第38話 準備は万端


 約束の日はすぐにやってきて、僕はデザートホークスの面々を居間に招いた。

今日もクーラーが大活躍だ。

シドやララベルはすっかり馴染んでいて、僕の部屋の冷蔵庫から勝手に飲み物を出している。

まるでアメリカ人のようだった。


「いつ飲んでもこのサイダーって美味いよな!」


「アイスコーヒーに入れる氷はどこだ? ガムシロ取ってくれよ」


 ララベルもシドも順応が早過ぎっ!


「はいはい、みんな落ち着いたらこっちに注目! 今から新作装備のお披露目をするよ」


 まずはタクティカルブーツからだ。


「使いやすそうだけど、以前のとどう違うの?」


 リタが自分の分を受け取りながら訊いてくる。


「いくつかの仕様変更があります。いちばんの違いは靴底ね。ゴムといって伸縮性があり、滑りにくい素材を採用しました」


「ほんとだ、キュッキュッってなって滑らない」


「それから、前のブーツは仕込みナイフを採用していたけど、あれは廃止ね」


「まあ仕方がないな。ロマンは溢れるけど重たかったからな、あれは」


 シドが納得したように頷く。


「つま先の鉄板は継承しているからね。それから前衛が持つための大盾を用意しました。使うのは僕とリタを想定しています」


 しゃがめば体が隠れてしまうくらいの盾を二枚取り出した。

リタは盾を構えて具合を見ている。


「意外と重いのね」


「魔導爆発型反応シールドっていうんだ」


「ずいぶんと長い名前」


「その名の通り。魔法攻撃や物理攻撃を受けた瞬間に、盾の表面で小さな魔法爆発を起こして、敵の攻撃の威力を相殺そうさいしてしまうんだ。ちょっとやってみるよ」


 僕は雷撃のナックルでリタの持ったシールドを軽くぶん殴る。


「うわっ……、って、雷撃が来ない……。しかもセラのパンチ力をかなり軽減しているよ!」


「いい出来でしょう? 主に遠距離攻撃に主体を置くときに使おうと思っているんだ。僕とリタが防御に徹して、シドとララベルが攻撃を担う場合ね」


 シドがウンウンと頷いている。


「セラたちがそれで防御して、俺とララベルがコンパウンドボウで攻撃だな」


「それなんだけど、二人には新しい武器を用意したんだ。地下五階より下は強力な魔物が多いからね。まずはシド」


 僕はできたての武器を渡した。


「なんだこれは? 弓のようだがどうやって引いたらいいのかわからん」


「それは六連マテリアルクロスボウだよ」


 本体下部に弾倉を取り付けるタイプのクロスボウだ。

二本の弦はワイヤー巻取りにより、自動的に引かれる。

矢はボルトと呼ばれる短いタイプではあるが、魔法補正により初速、威力ともにコンパウンドボウをはるかに凌ぐ。


「部屋の中で試し撃ちはしないでね。軽く壁を貫通するから」


「わ、わかった」


 さっそく撃ってみようとしていたシドを止めた。


「いいなぁ、シドばっかりすごい武器をもらって!」


「ララベルにもあるよ。ほら、これだ」


 僕は先端が膨らんだ筒状のアイテムを渡す。


「お、けっこう重たいな。これはなんだ?」


「投擲手のララベルにぴったりの武器、その名もマジックグレネードだ」


 マジックグレネードは手榴弾しゅりゅうだんによく似ているけど火薬の代わりに赤晶が使われている。

魔力を込めると十秒後に爆裂魔法が展開される仕組みだ。


「一発の威力はマテリアルクロスボウの方が上だけど、マジックグレネードは一定範囲に有効なんだ。強力な個体はシド、群れで襲ってくる場合はララベルに対処を任せるからね」


「わかった。あー、腕が鳴る。早く試してみたいよ!」


「支給品はこれだけじゃないよ。ほら、ダンジョンスパイダーの糸を使った布で戦闘服を作ったんだ。耐久性、アンチマジック効果に優れているから、みんな着てみてね」


 軽くて通気性もいいはずだ。


「すごいわねえ、これなら地下六階も怖くないわ」


「リタ、気が早いよ。もうひとつすごいのがあるんだ」


 僕は袋の中からヘルメットを取り出して被る。


「素材の関係でひとつしか作れなかったけど、これは斥候スカウトのシドが使ってね。使い方はここに魔力を送って……」


「セラが消えた!!」


 ララベルが目を見開いて驚いている。


「どういうことなの? って、あ、ちゃんとここにいるんだ」


 リタが見えないはずの僕の肩を掴んだ。


「先日、宝箱で賢者のプリズムっていうアイテムが出てきたんだ。これは様々な幻影を空間に映し出す秘宝なんだけど、これを使ってこの『ターンヘルム』を開発したんだ」


 僕はヘルメットを脱いでシドに渡す。


「使い方は簡単だよ、やってみて」


「お、おう……。どうだ?」


「うん、ちゃんと消えているね」


「スゲー、アタシも欲しいな」


 斥候は危険な役目だ。

シドにはなるべくリスクを減らしてもらいたい。


「これがあればシドの危険も減るだろう?」


「すまねえ、セラ。俺のために大事な秘宝まで使わせちまって……」


 姿を現したシドの瞳がほんの少しだけ濡れていた。


「でも、ダンジョン以外の場所では、ターンヘルムはセラが預かっておきなさい」


 リタが厳しい声で言う。


「なんで?」


「シドがスケベだからよ。これを悪用されたらたまらないわ!」


「そ、そんなこと……」


「この前だって私の胸元を覗き込んでいたじゃない! 気が付いてないとでも思っていた?」


「そんなバカな。『隠密』のスキルを発動してたのに、なぜバレた!?」


「やっぱり!」


 シドはカマをかけられたようだ。


「ごめん、シド。ターンヘルムは僕が預かるよ」


「う、うむ……」


 なんとも締まらない新作発表会になってしまったが、これで準備は整った。

出発は三日後。

デザートホークスは聖杯を探しにダンジョン深部へ潜ることが決まった。

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