第28話 交換所にて
地下で集めたサンドシャークの浮袋を組み込み、毎分十リットルの水を生みだす機械の設置に成功した。
本日はデザートホークスとメリッサ、農業顧問のジャカルタさんにも来てもらってお披露目だ。
久しぶりに菜園へ来たけど、ジャガイモやスイカが芽を出していた。
成長は順調そうである。
「それじゃあ水を出すよ!」
スイッチを入れると天井のスプリンクラーが回転して霧状の水を吹きだした。
湿った土が黒々と色づいている。
「成功ですな! これで更なる畑を作ることができますね」
ジャカルタさんがウンウンと頷いて涙ぐんでいる。
この人は涙腺が弱いのだ。
でも、農業にかける情熱は誰よりも熱いので安心して畑を任せられる。
「今回もたくさんの魔結晶を取ってきたので、交換所で野菜を探してみます。種が取れれば蒔けますからね」
交換所とは監獄長が管理していて、帝国から運ばれた品物を手に入れることができる場所だ。
数は多くないが酒や野菜、果物なんかもある。
種付きの野菜や果物があれば栽培できるかもしれない。
その日も畑を少し広げてから、僕らは地上に戻った。
ちょうど飛空艇が到着したばかりで交換所は混雑していた。
目当ての荷物を巡って喧嘩まで起きている。
「酒をくれ! 魔結晶ならある!」
「こっちにもだ。紫晶もあるぞ!」
やっぱりいちばん人気はお酒のようだ。
肉や卵なんかの需要も高い。
僕の目当ては種付きの野菜や果物だけど、シドやリタのために酒や肉も手に入れるとするか。
果敢に群衆に分け入り僕も品物を交換しようとした。
ところが、不意に横から伸びた手が僕の手首を掴んできた。
「魔導錬成師のセラ・ノキアか?」
目つきの悪い二人組が僕を引き留めている。
見覚えのない顔だ。
何か用事なのかもしれないけど、僕としてはそれどころじゃない。
いい品物はすぐに交換されてしまうので急がなければならないのだ。
「そうですけど、ちょっと待ってもらえますか。今忙しいんで」
「他に酒の欲しい奴はいないか? あと四本だぞ!」
交換所の職員が大声で煽っている。
それなのに男は僕の左手首を離さない。
「俺たちはグランダス監獄長の手の者だ」
そう言えば誰もが言うことを聞くと思っている態度で男は話を続ける。
だけど僕には関係ない。
男を引きずったまま僕は人ごみに分け入った。
「ちょ、おまっ……」
ズルズルと引きずられながらも男は手を放さない。
根性だけはあるようだ。
「すいませーん! お酒をください!」
「赤晶で二百gだぞ」
「ありまーす!」
無事にお酒は手に入れた。
おや、この人はまだ手を放さないな。
「ちょ、ちょっと話を聞いてくれ!」
「聞きますからしゃべってください。あ、向こうで肉を売っている!」
僕は肉を交換している人の方へと歩いていく。
「待ちやがれ!」
もう一人が右手首にしがみついてきた。
だけど貴重な生肉を諦める気にはなれない。
「そっちこそ待っていてよ。すぐに済むからさあ。うおおおおっ!? 」
僕を驚かせたのは生きたまま売られているニワトリだった。
スキャンで確かめると一歳の
「それ、いくらですか!?」
「坊主が買うつもりか? 言っとくがこいつは赤晶五千gだぞ」
エルドラハでニワトリを飼う人間なんて滅多にいない。
黒い刃のように本拠地を持っていなければすぐに盗まれてしまうからだ。
だけど僕には秘密の菜園がある。
あそこで飼えば問題はないだろう。
上手くいけば新鮮な卵が手に入るかもしれない。
「買った!」
二人の男を振りほどき、リュックサックから魔結晶のかたまりを取り出した。
「本気で買うつもりか?」
「もちろん、鳥かごはつけてね!」
取引はスムーズにまとまり、僕は酒と雌鶏を手に入れることができた。
あ、でも野菜や果物がまだだったな……。
「そ、そろそろ話を聞いてもらってもいいか?」
見ると地上にへたり込んだ二人が情けない顔で僕を見上げていた。
あっちこっち泥だらけで痣もできている。
買い物はまだあるのだけど、なんだか可哀そうになってしまった。
「うーん、手短にお願いします。どういったご用ですか?」
そう告げると、二人は大きなため息をついた。
「さっきも言ったが俺たちはグランダス監獄長の使いだ。頼むから俺たちと一緒に監獄長のところまで来てくれ。いや、来てください」
頭を下げて頼まれると断りづらい。
「野菜と果物を手に入れたいんだけど……」
「怪我人がいるんだ。なんとか助けてはもらえないだろうか?」
「怪我人ですって? それを先に言ってくださいよ。場所はどこですか?」
「中央棟にある監獄長の居住スペースだ」
荷物と鳥かごは二人の男が持ってくれた。
僕は案内されるままに怪我人のところへと向かう。
間に合ってくれればいいのだが。
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