第44話 私の覇王様
安全地帯まで移動した僕はスキルを駆使してタンクゴーレムを本物のタンクに改造した。
二時間もかかってしまったけどその価値はじゅうぶん以上にあるはずだ。
「できたぞ!」
僕の声に休憩していたデザートホークスが集まってくる。
「ほう、外見もだいぶ変わったな。頭がなくなっている」
「その通り。敵を認識するセンサーとか、攻撃を考える能力は頭部に集中していたんだ。だからそれは取っ払って、操縦席にしちゃった」
首から下はコックピットになっていて乗り込むことができる。
屋根はない。
エルドラハで雨は降らないからね。
「こいつを動かすことができるのか?」
ララベルが興奮している。
「そういうふうに改造したからね! 見ていて」
タンクに乗り込みレバーを動かすと上半身がクルクルと回り出した。
腕のアームも自在に動くので、荷台に荷物を積むのも自由自在だ。
「おお! アタシを持ち上げてみてくれ!」
ララベルのリクエストどおりに胴体を掴んで持ち上げる。
マジックハンドは微妙な力加減ができるので、生卵を掴んでも潰すことはない。
天井近くまで上げられてララベルはキャッキャとはしゃいでいた。
「これでセラが荷物を運ばなくて済むわね」
リタがタンクに上がってきた。
「うん、これからはこのタンクの仕事だ。リタも操縦を覚えてよ」
僕は操縦席をリタに譲る。
不安そうな顔をしながらもリタはコックピットに滑り込んできた。
まずは前進と後進、左右への旋回を覚えてもらった。
三十分ほどの講習で全員がタンクの操縦方法を覚えた。
そんなに難しいものでもないし、ダンジョンの壁にぶつけたところで苦情はどこからも来ない。
これからはガンガン活用していくつもりだ。
「ねえ、ゴーレムだったらどんなのが相手でも、こんなふうに改造できちゃうわけ?」
ミレアの質問にハッとさせられた。
「わかんないけど、破損した機体を再利用することは基本的に可能だと思う」
「つまり、手下をいっぱい作れるってことよね?」
命令を聞かせることができるかどうかはわからない。
でも、人間への攻撃性を書き換えればなん何とかなるのかな……。
「自律回路をいじることができればあるいはね……」
「それってつまり、セラがダンジョンの覇者になれるってことじゃない?」
「そ、そうなのかな?」
「そうに決まっているじゃない。そして、それは……」
「それは?」
「私がダンジョンの女王になるってことを意味しているわ!」
「なんでそうなるのよっ!」
僕の代わりにリタがツッコんでくれた。
覇者うんぬんはともかく、ゴーレムたちを配下にできればダンジョンの探索はずっと楽になるはずだ。
というよりも、魔結晶の採取をゴーレムに任せてしまえば人間への被害はずっと少なくなるだろう。
この先、ダンジョンで命を落とす人はいなくなるかもしれない……。
「ちょっと試してみようか?」
「だったらいいゴーレムがいるわよ」
僕らはミレアの案内でさらなる奥地に進んだ。
◇
物陰からそっと頭を出すと四体のゴーレムが巡回している様子がよく見えた。
「あれよ。なかなか使えそうでしょう?」
ミレアが教えてくれたのは騎士のゴーレムだ。
騎士のゴーレムと言っても馬型に人型のゴーレムが乗っているわけではない。
ケンタウロスのように下半身が馬で胴体から上に人の上半身がついている。
全体が丸みを帯びた金属の造形で、いかにも強そうだ。
武器は長い槍を持っていた。
「どう、改造できそう?」
「遠過ぎてスキャンが使えないな。もう少し寄ってみるからみんなはここで待っていて」
タンクを改造したときにわかったのだけど、ゴーレムは人感センサーを搭載していた。
赤外線や音波、可視光などを利用しているので、ターンヘルムで姿を消しても気が付かれるだろう。
でも三百六十度すべてが見えているわけじゃない。
死角はどこかにあるはずなのだ。
僕は天井に張り付いてゴーレム騎士の後ろからそっと近づいた。
『スキャン』発動
対象:ポピュラーナイト 人馬一体型のゴーレム。
移動速度は最大で時速四十キロにもなる
得意技:槍による直接攻撃 弱点:頭部への雷撃
戦闘力判定:Bプラス
騎兵というのは機動力と破壊力で恐れられる兵種だ。
ただし防御力が低いのが難点とされている。
特に馬への攻撃に弱い。
鎧で防備を固めた騎馬もあるけれど、その場合は機動力が失われる。
ところがこのポピュラーナイトは馬も人も金属製だ。
はっきり言って無敵じゃないのか?
魔法は使えないようだけど、トップスピードから振るわれる槍は恐ろしい。
こんなのが何体もいたらこちらの全滅は必至だ。
ただ雷撃というのはゴーレムに共通する弱点のようでもある。
だったらそこをうまくついていこう。
僕はそっと仲間の元へ戻った。
「攻略できそうか?」
シドが身を寄せてくる。
「なんとかなると思うよ。新しい武器が必要だけど……」
「その程度でなんとかなるのか?」
「やるだけやってみる」
その日の探索はそこまでにして、僕らは安全地帯を構築して休憩した。
みんなが宿営や食事の準備をしてくれている間に、僕は新しい武器を作製する。
最初に用意するのは特殊なワイヤーだ。
これは鮫噛剣にも使われているもので、魔力を流すと伸び縮みする。
このワイヤーを何本も編み込んで太いロープを作った。
それを紫晶と黒晶などを組み込んだ柄に取り付けていく。
「新しい武器って鞭のことなの? ずいぶんと短いわね」
大きな鍋を抱えたリタがやってきた。
鍋の中ではゆでたてのトウモロコシが湯気を上げている。
「短くないさ。サンダーウィップはこんなふうに使うんだ」
振り下ろすと同時に魔力を込めると七十センチくらいしかなかった鞭は五メートルほど伸びて壁を弾いた。
「すごい!」
「理論値で言うと最大で三百メートルは伸びるんだよ。そのぶん消費魔力は膨大になってしまうし、鞭の直径も細くなっちゃうけどね」
そうなれば攻撃力は皆無となる。
「これでゴーレムを捕まえられるの?」
「うん。ここにボタンがついているでしょう? ここを押し込むと……」
ワイヤー部分に強い雷撃が流れた。
「あらステキな武器じゃない。ダンジョンの女王たる私にこそふさわしいわ」
ミレアはまだ言っている。
「これは僕が使うから駄目だよ。ミレアを危険な目に遭わすわけにはいかないよからね」
「まあ♡ さすがは私の覇王様!」
ミレアのためだけを思って言っているわけじゃない。
僕は自分の手でゴーレムを捕まえてみたいのだ。
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