第32話 砂漠の鷹がまた一羽


 リタ、メリッサ、ララベルの間でどういう話があったかは知らない。

だけど、部屋から出てきた三人はこれまでのことなどなかったかのように和やかな雰囲気だった。

ひょっとして僕がからかわれていただけだろうか? 

考えてみればあり得ることだ。

そもそも同棲とか許嫁とか突拍子もない話ばかりである。


「え~と……」


 会話の糸口を探す僕にリタがにっこりとほほ笑みかける。


「私たちは友だちよね」

「うん、それはもう……」

「我が友よ……」


 メリッサも変だ。


「まあ、そこからスタートしてやるぜ」


 よくわからないが、ララベルも僕と友だちになりたかったようだ。


「そうそう、せっかく友だちになれたんだから、アタシもデザートホークスに入れてよ」

「ララベルも? お父さんが許してくれる?」

「親父のことは関係ない! 私は好きなようにやるんだから」


 これも何かの縁なのだろう。


「わかった、よろしくね。でも、活動内容は家族にも内緒だよ」


 地下にある菜園の情報はどこにも漏らしたくないのだ。


「わあってるって! アタシは口が堅いから安心しな」


 反抗期真っ盛りっぽいララベルなら監獄長に秘密を漏らすこともないだろう。

その点は安心できそうだった。



 ジャカルタさんを迎えに行くと、もう家の外で僕らを待っていた。


「こんにちは、セラさん。おや、この娘さんは?」

「デザートホークスの新メンバーだよ」

「ララベルってんだ。よろしくなっ!」


 ララベルはにっこり笑って無邪気に挨拶している。

ジャカルタさんはララベルの口の荒さとかわいさのギャップにびっくりしているようだった。



 ダンジョンに入ると僕らは人目を避けて移動した。


「なあ、セラ。どこへ行くんだい? 主要ルートを外れているみたいだけど」

「今から行くのは秘密の場所なんだ。ララベルは秘密を守れるかい?」

「しつこいぞ、セラ。拷問されたって吐かないって」

「だったら君にも僕らの秘密を教えてあげるね」

「マジか? アタシを本当の仲間だって認めてくれるんだな!?」


 ララベルはツインテールをぶるんぶるんと揺らして喜んでいた。



 岩壁に見える偽装を施した菜園の扉を開けると、白色の明かりが暗いダンジョンの闇を切り裂いた。


「まぶし……」


 目を細めたララベルだったが、だんだんとその瞳が大きく見開かれる。


「なんだ、ここはっ!?」


 煌々と輝く人工太陽照明灯、散水機から溢れる水、黒々とした土が床を覆い、野菜や果物の新芽が青々と伸びている。

砂漠の収容所にあってはさぞかし珍しい光景だろう。


「ここがデザートホークスの秘密菜園だよ」

「すごい……すご過ぎるぜ! セラ、お前は何者なんだ?」


 何者かと問われたら、答えてあげるが世の情けらしいけど、僕はただのセラ・ノキアでしかない。


「この街の魔導錬成師さ。さあ、デザートホークスの一員になったからにはララベルにも働いてもらうよ。ここではジャカルタさんの指示に従ってね」

「おう! なんでも言いつけてくれ」


 ララベルはとても嬉しそうだ。

監獄長の娘ということもあって、友だちなんていなかったみたいだから、対等に扱われて嬉しいのかもしれない。


 昨日交換した雌鶏を放してやると、落ち着きなく周囲を歩き出した。

盗まれる心配がないのでニワトリはここで飼うつもりだ。

ひょっとするとララベルも籠の中の鳥だったのかな? 

だとしてもこれからはもう違う。

彼女もまた自由の象徴、デザートホークになったのだから。

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