第69話 鉱脈


 準備に三日間を費やし、ようやくダンジョン探索は開始された。

タンクが三台もあるので、込み合う朝の時間を避けて出発は昼近くにする。

そのぶんダンジョンの中の魔結晶は拾われてしまうのだけど、僕らが目指すのは人の少ない奥地だ。

魔結晶集めは下の階層に着いてからゆっくりやればいい。


「今日中に地下五階まで行くからね」


「おーっ!」


 デザートホークス+メリッサは元気よく進みだした。



 低階層では主にララベルに戦闘の中心を担ってもらった。

これでも僕らはエルドラハ屈指のトップチームだ。

僕の戦闘力判定はAプラス、ミレアはA、リタがBマイナスで、シドはCプラスになっている。


 いちばん低いのはララベルのDプラスだけど、まだ若いから伸びしろはたくさんあるのだ。

今のうちに少しでも経験値を稼いで、レベルアップにつなげてもらいたい。


「今回の探索で経験値を上げてね自分の技術を向上させるんだ。バックアップはしっかりするからね」


「おう、トップはアタシに任せておけ」


 張り切るララベルに新装備をプレゼントした。

固有ジョブが投擲手であるララベルには、これまでマジックグレネードという武器を支給していた。

だけど、こちらは消耗品である。

使うたびに作らなくてはならないし、作るにはバカにならない量の赤晶が必要になるのだ。


 そこで、僕とお財布にもっと優しい武器にしようと、新開発したのがこちらの武器だった。


「投げナイフ? と、これはなんだ?」


「アメリカンクラッカー。正式にはボーラって名前の武器だったかな?」


 ボーラは紐に二個ないし三個の金属球がついた武器だ。

もともとは狩猟用の道具として開発されたようである。


「これはどうやって使うんだ?」


「ロープの中心を持って、頭の上で振り回すんだよ」


 ララベルは言われたとおりにボーラを回転させる。


「そうそう、うまいぞ。そして十分じゅうぶんに加速が付いたら標的に投げつ付けるんだ」


「こうか?」


 ララベルは道に突き出ていた石柱にボーラを投げつけた。

投擲されたボーラは遠心力で広がった状態で回転しながら飛び、標的となった石柱にあたって当たって絡みつく。

さらに鉄球が強い衝撃で石柱にあたる当たると内部の装置が起動して放電までした。


「すげーっ!」


「地下七階のゴーレムを捕まえるために開発したんだよ。鉄球に紫晶を詰めかえれば何度だって使えるんだ。投げナイフも特に切れ味を鋭く作ってある。普段はこちらで戦ってみてね」


「ありがとう、セラ。これでアタシもレベルアップだ!」


 投擲手は命中や飛距離に補正がつく。

どちらもララベルにぴったりの武器と言えた。



 デザートホークスは他には類を見ないスピードでダンジョンを進んだ。

斥候のシドは優秀であらゆる敵やトラップを見逃さなかったし、荷物はポーターの代わりに強力なタンクが運んでくれる。

そのうえメンバーの一人一人がトップクラスの冒険者なのだ。


 僕らはお昼過ぎには目的地である地下五階に到着してしまった。


「よーし、ここからは速度を落として、魔結晶を探しながら行くよ」


 魔結晶は地中から突き出していたり、崩れた壁の中から現れたりすることが多い。

ときには天井一面に生えているなんていうラッキーなこともある。

僕たちは上下左右と目を配りながらゆっくりと進んだ。


 ダンジョン地下五階ともなると、なまなかのチームではたどり着くこともできない場所である。

ライバルが少ない分だけ魔結晶の採取率は格段に上がり、赤晶や青晶、黄晶なんかも見つかりだした。


「セラ」


 クイクイと袖が引っ張られると思ったら、メリッサが僕を呼んでいた。


「どうしたの、敵の気配?」


「そうじゃない。あそこ」


 メリッサは指を差さしたけど、僕には何なんなのかわからない。

ランタンの光に浮かんでいるのは真っ直ぐに続く石畳の通路だけだ。


「こっち、来て」


 メリッサは数メートル先まで僕を引っ張っていく。


「おいおい、なにがあるっていうんだよ? あ、もしかしてセラの手を握りたかっただけか?」


 シドがニヤニヤと笑っている。

でも、メリッサがダンジョンでわざわざそんなことをするはずがない。


「まったく、最近の若いのは大胆というか――」


「シド、黙って。たしかにおかしい……」


「なにがだ?」


 僕とシドは足元の床を見つめた。


「うん? そう言えば石畳が微妙に持ち上がっているような気がするな……。トラップじゃないようだが……」


 ここの石畳は周囲よりも一~二ミリ高くなっているのだ。

もしかして……。


「セラならひっぺがせる」


 メリッサが床を指さしながら頷いた。


「わかった、やってみるね」


 力を籠めると、石を砕いて指が床にめり込んだ。

厚みのある敷石だったので、そのまま五5センチほど突き刺すと、指先に当たる感触が変化する。

石の下の地層に指の先端が到達したのだ。


「みんな下がっていて」


 これは中々重たいな。

レッドボアよりさらに重量がありそうだ。

下腹に力を入れて全身に魔力を巡らせた。

そうやって体に力を込めて腰を使ってエイッとばかりに持ち上げる。


 ピシリと床に亀裂が入り、大きな石板が通路の端にめくられた。


「おおっ!」


 みんなが歓声を上げている。

額の汗をぬぐいながら見ると、なんとそこは黒晶の鉱床だった。

黒光りしている六角柱の魔結晶が辺り一面びっしりと詰まっているではないか。


「すごいや! 一回でここまでたくさんの魔結晶を見つけるのは始めて初めてだ。お手柄だよ、メリッサ」


 他の人にはわからないと思うけど、メリッサは人差し指で頬を掻きながら照れている。


「これで飛べる?」


「浮遊装置の材料としては八割ってところかな」


 僕らは嬉々として黒晶に飛びつき、一粒も残さずタンクに積み込んだ。



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第2巻が発売されております。

このお話の最後まで一気に読めるので、ご興味のある方はぜひお買い求めください。

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