第27話 鮫狩り終了


 翌日は早朝から狩りを開始した。

シドの案内で昨日の巨大シャークが潜んでいそうなところを探していく。


「見つけたぞ。こいつを見ろ」


 シドの指先には昨日と同じ砂の跡が長く延びている。

太さも同じくらいだから、あの巨大サンドシャークに違いない。

僕はさっそく装備を外して身軽になった。


「本当に大丈夫なの。おとりなら私が代わるって」


 リタの優しさは嬉しかったけど、素早さは僕の方が上だ。


「いや、私がやろう」

「リタもメリッサもありがとう。でも、この役は僕にやらせて」


 僕が一人で歩いていけばきっと巨大シャークは襲ってくるはずだ。

反撃したいけど、そこは堪える。

奴は形勢が不利だとわかるとすぐに砂の中へ潜ってしまうからね。


 僕は襲われたふりをしてみんなが待つこの場所まで逃げて転ぶ。

奴が僕を食べようと姿を現わしたら、三人が紫電の矢で攻撃するという作戦だ。


 紫電の矢は消耗品だけど、一発の威力は雷撃のナックルを上回る。

それを三発も浴びせるんだから、きっと感電して動けなくなるはずだ。


「それじゃあ行ってくるよ」


 僕は三人に別れを告げて一人で歩きだした。



 ダンジョンの壁に僕の靴音が響いている。

靴底に飛び出しナイフを内蔵したデザートホークスの特別製ブーツだ。

つま先には重さ一トンにも耐えられる鋼板も仕込んである。

ダンジョンに現れるのはサンドシャークだけじゃない。

他の魔物にも気を付けながら歩いた。


 三百メートルも進んだ頃、さらさらと砂の音が後方から聞こえてきた。

どうやら奴が来たようだ。

気づかないふりをしてそのまま歩き続ける。

やがて距離が縮まると少しずつ速足になって僕は逃げ出す。


 振り返ると石の床からサンドシャークのヒレが見えていた。

乾燥させたらフカヒレとして食べられるかな? 

そう言えば前世でもフカヒレの姿煮って食べたことがない。

あとで絶対に試してみよう!


 ダンジョンを抜けてシドたちが待つポイントへと駆け戻る。

後ろのサメは待ち伏せには気が付いていないようで、真っ直ぐに僕を追いかけてくる。

走るスピードは僕の方がずっと速いから、相対距離をつかず離れずにして誘い出した。

射撃ポイントまではあと十五メートル。 


 予定ポイントに到着すると僕はわざと転んでみせた。


「うわあ!?」


 演技力はイマイチだけど、サメが相手ならアカデミー賞は関係ないよね。

美味しそうな人間に見えればそれでいいはずだ。

巨大なシャークは地面から完全に姿を現し、歯をむき出しにして僕に襲い掛かった。


「今だ、みんな!」


 物陰から三本の紫電の矢が放たれる。


「よしっ!」


 って、あれ? 

巨大シャークは身を翻してすべての矢を避けてしまったぞ!

一発も当たらないだなんて、そんな……。


 ひょっとしてデザートホークスは遠距離攻撃が苦手なの? 

サンドシャークのガラス玉みたいな小さな目が小ばかにしたように僕を捉えている。


「このぉ……」


 僕は低く身構えて大地を蹴る。

僕の頭を食いちぎろうと飛び跳ねたサンドシャークの下側にステップインした。

腰を落とした体勢から繰り出すのは天に向かって突き上げるアッパーだ。

雷撃のナックルは装備していないけど、もうそんなの関係ないっ!


雷竜飛翔拳らいりゅうひしょうけん!」


 素手のまま腹を打ち上げると、サンドシャークの体が二メートルほど浮いた。

だがそれで終わりではない。

地中に戻せばこいつはまた逃げるだろう。

同じあやまちは繰り返さないぞ。


「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあ!」


 落下してくるサンドシャークの腹に連撃を叩き込む。

突き上げる拳の一発ごとにミシミシとサンドシャークの体が音を立てた。

そして、これで最後とばかりに必殺のリバーブローを決める。

いや、サメの肝臓がどこにあるかなんてわからないんだけど、そこは気持ちの問題だ。

骨が砕ける感触がして、サンドシャークは動かなくなった。

スキャンで確認するとちゃんと死亡となっている。


「ふう、終わった」

「待ち伏せの意味がなかったね……」


 リタがしょんぼりと肩を落とす。

結果的に僕一人で片付けちゃったもんね。


「いやいや、これはセラが悪いぞ」


 シドが文句をつけてきた。


「なんでさ?」

「この紫電の矢、変な方向に飛んでいくんだ」

「ええっ!?」


 メリッサの方を見ると、こちらもコクコクと頷いている。

どうやら言いがかりをつけられているわけではないようだ。


「そんな、どうして……あっ!」


 同時に射たのがいけなかったのかもしれない。

電気には引き付けあったり、反発したりする特徴がある。

作用か反作用かわからないけど、そのせいで射線がくるってしまったのだろう。

雷撃はインパクトの瞬間に発動しないとダメだったようだ。

僕の『作製』もまだまだだな……。


「ごめん、紫晶は貴重だから実験できなかった結果だね」

「まあいいじゃない。結果はこれなんだから」


 リタが横たわるサンドシャークを指し示した。

本当に大きくて魚拓にとって残しておきたいくらいだ。

『解体』を使って手に入れた浮袋も大きくて、産出できる水の量も多そうだった。


「みんなもうちょっと待っていてね。こいつの歯も回収するから」

「また矢じりを作るの?」

「違うよ、リタ。今度は自分用の剣を作ろうと考えているんだ」

「この歯で剣? 確かにこれは大きいけど、剣を作れるほどじゃないわ。せいぜい小型のナイフくらいじゃない?」

「えへへ、これは連結して使うんだよ」


 サメの歯に穴をあけて魔力伝導率の高いワイヤーで連結するのだ。

ワイヤーは伸縮可能で、伸ばせば鞭に、縮めれば剣として使える武器になる予定である。

家に帰ったらさっそく作ってみるとしよう。


 休憩時にスキルをフル稼働してフカヒレを乾燥熟成させた。

『料理』のスキルは偉大だ。

これで傷むことなく保存できる。

いつか材料がそろったら最高のフカヒレスープを作る予定でもあるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る