第36話 宝箱
トレントはすぐに見つかった。
最初は普通の木だと思ってそばを通り抜けようとしたら、枝が伸びて僕らを襲ってきたのだ。
枝の先はトゲの生えたコブになっている。
幹の上の方に老人の顔のようにしわが寄っていて僕らを睨んでいるみたいだった。
『スキャン』発動
対象:トレント 全長四m十二㎝ ダメージ0% 防御力、生命力がともに高い
得意技:しなる枝による直接攻撃 弱点:火炎魔法 眉間にあるコブ
戦闘力判定:C
「顔の部分にコブがあるだろう。あそこが弱点だ」
「わかった」
メリッサは次々と襲い掛かってくる枝をすべて避けて幹の部分に飛び込み、曲刀を深々とコブに刺した。
だけどコアの部分までは届かなかったようでトレントは動きを止めない。
樹皮は柔らかいようで硬く、攻撃をソフトに受け止めてしまうのだ。
僕も鮫噛剣でトレントの枝を切り払っていくけど、ダメージを与えられている感じがしない。
やはり弱点を突かないとだめか。
「セラ、危ない!」
メリッサの注意がなければやられていたかも。
僕は死角から飛んできたトゲ付きのコブを左手で受け止めた。
「パワーだったら負けないぞ!」
左手一本で枝を引っ張ってトレントを大地に叩きつけた。
それでもあまりダメージは受けていないようだ。
こうなったらこのまま『解体』してやる!
左手でトレントを掴んだまま『解体』を発動する。
そのとたんにトレントはうめき声を上げて苦しみだした。
なるほど、解体を生きている対象に使えば強力な技になるようだ。
とは言え、完全に解体するには十分くらいかかるだろう。
多数を相手にするとき時は実用的ではないことは明白だ。
ただ、レベルが上がればもっと早く解体できちゃうかもしれない。
それって即死スキルじゃん!
そう考えると恐ろしい技だともいえた。
トレントはもがき苦しむけど、僕の握力は伊達じゃない。
やがて動きが鈍くなったトレントにメリッサが飛びかかり、先ほど穴をあけた眉間のコブに再び曲刀を突き刺した。
「ウオオオオオオオーーーーーーーーーンンンンン……」
スキャンによって死亡を確認。
僕らはトレントを倒すことに成功した。
「なかなか手ごわい相手だったね」
「焼くことができればもっと早いのに」
僕は解体を続け、トレントを板や角材にしていく。
全部で三十七キロ分の資材を得ることができた。
「これで新しい机が作れそうだ」
「僕のベッドも作れるかな。以前、治療をした人の中に『家具職人』のジョブの人がいたんだ。その人に依頼できないか聞いてみるつもり」
「もしかしてセラは人のジョブがわかるの?」
メリッサの顔色が変わった。
「そうだけど安心して。メリッサのことはスキャンしていないよ」
「本当に?」
メリッサは泣きそうな顔をしている。
そんなに自分のジョブを知られたくないのだろうか?
「嘘は言わないよ。これからも絶対にしないから」
「うん、セラを信じる」
僕らは狩りを続け、二百キロ超の木材を集めることができた。
それどころか木材と鉄の扉を加工して荷車まで作ってしまったぞ。
地下六階にゴムの木があってよかったよ、ゴムタイヤまで作れたからね。
これで大量の荷物も楽に運べるはずだ。
探索も三日目になった。
僕は地図を描き、帰りの目印を覚えながら進んでいく。
「メリッサは地下七階へ行ったことはある?」
「ない。下り階段がどこにあるのかわからない」
一般に地下六階の地図は出回っていない。
分け入る人がほとんどいないからである。
シドのようなベテランの
地下六階についてはほとんど知らないそうだ。
デザートホークスの当面の課題は地下七階へ降りる階段探しということだ。
「木材やフルーツも大量に集まったし、そろそろ地上へ戻ろうか」
「うん……」
メリッサはちょっと寂しそうだ。
「今日中に帰り着つける わけじゃないから気を抜いちゃだめだよ。地下三階くらいでもう一泊していこうね」
「うん」
二回目の「うん」はずいぶんと元気だった。
「セラ!」
珍しく興奮した声でメリッサが僕を呼び止めた。
「どうしたの? 魔物?」
「そうじゃない。あれ」
メリッサが指し示す先には
だけど、その藪の中に箱が見えた。
幅が一メートル、高さは七十センチくらいある。
「もしかして宝箱!?」
ダンジョンではたまにこうした宝箱が発見される。
しかも、深い階層で発見されるほど宝箱の中身の価値は上がるのだ。
とんでもないお宝が入っているかもしれないぞ。
ワクワクしながらも罠などがないか慎重に調べた。
ごくまれにだけど宝箱に擬態するミミックという魔物だっているのだ。
そうはいっても僕にはスキャンがあるので騙されることはないけどね。
「大丈夫、普通の宝箱だ。でも鍵がかかっているな……」
「地上に持ち帰ってから開ける?」
「たぶん開けられると思う……」
スキル『解体』を発動すると、鍵は難なく外れた。
やっぱり鍵開けにも応用が利いたか。
悪用すれば砂漠一の大泥棒にだってなれる気がする……。
「さて、何が入っているかな……」
宝箱の中には様々なものが入っていた。
金晶や銀晶(手に取ったのは初めて)、黒晶に白晶、金属のインゴット各種、ダンジョンスパイダーの糸を使った反物が五巻き、柄に宝石のちりばめられたショートソード、キラキラ光るプリズムなどだ。
「すごい剣だね」
ショートソードの刀身は青白く輝き、吸い込まれてしまいそうに美しい。
『スキャン』発動
対象:氷狼の剣 全長百十㎝
戦いをサポートする氷属性の狼を二体召喚できる
氷冷魔法が得意なメリッサ向きの武器だ。
氷狼の剣の説明をしてメリッサに使ってみるように勧めた。
「やってみる……」
メリッサが構えた剣から冷気がほとばしり、周囲の空間を冷やしていく。
空中には氷の結晶が舞い、振り下ろされた剣から寒風をまとった二体の狼が出現した。
白銀の狼はメリッサの両脇に控え、一匹は周囲の様子を探るように眼光を光らせ、もう一匹は鼻を高く上げている。
二体の狼を従えたメリッサは、まるで氷の女王だ。
「すごいよ、メリッサ! 使い心地はどう?」
メリッサがビュンビュンと剣を振るたびに、肌を刺すような寒風が吹きすさぶ。
「手に馴染む。とてもいい」
どうやら気に入ったみたいだ。
さて、こちらのキラキラ光るプリズムは何だろう?
『スキャン』発動
対象:賢者のプリズム
光魔法が付与されたプリズム。様々な幻影を映し出すことができる
静止画や五秒くらいの動画を空中に映し出すことができるアイテムのようだ。
なかなか面白い。
消耗品は半分に分けるとして、氷狼の剣はメリッサが、賢者のプリズムは僕がもらうことになった。
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