出来てしまった。

大きさはセミダブルくらい、形もシンプルなものにしたので時間はかからなかった。


「次は何なにを作ろうかな? みんな、欲しいものはない?」


 アイデアを募集すると、ミレアが僕の方へにじり寄ってきた。


「お姉さん、お風呂がほしいなあ。セラだって綺麗なお姉さんが好きでしょう?」


「ま、まあそれは……」


 上目づかいで媚を売るようなミレアのポーズにドキッとしてしまった。

いちいち両腕で胸を寄せながら頼まなくてもいいのに……。


 綺麗なお姉さんは好きですか? 

汚いよりは清潔なの方がずっといいに決まっている。

健康にとってもね……。


「わかりました。お風呂を作ります」


「ありがとう。お礼に後で背中を流してあげるわね♡」


「結構です」


「あら冷たい。そんなところも好きだけど」


 戦闘の後だからさっぱりしたいという気持ちもわかる。

言われてみれば僕だってシャワーがあるとありがたい。

腹が決まると行動は早かった。



 一番の問題は排水だった。

ダンジョンに下水管は通っていないのだ。

仕方がないので水はけのよい砂の地層に排水管をぶちこみ、水は地下浸透させることにした。

穴は『改造』で簡単に掘ることができた。


 続いて浴槽だけど、こちらも壁の石材を材料にして『解体』『改造』『作製』で作ることに成功した。

贅沢に広めのお風呂にしたけど、それくらいはいいよね。


 水が貴重なエルドラハでは、そもそもお風呂自体が超贅沢品だ。

他の住民がこれを知ったら、びっくりして腰を抜かしてしまうかもしれない。


 ここまで作れば、後はお湯を出す装置だけだ。

まず水だけど、これは地下菜園の散水機にも使っているサンドシャークの浮袋を利用した。

一つの浮袋で毎分十リットルの水がまかなえる。

水源がなくても問題はない。


 続いて集めた金属を流用して貯水タンクを作った。

ここに水を溜めておけば、シャワーの途中で水が切れることもないだろう。

これは天井に近いところに置いておく。


 最後に湯沸かし器だけど、こちらは料理のために持ってきておいた魔導コンロを魔改造して出力を上げた。

温度調整機能付きで八十度のお湯を供給し続けることができるようにしてある。

動力には赤晶が必要になるけど、省エネ設計で家計に優しい。


「できたよー!」


 声をかけるとみんながわらわらと集まってきた。


「ちゃんとお湯が出るかな……」


 湯沸かし器をオンにしてから蛇口をひねると、湯気を立てながらお湯が出てきた。


「うん、ちゃんと適温になっている。ほら、触ってごらんよ」


 みんなが楽しそうに浴槽に手を入れていた。


「ああ、もう我慢できないわ」


 そう言って、ミレアがやおら靴を脱ぎだした。


「ええっ!? ダメだよこんなところで脱いじゃ!」


「あら、なにを言っているのかしら? 私は足湯を楽しむだけよ」


「あ、足湯?」


「期待させちゃったかしら? シドもいるのにこんなところで脱ぐわけがないじゃない」


 それもそうか……。

でも、ミレアはときどき突拍子もないことをするから……。


「足湯なら私もやろうかな」


「アタシも!」


 リタやララベルもブーツを脱いで足を洗い出した。


「だったら俺も入るぞ」


 シドもブーツを脱いでいる。


「ほら、セラとメリッサも来なさい」


 ミレアが妖しく手招きした。


「入ろう」


 メリッサが僕の手を引いてくれる。


「おーい、ポン太。ビールを持ってきてくれ!」


 シドがさっそくポン太をこき使っていた。


「飲み過ぎないでよ」


「かたいことを言うなよ、セラ。酒のないところに愛はないんだぜ」


 前世でも今世であっても、酔っ払いの言うことはだいたい同じなんだな……。

楽しそうだから許すけどね。


「私も貰おうかしら。セラの血を一滴落としてくれたら最高なんだけど……。我ながらいいアイデアね。このカクテルはレッドアイって名前にするわ」


 二人にお酒を用意してあげてから、僕とメリッサもブーツを脱いだ。

メリッサの足はまぶしいくらいに白くて、見ていると気恥ずかしくなってしまう。


「なに?」


「な、何なんでもない。早く入ろう」


 ああ、なんでこんなに意識してしまうんだろう? 

メリッサの方を見ないようにして足を洗った。


 お湯に足を浸けると、ジンワリとした心地よさが広がった。

緊張がゆっくりとほぐれていく感じだ。

仲間たちもうっとりとした顔でゆっくりとお湯の感触を楽しんでいる。


「そうだ、いいことを思いついたぞ」


 頭の中でいい考えが閃いた。


「ポン太、魔結晶の入った袋を持ってきて!」


 ポン太はすぐに袋を運んできて、僕は『作製』でいいものを錬成していく。


「今度は何なんだよ?」


 足湯とビールで上機嫌のシドがわめ喚いた。


「これだよ」


 青晶と緑晶を使って入浴剤を作ったのだ。

さっそくお湯に溶かしてみよう!


「うわ、なんかスーッとするよ!」


「気持ちがいいだろう、リタ? これは体内の魔力循環を整えてくれる効果があるんだ」


 入浴剤の作用で、体内の魔力が穏やかに整っていく。


「今夜はぐっすり眠れそう」


 メリッサもうっとりと目を閉じている。

僕たちはしばらく足湯につかりながら、明日の行動計画などを話し合った。

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