第43話 ゴーレム襲来
地下七階はこれまでのダンジョンとはがらりと雰囲気が変わっていた。
床や壁は金属やコンクリートらしき素材になっていて、天井には照明装置までついている。
無理に形容すれば、とってもメカメカしくなっている感じだ。
昔のテレビアニメで観た悪の秘密結社の秘密基地? そんな匂いがプンプンする。
見たこともない風景にデザートホークスの面々もかなり怖がっていた。
でも僕は嬉しくて仕方がない。
「セラは何をはしゃいでいるの?」
リタが不思議そうに訊いてくる。
「だってさ、解体すれば金属が取り放題なんだもん! 武器にして売ってもいいし、新しい道具を作る材料にもなるよ。天井には山ほど魔導ランプがついているしさ!」
「なんていうか……、セラは前向きよね」
エルドラハの人間にとっては見慣れない風景でも、僕にしてみればそうでもない。
だけど、珍しくミレアが真剣な顔で僕をたしなめた。
「でもね、ここの魔物は最悪よ」
そういえばミレアは地下七階に来たことがあるんだったな。
「どんな魔物が出るの?」
「ゴーレム系よ。やたらと装甲が硬くて、攻撃も強力なの。なるべく戦闘は避けることをお勧めするわ」
楽観的なミレアでさえ恐れるほど手強いのか……。
ゴーレムと言えばストーンゴーレムやアイアンゴーレムなんかを想像するけど、実際にはどんなのが現れるのだろう?
硬い岩石や金属の塊ともなると
いっそパワーを活かして投げ飛ばせれば自重で自滅してくれないかな?
先頭を歩いていたシドが手を上げて足を止めた。
敵の気配を感じたときのサインだ。
僕も耳を澄まして周囲の様子を探る。
するとコンクリートの壁を伝って遠くの方から振動音が聞こえてきた。
あれ? この音はどこかで聞いたことがあるぞ。
といってもかなり昔のことだ。
そう、それは前世の記憶。
「思い出した、工事現場の音だ!」
転生する前の日本で聞いた重機の音にそっくりなのだ。
クローラーが移動する際に発するガタガタというあの音である。
「来たぞ!」
シドの声に通りの向こうに目をやると、地下七階の魔物がゆっくりと近づいてきていた。
すかさず僕とリタが魔導爆発型反応シールドを構える。
「なんなのあれっ!?」
全員が恐怖に身をすくめていたけど、僕だけは別だった。
「ロ、ロボじゃん!」
現れた魔物は小さな装甲車の上に人間の上半身が乗ったような姿だ。
三角形のクローラーが推進力となっている。
腕の先端はマジックハンドのようになっていて、物を掴むこともできるようだ。
ゴーレムというよりは古いアニメのロボットみたいだった。
「ララベル、敵の駆動力を奪ってくれ。足元にグレネードを!」
「了解」
通路の幅は六メートルほどで狭い。
すり抜けることはできないし、引き返すのも面倒だ。
敵の能力を知るためにもとりあえず戦ってみよう。
ララベルのグレネードがロボットの足で爆発したけど、動きは止まらなかった。
「効いてねえ!?」
「シド、頼む!」
「おう」
シドは狙いを定めてクローラーにボルトを叩き込む。
一発、二発、三発、四発目で動きが止まった。
「みんなはここで待っていて。僕が戦ってみる!」
接近してスキャンをしてみた。
対象:タンクBK-01 全高二百二十八㎝ 全幅百四十六㎝
タグラム合金でできたゴーレム。装甲が硬くパワーがある。
アームが伸びて直接攻撃を仕掛けてくる
弱点:頭部への雷撃
戦闘力判定:Bマイナス
戦闘力判定で言えばこれまでで一番強い。
ただ、頭部への雷撃攻撃が弱点なら、雷撃のナックルを持つ僕は有利とも言えた。
あえて無造作に真っ直ぐ進むと、突然マジックハンドの先端が伸びて僕を襲ってきた。
ロケットパンチとはいかなくても、高速で伸びてくるパンチにはびっくりした。
パワーは僕以上かもしれない。
重い金属の塊が飛んでくるのだから受け止めるのは無理だろう。
魔導爆発型反応シールドでも受けきれないな。
おそらく粉砕される。
だけど、こいつの攻撃は直線的だ。
タイミングを合わせて……。
飛んできたパンチを紙一重で避けて、そのまま頭部へと飛びつく。
雷撃のナックルを発動させて、両手で挟むように拳を打ち付けた。
秘儀
「ギヤァアアアアアアン!」
不快な金属音を立ててゴーレムはのたうち回ったけど、十秒もかからずに動きは停止した。
雷撃で回路でも焼き切れたのだろうか?
リタが盾を構えながら近寄ってきた。
「終わったの?」
「うん、もう動かないよ」
全員が安堵のため息をつく。
と、ミレアが後ろから突然抱きついてきた。
「すごいわ、セラ! 私でさえかなわなかったゴーレムを一撃で倒しちゃうなんて!」
「一撃じゃないよ。先にララベルとシドが駆動装置を壊しておいてくれたからね。そうでなかったらあんなに簡単にはいかなかったと思う。それに、ミレアも空中を飛び回ってゴーレムを牽制していてくれただろう?」
「見ていてくれたんだ」
なんだかんだでミレアは気が遣えるのだ。
ララベルは動かなくなったゴーレムを手のひらでぺちぺちと叩いた。
「こんな魔物がいるとは驚きだぜ。単体だからよかったけど、群れで襲ってきたらヤバかったんじゃないか?」
もうそれは魔物の群じゃなくて機甲師団って呼ばれるやつ奴だよね。
「それは言えるね。まあ、地下七階は六階ほど広くはないから、大規模に展開される恐れはないけどね」
シドは周囲を警戒しながらソワソワとしている。
「おい、セラ。長居は無用だぜ。他の魔物が現れる前にさっさとずらかろう」
「ちょっと待って。大事なことがあるんだ」
僕はゴーレムを丹念に調べていく。
「やっぱりそうだ。こいつの体を利用できるぞ……」
ミレアが目を見開く。
「体を利用するって、エッチなこと!?」
「そんなわけないだろう!」
ロボ好きではあるけど、そこまで特殊な性癖はない。
せっかくのロボだから有効利用したいだけだ。
タンクの自律回路は雷撃で焼き切れていたけど、操縦するタイプにしてやれば荷車くらいは引けそうだった。
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