第49話 ヴァンパイア

 すでに配下のゴーレムたちは十二闘神を分断している。

そこに味方になった闘神を複数送り込むのだから、決着はあっという間だった。


「そろそろタロスを討ち取ろう! みんな、ついてきて」


 僕はデザートホークスとメリッサ、それから杖の闘神、斧の闘神、槍の闘神、剣の闘神を引き連れてタロスを囲んだ。

タロスの戦闘力がS判定でも、これだけの人数がいれば勝機はじゅうぶんあるはずだ。


 タロスは戦闘神の頂点に君臨するだけあって強かった。

武器を持たないのに他の闘神を上回る強さを持っていたのだ。

剣の闘神の攻撃をかわし、神速の踏み込みでステップインすると、見えない速度のショートアッパーが鋼のゴーレムの巨体を浮かせていた。

同時に後ろ蹴りが杖の闘神の胸を突く。


「なんて動きなんだっ!? 隙を突く暇もねえっ!」


 マテリアルクロスボウで狙いを定めているシドが右往左往している。

それを守るリタも固唾を呑んで闘神たちの戦いの成り行きを見守っていた。


「無理をしないで。決定的なチャンスは必ずやってくる。それを見逃さないように注意していてね!」


 剣の闘神が動かなくなってしまったので僕が代わりに包囲陣に参加した。

唸りを上げて襲い掛かる拳や蹴りをなんとか受け流して隙を探る。

防御に徹していればギリギリながら攻撃は捌けるのだ。


 タロスの放ったローキックを横に受け流した。

その瞬間にわずかだがタロスの重心がぶれる。

すかさず三体の闘神が攻撃を仕掛けると、タロスの注意は周囲の闘神に向けられた。

奴め、頭上を飛ぶミレアには気が付いていないぞ!


「!」


 ミレアは無言で剣を構えたまま急降下する。

だけど、タロスはその攻撃にさえ反応してしまう。

天高く振り上げられた足がミレアを直撃した。

ミレアは大きく弾かれて広間の壁に激突する。

タロスの足はそのままかかと落としの形となって槍の闘神の頭を砕いた。


 一瞬にして二人の仲間がやられたのだが、さすがに大きな隙ができた。

これもミレアのおかげだ。

僕はタロスの背中に飛びつき首に足を絡めた。

そうやって落ちないようにして、両手にはめた雷撃のナックルをタロスのこめかみめがけて振り下ろす。

バチバチと唸る雷撃にタロスが立ち尽くすと、シドやリタの攻撃がこれに加わった。


 三十秒ほどの時間が流れ、エネルギー源の魔結晶がなくなり、雷撃がやむと辺りが静かになっていた。

タロスは立ったまま動かないくなっていた。


「タロスを討ち取ったぞ! 僕らの勝利はほぼ確定だ。一気に押し込めっ!」


 まだ薙刀、輪、槌の闘神が残っていたけど仲間たちの士気は大いに上がった。

ここを制圧するのも時間の問題だろう。

でも、タロスも十二闘神も強かったな。

あれだけいた味方ゴーレムだけど、まともに動けるのは二十%も残っていない。

すべて闘神たちに倒されてしまったのだ。

デザートホークスと黒い刃だけで挑んでいたら被害はとても大きくなっていただろう。


「ミレア! ミレア、どこにいるの!?」


 僕は吹き飛ばされたミレアを探した。


「セ……ラ……」


 がれきの下から微かな声が聞こえる。

崩れた壁の下敷きになっているようだ。

岩をどけていくと血まみれのミレアが見つかった。


「恥ずか……しいから、あんまり……見ないで……」


 ミレアの左肩から下がなくなっていたし、お腹は破裂して内臓が飛び出していた。

それでもミレアが生きているのは、ヴァンパイアの持つ「不老不死」の特性のおかげだ。


「すぐに『修理』するからね」


 僕はお腹に手を当ててスキルを展開する。


「セラ……」


 かすれる声でミレアが僕を呼んだ。

ほとんど聞き取れないほどその声は弱々しい。

僕は『修理』をしながらミレアの口元に耳を近づける。


「どうしたの?」


「お願い……セラの血をちょうだい。くれたらもう死んでもいい……」


「バカ、生きるために吸うんだろう?」


「そう……だったわね……」


 僕はさっと周囲を見回した。

戦闘はまだ続いていて、こちらに注目している人はいない。


「いいよ」


「えっ……?」


「そのまま首を噛める?」


「………………大好き……」


 チクリとした痛みが首筋から伝わった。

でもそれは、すぐに寒気と快感が入り混じった感覚に置き換わってしまう。

治療をしているだけなのに、イケナイことをしているような、背徳感が込み上げてきたのだ。


 これがヴァンパイアの力? 

修理をかけている僕にはよくわかる。

ミレアの体がびっくりするくらいのスピードで回復していく。

ほどなく、失っていた左肩も綺麗に再生してしまった。


「やっぱりセラの血は特別ね。こんなに力が湧いてくるなんて初めてよ」


 ミレアは赤い舌で唇を舐めながら笑った。


「うん……」


 ミレアの顔が妖艶でぼくはドギマギしてしまう。


「また吸わせてね」


「必要があったらね。……もう行かなきゃ」


 僕は残党を制圧するために立ち上がった。

でも本当はここにいるのが気まずかったという理由の方が大きい。

だって、血を吸われたときの快感はなんだかエッチで、恥ずかしくなってしまったからだ。

ミレアの顔をまともに見ることもできず、僕はごにょごにょと別れを告げて走り出した。

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