第47話 偵察


 僕の考えは決まったけど、他のメンバーの気持ちも確かめなければならない。

リタだってずっとエルドラハから出ていきたいと言っていた。

シドはどうだろう? 

ララベルは親が監獄長だもんな……。

ミレアは?


 話が決裂すればデザートホークスの解散も考えられたけど、ことは案外スムーズに動いた。


「私もデザートフォーミングマシンを動かしたいな。それはそれで夢があるじゃない」


 と、リタ。


「なんでもいいぜ。それより早く帰ってビールを飲ませてくれよ」


 シドにはずっとビールを作ると約束していた。


「アタシと親父は別さ。アタシはセラの考えを支持するぜ」


 ララベル。


「お姉さんはね、セラさえいてくれればそれでいいの。だから、たまに血を吸わせてね。今晩どーお?」


 これはミレアだ。


「ありがとう、みんな。お礼と言ってはなんだけど、みんなが傷を負わないように僕は頑張るよ。完璧な作戦を立てるからね!」


 メンバーが快く聖杯をデザートフォーミングに使っていいと言ってくれて僕は感動した。

仲間たちのためなら命だってかけられる。

メリッサの話によると聖杯の間は特に強力なゴーレムたちが守っているそうだ。


「部屋の両脇には十二闘神のような様々な武器を持った巨大なゴーレムが並んでいて、その動きは達人の域だ」


 十二闘神はそれぞれ、剣、槍、杖、斧、つち、弓、こん薙刀なぎなたべん、鎌、短剣、りんを持つ戦の神だ。


「しかも、その奥には十二闘神を率いる戦神タロスのゴーレムが控えていて、聖杯は奴が守っている」


 黒い刃とデザートホークスを合わせても四十五人。

その数でゴーレムたちを倒すのは難しいだろう。


「みんな、僕に三日ちょうだい。三日でなんとかしてみせるから」


 作戦を説明して、僕はみんなに協力を求めた。

       ◇


「ぐわはははははははっ、若君! これは中々壮観な図でございますなあ!」


 ダンジョンの壁にキャブルさんの大声が響いている。

魔物の襲来を警戒して声を落とす必要はもうない。

なぜなら、この区域のゴーレムは全部捕まえてしまったからだ。

いま、目の前に並んでいるのは百五十体を超えるゴーレムの軍勢である。


 タンク型やポピュラーナイト、人型に鳥型なんていうのもいる。

全部僕らで捕まえて、修理と改造を施した。

今では僕らの忠実なしもべになっている。


「ゴーレムの指揮はタナトスさんにお願いします」

「承知しました」


 タナトスさんは元近衛騎士団長だから集団戦に長けている。

ゴーレム部隊と他のみんなが十二闘神と戦っている隙をついて、僕、メリッサ、ミレアが弱点である雷撃攻撃をするのだ。


 なんでこの三人が遊撃隊かと言えば戦闘力が高いから。

僕はA(地下七階にきて上がっていた)、メリッサもA、ミレアはAマイナスだ。

決戦前に正直に打ち明けて強さを見せてもらったのだ。

「そんなに遠慮することないのよ。セラだったら裸だって見せてあげるんだから」


 ミレアが冗談とも本気ともつかないことを言って僕を困らせる。


「それでは出発しましょう。みなさん、聖杯を手に入れますよ!」


「おう!!」


 人々の鬨ときの声が僕の背中を押してくれた。


       ◇


 突入前にシドと二人で偵察に出かけた。

メリッサから詳細は聞いていたけど、自分の目で内部の様子を確かめておきたかったのだ。

僕らは入り口の際まで歩み寄り、鏡を使って内部の様子をうかがった。


 聖杯の間は神殿のような作りで静まり返っている。

学校の体育館ほどの広さで、壁の両側に六体ずつゴーレムが等間隔で立っていた。

今は石像のように動かないけど、部屋に侵入者があれば全力で排除しようとするそうだ。


 奥の方に高い場所があり、そこにこの広間の主であるタロスが座っている。

すぐ横の台座の上には巨大な金の聖杯が輝いていた。


「ありゃあ高純度の金晶だぜ。あんな大きなのは見たことがない」


 聖杯に目をとめたシドが囁いた。

僕は手前のゴーレムを調べる。


 『スキャン』発動

 対象:杖の闘神 全長三m八十四㎝

 杖術のマスター

 絶縁体コーティングされており、他のゴーレムに比べ雷撃攻撃が効きにくい

 戦闘力判定:A


 他の闘神も調べたけど戦闘力判定はすべてAだった。

こちらのゴーレムは百五十体だけど、そのほとんどがBかC判定である。

戦力としてはほぼ拮抗か……。

個の力よりは組織力だと思いたいけど、相手は十二体だ。

それにタロスという大物も控えている。


 『スキャン』発動

 対象:タロス 全長四m十二㎝

 格闘技のマスター 武器は持たず、己の肉体のみで闘う

 絶縁体コーティングされており、他のゴーレムに比べ雷撃攻撃が効きにくい

 戦闘力判定:S


 戦闘力判定はSでAの僕やメリッサを凌駕する。

SとAの間にははたしてどれくらいの差があるのだろうか? 

仲間たちと最終的な戦略を立てるために、僕らはそっと引き返した。

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