第46話 地下七階にあったもの
翌日、僕とメリッサは約束通りみんなとは別行動をとった。
見せたいものというのは地下七階の中心部にあるそうだ。
何があるかはまだ聞いていないけど、かなり重要なモノらしい。
ゴーレムとの戦闘は避けて、ひたすら道を急いだ。
「着いた」
目の前には大きな両開きの扉がある。
扉の高さは五メートルくらいあるだろう。
重そうな鉄の扉だったけど、力を込めて押すと内側に開いた。
「まるで巨大プラントだ……」
僕は目の前の光景につぶやいてしまう。
部屋の中はびっしりと機械で埋め尽くされていたのだ。
特に部屋の中心にある設備は大きく、天井に届かんばかりだ。
しかもその機械は地下深くまで続いていて全貌はよくわからない。
「こっち」
メリッサは機械の横につけられた階段を下りていく。
ブーツの底が階段に当たって高い金属音を鳴らした。
五十段もある階段を下り切ると制御室のような場所になっていた。
メリッサが僕を見つめながら尋ねてくる。
「セラならこの機械がどういうものかわかるんじゃない? 教えてほしほしい」
「わかった……」
『スキャン』発動
対象:デザートフォーミングマシン 地下水脈から水を汲み上げ土魔法の力で土壌改良もする。範囲地域はマシンを中心として半径二十キロメートル
起動エネルギーとして聖杯を必要とする
デザートフォーミングマシンとは砂漠を人の住める地にするための物か。
僕はメリッサにありのままを説明した。
「やはりそうだったか……」
「やはりって、メリッサはここのことを知っていたの」
「少しだけ。もともとここはグランベル王国の土地だったから」
「この機械はグランベル王国が作ったの?」
メリッサは首を横に振った。
「そんな技術を持つ国はどこにもない。ここを作ったのはおそらく古代人だろう」
そういえばダンジョンは古代遺跡だという人もいたな。
「エルドラハが見つかったのも偶然だったのだ。飛空艇の事故による不時着陸が原因だった」
調査隊が入って魔結晶が採取できることがわかり、この街が作られた。
そして戦争が起こりグランベルは敗戦。
エルドラハは帝国の所有となった。
「メリッサが知っているってことは、グランベル王国はデザートフォーミングマシンのことを知っていたんだよね」
「ああ、そうだ。おそらく帝国も知っている」
「だったらなんでこれを使おうとしなかったのかな?」
「理由は二つだ。ひとつは聖杯を守るゴーレム集団が強力過ぎたから。昨日私も戦ったが、無理をすれば黒い刃が全滅するところだった。聖杯の間から出てこないから助かったがな」
「もうひとつは?」
そう訊くとメリッサは力なくため息をついた。
「あの機械はダンジョン内の魔素を利用するらしい。もしもあれを動かせば魔結晶の採取率は三十%ほど減少すると言われているのだ」
「つまり、グランベル王国も帝国も人々の暮らしより、魔結晶を優先したっていうの!?」
「その通りだ」
もともとエルドラハに来るのは魔結晶をとる労働者だけだった。
時代が進んで帝国の支配下に置かれた今では、住民は同時に囚人だ。
いつだって権力者はそんな場所の環境をよくしようとは考えないのだろう。
腹が立つけど想像はつく。
「それらのことを踏まえてセラに質問がある」
メリッサはいつになくソワソワとして落ち着きがない。
何か心配事でもあるのかな?
僕は急かすことなくメリッサの言葉を待った。
「セラの夢は飛空艇に乗ってエルドラハから出ていくことだったな?」
「うん。それが僕の小さい頃ころからの夢だよ」
「では、もし聖杯を手に入れたら、セラはそれを帝国に差し出すか?」
メリッサの心配はそれか……。
「メリッサはデザートフォーミングマシンを動かしたいんだね?」
メリッサは決然とした顔つきで頷いた。
「聖杯とは巨大な高純度魔結晶のことだ。利用価値が高いので誰もが欲しがっている。手に入れれば間違いなく帝国市民権を得られるだろう」
その代わりエルドラハは今まで通りか……。
頭の中に近所の人々の顔が浮かんだ。
嫌な奴もいっぱいいたけど、僕を助けてくれた人もいっぱいいた。
死と隣り合わせの生活だったけど、エルドラハは人生を諦めたくなるほど最悪な場所ってわけでもなかった。
「もしセラが聖杯を使ってデザートフォーミングマシンを起動させるのなら、聖杯の間の場所を教える。黒い刃はセラに全面的に協力する。私も……」
何かを言いかけてメリッサは言葉を呑み込んだ。
そして今度は胸が痛むかのように、苦悶の表情で言葉を吐き出す。
「だが、セラが帝国に聖杯を差し出すのなら……、私たちの関係はこれまでだ」
メリッサは責任感の強い人だ。
ここには旧グランベル王国の領民もたくさんいる。
その人たちを差し置いて、自分だけ楽な生活を送るなんてことはできないのだろう。
僕も決めなくてはならない。
自分の夢を実現させるか、人々の生活を優先させるかを。
旧グランベル王国伯爵家の跡取りだなんて関係ない。
これはセラ・ノキア個人の問題だ。
「メリッサ……デザートフォーミングマシンを動かそう」
「……本当に?」
「うん、そっちの方が楽しそうだもん」
「よかった……」
メリッサの瞳から二筋の雫が流れ落ちた。
僕にとっては青天の霹靂だ。
「ど、どうして……」
「う。うう……、えーん、えーん」
あのメリッサが声を上げて泣いている?
「もう泣かないで」
「えーん、えーん」
よほど思い詰めていたのだろう。
僕と
どうしていいかわからなくて、僕はメリッサを抱きしめた。
でも、やっぱりメリッサはそのまま泣き続けていた。
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