第70話 ゴーレムを仲間に


 探索初日は地下五階に泊まり、翌日は地下七階を目指した。


「今日は地下六階で材木と食材を調達してから、地下七階の聖杯の間へいくよ」


「材木ということはトレントを狩るんだね?」


 リタが訊いてくる。


「その通り。みんなのベッドを作るための材料だから火炎系の攻撃はしちゃダメだよ。リタはフレイムソードの火炎機構をオフにしておいてね。ララベルもマジックグレネードは厳禁だ」


 素材が燃えたりバラバラになったりしたら台無しである。


「うふふ、ついにお姉さんの出番のようね」


「全部凍らせる」


 ミレアとメリッサが張り切っている。

メリッサが氷狼の剣を振れば、精霊狼せいれいろうを召喚できるのだ。

氷属性の精霊狼の寒気はすべてを凍てつかせるから、これでモンスターの動きを止め、僕とミレアでとどめ止めを刺せば倒せない敵はこの階層にいない。


「くれぐれも油断しないでね。それからゴムの木を見つけたら僕に報告して。『抽出』で天然ゴムも取っておきたいから」


 素材を集めながら僕らは地下七階へ通じる階段へと移動していった。



 地下六階で大量の素材を集めた僕らはそのまま地下七階へと突入した。

ここはゴーレムが徘徊する階層なんだけど、敵はいるのだろうか? 

というのも、ここにいたゴーレムは僕たちがあらかた捕まえて改造してしまったからだ。


 捕らえたゴーレムは数にしておよそ百五十。

その大戦力をもって聖杯を守るタロスや十二闘神たちと戦ったという経緯がある。

ひょっとしたら敵はもういないかもしれないと考えたのはそういうわけだった。


 ところが、予想に反して僕たちに襲い掛かる敵はけっこういた。


「セラ、タンク型の音が東から聞こえてくるぜ」


 大地に耳をつけながらシドが教えてくれる。


「ほんとに? よし、警戒しながら行ってみよう」


 タンク型は荷物を運ぶのに便利である。

一人一台欲しかったけど、もういないかもと心配していたところだ。

ゴーレムも他の魔物と同じように、どこからか補充されるようだった。

本当にダンジョンとは不思議なところだ。



 壁から覗くと、道の中央をタンク型のゴーレムがやってくるのが見えた。


「これで新車が手に入るなっ!」


 喜ぶララベルに苦笑してしまう。

ここは自動車ディーラーじゃなくてダンジョン地下五階なのだ。

浮ついた気持ちでの戦闘は避けてほしい。


「ララベル、何度も言うけど油断しないでね」


「わかっているって! ここはアタシに任せてよがいくよ」


 ララベルがずいっと前に出たる。


「大丈夫?」


「こいつがあるから平気さ」


 右手の人差し指一本でララベルは器用にボーラを回して見せた。

ゴーレムの弱点は頭部への雷撃である。

この武器は長時間にわたって放電できるので、対ゴーレムという点ではうってつけなのだ。


「まあ見ていてくれよ」


 ララベルは通路の中央に飛び出し、仁王立ちでタンクを待ち構えた。

タンクの方も対人センサーでララベルの存在を察知したようだ。

クローラーのスピードを上げて迫ってくる。


 ヒュンヒュンと唸るボーラの音がタンクの振動音にかき消されていく。

だがララベルは動かない。

落ち着いて敵奴との距離を測っているのだ。

そして、タンクがアームを上げようとしたその時にララベルはボーラの紐を手から放った。


 バチッバチッバチッバチッ!


 ボーラがタンクの頭に絡みつくと同時に、大きな音を立てながら雷撃が弾ける。

タンクの頭部から白い煙が上がり、ダンジョンの通路に焦げ臭い匂いが充満した。


「一丁上がりっ!」


 ニヘラッと笑ったララベルが親指を立ててくる。

ゆっくりとクローラーが停止し、タンクはその場で沈黙してしまい、ダンジョンに再び静寂が戻った。


「お疲れさん、完璧だったよ」


「そうか? アタシも投擲手として一皮むけたかもね」


 ララベルには休んでもらって、僕は壊れたタンクのスキャンを始めた。


「どうだ、セラ?」


 シドが僕のそばでタンクの状態を確認している。

本当に活動を停止したのか自分の目で確かめているのだ。

こういう念の入れようは、さすがはベテラン斥候だと思う。


「大丈夫、完全停止状態だよ」


「そうか。しかしあれはすごい武器だな」


「投げるのに技術がいるから、とっさに使えるのはララベルだけだと思うけどね」


「それにしたって、ゴーレムに対抗するには最高の武器じゃないか」


「そうなんだけど、紫晶六百gは手痛い出費だよ」


 ゴーレムの動きを止めるには、鉄球には一ひとつにつき二百gの紫晶を込める必要があることがわかったのだ。

もちろん魔結晶を入れなくても使えるのだけど、その場合はただの物理攻撃になってしまう。

当初考えていたよりお財布に優しい武器ではなかったようだ。


「それでも、紫晶六百gでゴーレムが手に入るんならぼろい儲けだぜ」


 大量に荷物を運べるタンクの有用性は誰もが認めるところだろう。

どんな対価を支払ってでも、欲しがる人はいっぱいいると思う。


「まあね、紫晶三十キロの値段をつけてもでも欲しがる人はいるかもしれない。案外、帝国が買ってくれたりしてね」


「ちがいねえ」


 倒したタンクのスキャンは終わった。


「よし、これも『改造』と『修理』で再利用が可能だな。もう少し時間がかかりそうだからシドはミレアを連れて周囲の偵察に出て」


「了解。まあ、こっちは俺たちに任せて、セラはゆっくり改造でもしていてくれ」


 新たなタンクを手に入れるべく、僕はスキルを展開した。



 夕方になるころに、僕らはようやく聖杯の間に到着した。

いよいよここを住みやすい前線基地に改造するのだ。


 この日はタンク型の他にポーン型(兵士)のゴーレムも撃破し、改造の末に配下にすることができた。

ポーン型は体長が百七十八㎝センチほどで、関節の動きなどは人間に酷似している。

ただ、顔はのっぺりとした仮面のようだった。


 戦闘力判定はゴーレムの中では最弱のDマイナスで、戦いにはあまり役に立たない。

でも手先は器用だし、こちらの出す命令をよく理解するのでお手伝いのアンドロイドのように使うことにした。


「ポン太、このほうきで掃除をお願いね」


「ピピッ」


 喋ることはできないけど、電子音みたいな返事はできる。

非常に優秀なアシスタントで、さっそく広間の掃除を始めたぞ。

掃き掃除、拭き掃除、こびりついた油汚れも丁寧に拭き取っている。

前世で見たロボット掃除機よりもさらに優秀であった。


「ポン太ってあいつの名前?」


 ララベルが笑っている。


「そう、ポーンだからポン太だよ」


「ふーん、そんなことよりセラ、アタシはお腹が空いちゃったよ」


「そうだね、今日はみんな頑張ったから、夕飯はスキルで料理をするよ」


「いやったぁ! セラの特別料理だな」


 探索中は時間を節約するために簡単な食事で済ませていたのだ。

夕飯には魔結晶を使った特別料理を出して、みんなを労っておいた。

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