第37話 銀の鷹と呼ばれて
地下二階あたりまで帰ってくると、大量の木材、フルーツ、魔結晶を積んだ荷車を引っ張る僕らは注目の的だった。
「よう坊主、がっぽりと儲けてるじゃねーか。俺たちにも少し分けてくれよ」
ガラの悪い輩が絡んでくる。
無視して荷車を引っ張っていると、そいつは僕の肩に手をかけてきた。
「そんなに怖がるなって。魔結晶をちょっと分けてくれるだけでいいんだぜ。おっ、黒晶まであんじゃねーか!」
荷物に目をとめた男が手を伸ばす。
僕はその手首を掴んで軽い雷撃を流した。
これだけ重い荷車を引っ張っている相手に対して腕力で勝てると思っているのだろうか?
「うわたっ!?」
僕は手首を離さずに忠告する。
「他人の物を勝手に触っちゃ駄目だよ」
戦闘力判定はEプラスか。
この程度の実力でカツアゲとは度胸がある。
というより自己認識能力の欠如だな。
「クソガキどもが!」
男の仲間が殺到してきたけどメリッサに蹴り倒されていた。
三秒くらいの出来事だ。
「それくらいにしておきなよ、メリッサ」
相手も刃物を抜いていないので無茶をしないように止めておく。
「うん」
メリッサも殺すつもりはないようで安心した。
「あいつ、氷の鬼女だ……」
いざこざを見ていた一人がメリッサの正体に気が付いたようだ。
「ということは、あっちの子どもがデザートホークスのノキアか?」
「セラ・ノキアって、……銀の鷹か!」
「ああ、凶悪な盗賊団を一人で壊滅させたって話だ。奴の腹パンをくらうとステキな思い出が十個消し飛ぶと言われている」
どんな批評なのさ!?
そんなスキルは持っていないよ。
「行こう、メリッサ」
「うん」
僕の顔も売れてきたということかな?
でも、みんなに怖がられるのは心外だ。
ダンジョンで傷ついた人を治療したり、近所の子どもに食べ物をふるまったりもしているのに、悪名ばかりが広まって目立っている。
世の中ってそんなものなのかな?
地上に出ると監獄長の放送が響いていた。
《聞け、クズども。俺が若い頃ころと言えば、苦労は買ってでもしたものだ。それに比べて貴様らはまるで苦労が足りん!》
僕とメリッサは同時に苦笑していた。
相変わらずくだらない内容だったけど、これを聞いて無事に戻ってきたという実感も湧いた。
「いろいろとありがとうね。机はできあがったら届けるよ」
「うん、私も楽しかった」
遠ざかるメリッサの背中に声をかける。
「また二人で探索しようね!」
「うん!」
振り向いたメリッサは誰にでもわかるくらいに笑顔だった。
家まで戻ってくると、僕の姿を認めたリタ、シド、ララベルが駆け寄ってきた。
「遅かったじゃない!」
「まったくだ。どんなに心配したと思っているんだ!」
書き置きだけを残して出かけたから、三人とも心配してくれたんだな。
「ごめん、ごめん。地下六階の収穫が大きくてつい長居をしちゃった」
「アタシはちっとも心配なんかしなかったさ。セラなら大丈夫ってわかっていたからな」
「ありがとう、ララベル。バナナやマンゴーなんかのお土産があるから部屋の中で話そう」
荷物を運ぶのを手伝ってもらい、僕らは部屋の中へ入った。
落ち着くと、シドが質問してきた。
「それで、地下六階はどうだった?」
「シドの言っていた通り森みたいなところだったよ。魔物もけっこう手強い」
「手強いってどれくらい?」
リタも興味津々だ。
「リタでも手こずると思う」
リタの戦闘力判定はCプラスだけど、地下六階にはC判定の魔物がたくさんいる。
一対一ならまだしも、複数を相手にすればひとたまりもないだろう。
「おいおい、だったらどうすんだ?」
「安心して、シド。僕に考えがあるんだ」
「考え? 本当に大丈夫なのか?」
「もちろん。新しい装備を開発するよ」
僕のサポートと新装備があれば、デザートホークスの力は地下六階でもじゅうぶん通用するはずだ。
「僕に三日ちょうだい。それまでに用意するからね」
頭の中ではすでに設計図はできている。
素材もたっぷり取ってきた。
あとは作製するだけだ。
僕は思いを巡らせながらジューシーなマンゴーにかぶりついた。
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