第45話 セラとメリッサは……
翌日になって、新しい武器を手にポピュラーナイトへ挑んだけど、戦いは一筋縄ではいかなかった。
最初の一体は奇襲で倒したから比較的楽だったけど、残りの三体はうまく連携して、なかなか付け入る隙を見せない。
サンダーウィップでの攻撃もすべて槍で弾かれてしまった。
ドゴーーーーン!
突如後ろで爆発音が響いた。
なんとデザートホークスが人型のゴーレムに襲われているではないか。
爆発音はララベルの投げたマジックグレネードだった。
「みんな! クッ……」
助けに戻りたくても、背中を向けた瞬間に三本の槍が僕を突き刺すだろう。
「こっちは大丈夫だから、セラは自分の敵に集中して!」
リタの声が後ろから聞こえてくる。
こうなったら一刻も早く敵を倒して救援に向かわなくちゃ。
僕は地下七階を甘く見過ぎていたようだ。
槍の三連撃に頬と肩を浅く切られた。
それなのに僕の放ったサンダーウィップは騎士の盾に阻まれてしまう。
雷撃を流したので多少動きは鈍ったみたいだけど、戦いの流れを止めるまでには至っていない。
後ろでは爆音と剣戟の音がこだましている。
みんなは無事か?
焦りが体を縛って、いつものように動かない。
そんな心の隙を見透かすようにポピュラーナイトは僕を狙う。
いや、そうじゃない!
言ってみればこいつらはマシンだ。
敵の感情を読んでいるのではなく淡々とプログラム通りに動いているだけなのだ。
「落ち着け、セラ」
どこかで聞き覚えのある声がした。
上?
降り注ぐ冷気がポピュラーナイトの腕を凍り付かせる。
さらに二頭の銀色の狼が両脇のポピュラーナイトに襲い掛かった。
これは、メリッサの氷狼の剣!
攻撃するなら今しかない。
僕が伸ばしたサンダーウィップがナイトの首に絡みつき、強烈な雷撃が流れた。
耳の部分から煙を出してポピュラーナイトは動きを止めてしまう。
「メリッサ!」
無表情でⅤサインを出すメリッサが天井からぶら下がっていた。
「まだ二体いる」
「僕はいいからみんなを助けてくれ、頼む!」
「安心しろ、あっちにも人は遣った」
とてつもない破壊音がして、リタたちを囲む人型のゴーレムがはじけ飛んでいた。
あれは爆砕の戦斧!
「ガハハハハハッ! 黒い刃が一刀、剛力のキャブル見参!」
キャブルさんやタナトスさん!
黒い刃のメンバーもそろっている!
「さっさとここを片付けるぞ」
メリッサが一瞬だけ微笑んでくれた。
残りが二体になると、討伐はグッと楽になった。
しかもメリッサのサポートまである。
僕は余裕をもってポピュラーナイトを討ち取り、他のメンバーの救援に向かった。
「残りは貴様だけだ、覚悟しろ!」
キャブルさんが改造済みのタンクを攻撃しようとしているところだった。
「待って、キャブルさん! それは僕のタンクだから!」
危ないところでキャブルさんの腕を捕まえた。
「若君のタンク?」
「僕が改造して使っているの」
「なんと! 若君はゴーレムをも使役しますか? これでグランベル王国もますます安泰でござる。うぅっ……」
キャブルさんは大げさ過ぎるよ。
僕はメリッサに向き直った。
「ありがとう、助けてくれて」
「礼などいい」
メリッサは淡々と話していたけど、ちょっぴりだけ照れているのが僕にはわかる。
「ちょっと、セラは氷の鬼女と知り合いなの?」
メリッサと話していると、ミレアが僕の肩に手をかけながら割って入ってきた。
「ミレア・クルーガーか……」
二人は顔見知りのようだ。
「私はセラの許嫁だ」
「はあっ? どういうことよ!?」
「説明すると長い」
またこのくだりですか……。
「メリッサ、そのことは先日……」
「わかっている。ミレア・クルーガーを驚かせてみたかっただけだ」
さては、人が驚くことに密かな喜びを感じ始めたな。
ミレアは理解が追い付いていないようだ。
「つまりどういうこと?」
「えーと、話は本当だけど親同士の取り決めなんだ。だから保留中って感じかな」
「そう言うわけだ。セラに馴れ馴れしく触るなよ。私の男だからな」
淡々としているけど目が本気だった。
君子危うきに近寄らず、というわけではないが、僕は二人を無視して動かなくなったゴーレムに近づいた。
使えるかどうかを調べたい。
一体一体丁寧に調べたけど、どれも再利用が可能だった。
ゴーレムたちの自律的な攻撃性を取り除き、簡単な命令を覚えさせた。
『待て』『ついてこい』『目標を攻撃』『戻れ』『防御』などで、犬に命令をするような感じで言うことをきかせている。
百四十ワードくらいは理解できるので、今後の活躍に期待したいものだ。
また、ポピュラーナイトは騎乗できるようにもした。
これによってデザートホークスの機動力が大いに上がったぞ。
ただ、ゴーレムは魔結晶をエネルギー源としているので定期的に与えなければならない。
そのせいだろう、この階には魔結晶があまり落ちていないのだ。
きっとゴーレムたちが食べてしまったのだと思う。
その夜は黒い刃と一緒に露営した。
小部屋を封鎖して安全地帯を作り、食事や情報を分け合うことができた。
夕食も終わり、僕はメリッサと黒い刃の装備を『修理』している。
「ずいぶんと激しい戦闘をしたみたいだね」
剣や槍は歯刃がボロボロになっていたし、鎧も傷だらけだ。
「地下七階は予想以上だった」
金属でできたゴーレムを相手にすれば、装備がここまでひどい状態になってもおかしくない。
黒い刃くらいになると遠征中に修理をするために野鍛冶の道具は持っている。
だけど、それでは追い付かないくらい損傷が激しいのだ。
「実は聖杯を見つけた」
メリッサはとんでもないことを打ち明けてきた。
「本当なの?」
「セラに嘘は言わない」
僕もそう思う。
メリッサは僕に嘘をつかない。
「もう手に入れたってこと?」
「いや、撤退した。聖杯を守るゴーレムが強過ぎたのだ」
メリッサと黒い刃を退けるだなんて、相手はどれだけ強いんだ!?
「セラ……明日見せたいものがある。付き合ってくれないか?」
「いいよ、午前中にみんなで行こう」
「いや、二人だけで行きたい」
メリッサは思いつめたような目をしている。
きっと大切な理由があるのだろう。
「わかった。二人だけで行こう」
そのように返事をするとメリッサは納得したように頷き、それ以上はなに何も話さなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます