第34話 メリッサと一緒に
新しい部屋作りは順調だった。
マジックボトルとウィンドスタッフを利用してジャグジーも設置した。
おかげで毎日リタとララベルが遊びに来ている。
風呂上がりにバスタオルを巻いただけの格好でうろうろするから目のやり場に困る日々だ。
ただ、せっかく綺麗な部屋に引っ越したというのに家具は少ない。
飛空艇が運ぶ量はちょっぴりだから、エルドラハで木材は貴重なのだ。
「地下六階に行けば木があるけどな」
我が家のダイニングテーブルでお昼ご飯を食べていたシドが教えてくれた。
シドだけではなくリタもララベルも一緒にご飯を食べている。
気温がいちばん高くなるお昼時は、エアコンのきいている我が家に集まる率が高い。
「木があるってどういうこと?」
僕は地下四階までしか行ったことがない。
「俺も数えるくらいしか行ったことはないんだが、地下六階の奥にそういうエリアがあるんだ。そこは高い天井から光が降り注ぎ、まるで森みたいなところなんだぜ」
地下六階の奥地ともなるとたどり着ける人はまれだ。
たとえ木を切り倒したとしても、重い木材を抱えて帰って来られる人も少ないだろう。
だけど、一トンもの荷物を持てる僕なら……。
次の日、僕は仲間への書き置きを残して一人でダンジョンへと出かけた。
地下六階まで出向いて材木を取ってこようと考えたのだ。
家具が欲しいというのは個人的な事情なので、デザートホークスとしてではなくソロ活動にした。
ソロじゃ危ないかなって気はするのだけど、これまでの戦闘を振り返るといける気もする。
地下五階までなら一人でも余裕なのだ。
とりあえず六階まで行ってみて僕の実力は通じるのか、仲間を危険な目に遭わせずに済むか、そこら辺のところを見極めるつもりだ。
食料や水を背負ってダンジョンの階段に差し掛かると、下の方からフードを被った黒い刃が戻ってくるところだった。
「これは若君!!」
ひときわ大きな声で話しかけてきたのはキャブルさんだ。
僕が作ってあげた爆砕の戦斧を肩に担いでいる。
でも、なんで若君?
そんな呼ばれ方をされたのは初めてだ。
「キャブルさん、こんにちは。爆砕の戦斧はどうですか?」
「実にいいですぞ! 今日もポイズンビートルの頭を一撃で粉砕してやりましたわ。ガハハハハハッ! 若君が婿に来てくだされば黒い刃も安泰、グベッ!」
キャブルさんの頭がメリッサに粉砕されていた。
「余計なことを言うな」
メリッサは恥ずかしそうにこちらをチラチラ見ている。
他の人には読み取れないほど微妙な表情の変化だけどね。
「やあ、メリッサ。もう上がるの?」
「うん。セラはこれから?」
「今日は地下六階に行ってみるんだ」
「一人で?」
「そう、ソロ活動」
「……私も連れて行って」
「メリッサも?」
コクコク。
「今上がってきたばかりでしょう。疲れてないの?」
フルフル。
「私なら心配ない。私も行きたい」
相変わらず言葉は少ないけど、メリッサの決意は相当なものだ。
「セラ殿、姫様は一度言い出したら聞きません。どうかご一緒してはもらえませんでしょうか?」
タナトスさんにまでお願いされてしまった。
「行こう、セラ」
他の人には無表情に見えるんだろうな。
だけど僕にはわかっている。
メリッサは心配そうに僕の返事を待っていることを。
「うん、よろしくね」
これも他の人にはわかりにくいこと、僕の答えにメリッサは嬉しそうな笑顔になった。
これがメリッサ以外の他の人なら断っていたかもしれない。
これから行く地下六階は滅多に人も行かない危険な場所だ。
大丈夫だとは思うけど、仲間を守れる絶対の確信はまだない。
それを得るために下見に行くのだ。
でも、メリッサに関して言えば、おそらく僕より強いんじゃないかと思っている。
まだスキャンで見たこともないからわからないんだけどね。
スキャンを使って確かめてもよかったんだけど、メリッサが相手だと気づかれるような気がしている。
それくらいメリッサは隙がないのだ。
「何を見ている?」
「メリッサを」
「なんで?」
「強そうだなあって」
「うん。私は強い」
二体のブルーマンティスが襲ってきたけど、手元から伸びた鮫噛剣が一体の頭を突き刺し、メリッサの曲刀はもう一体の胴を真っ二つにした。
戦闘は一秒もかからずに終わり、僕らは再び会話に戻る。
「ところでさ、メリッサたちも聖杯を探しているの?」
そう訊くと、メリッサは少しだけ驚いた顔をした。
「うん」
「実はデザートホークスも探しているんだ」
「そうか……。セラは帝国市民になりたいの?」
「帝国市民には興味ないな。ただここから脱出して、世界を見て回りたいって思っているんだ」
「なんで?」
理由を聞かれるのは初めてだった。
でも、なんで僕は世界を見たいんだろう?
「そう望んでいるから、としか答えようがないなあ……。最初はエルドラハにうんざりしていただけなんだけどね。もう、息が詰まりそうでさ」
「その気持ちはわかる……」
メリッサは家臣たちに囲まれている。
キャブルさんもタナトスさんもいよ良い人だ。
良い人だけにメリッサにかかる責任は重くなる。
メリッサは口をつぐんで、聖杯に関してそれ以上なに何もしゃべらなかった。
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