第26話 白いサンドシャーク


 幸先のいいスタートを切った僕らだったが、サンドシャークはぱったりと姿を現さなくなってしまった。

逃げた個体もいるから警戒しているのかもしれない。

ただ、地下四階ともなると魔結晶の出現率は高い。

ダンジョンを回りながら、僕らは魔結晶を採取した。


「見て紫晶よ!」


 雷属性の紫晶は地下四階より下でなくては見つからないので、リタやシドがはしゃいでいる。


「これさえあれば、ミノンちゃんに会いに行けるぜ」

「スケベじじい……」

「しょうがないだろう、心身ともに若いんだから」


 僕のせいでもあるから黙っておくか……。


「これでも飲み屋の女にはモテるんだぜ。この間だって――」


 武勇伝を語りだそうとしたシドが、不意に地面を見つめて黙った。


「どうしたの?」

「こいつを見ろ」


 石の床には真っ直ぐな砂の跡が長く一筋伸びている。


「サンドシャーク? 一匹しかいないみたいだけど」

「ああ。だがこいつは普通じゃねえ。かなりの大物だ……」

「かなりってどれくらい?」

「わからん……」


 明言できないということは、シドでさえ見たこともない大きさなのかもしれない。

普通のサンドシャークは二から三メートルくらい。

だけどこれは……。


 なに何かを感じ取ったようにメリッサが床に耳を付けた。


「来るぞ、みんな気を付けろ」


 メリッサが床から跳ね退くと同時に巨大なサンドシャークが現れた。

六メートルはある巨体は真っ白で、あちらこちらに傷がある。

このダンジョンで何度も激戦を越えてきた個体のようだ。


「なんだこいつは!? うわっ!」


 シドが体勢を崩してしりもちをついてしまう。

サンドシャークは大きな口を開けて真っ直ぐにシドへと向かっていった。


「させるかっ!」


 僕はシドの前に出て、雷撃のナックルをフル出力で鼻頭に叩き込む。

ところが突如現れた土の塊が僕の打撃を防御してしまった。


 これは土魔法のシールドか!? 

シールドは大地に繋がっていたのでアースの役割をしてしまったようだ。

雷撃もサンドシャークには伝わっていない。

ただ物理的な威力は盾を破壊して伝わったので、サンドシャークは大きく後方に吹き飛んだ。


 すかさずメリッサが曲刀を振るったけど、その攻撃は高い金属音とともに弾かれた。


「硬い」


 剣の直撃が弾かれるだなんて、どんな皮膚をしているんだ!?


「どいてええええ!」


 リタが渾身の力でフレイムソードを叩き込む。

胴体をフレイムソードで切りつけられて、巨大なサンドシャークは身を翻して砂の中に潜ってしまった。

炎の攻撃は効いたようだけど、巨大シャークはそのまま浮かび上がってくることはなかった。


 メリッサが再び地面に耳をつける。


「逃げていく」

「どっちに行ったかわかる?」

「もう追いつけない……」


 メリッサはすまなそうに、ふるふると首を横に振った。

悔しさが込み上げてきた。もう少しで討ち取ることができたのに……。



 それ以上のサンドシャークは見つからなかったけど、僕らは魔結晶を採取したり、他の魔物を退けたりしてその日を終えた。

地下四階だけあって実入りのよ良い一日になったけど、僕は少しだけ不満だ。

昼間の巨大シャークのことが忘れられなかったのだ。


「ごめん、私がとどめを刺していれば……」

「リタのせいじゃないよ。最初の一撃で仕留められなかった僕が悪いんだ。最近少し調子に乗っていたと思う。一撃で片付けようとしないで、連撃を心掛けていたら取り逃がすことなんてなかったんだ」


 メリッサにも言われたけど、僕の攻撃は身体能力頼みだ。

もっと修練がいると思う。


「まあ、気持ちを切り替えて、違うサンドシャークを探そうぜ」


 シドはそう言ったけど、僕は巨大シャークに固執した。


「やだ」

「やだって、おま……」

「だって、あれだけ大きかったら、浮袋だって大きいはずだよ。それを素材に使えば、きっと大きな散水機が作れるはずさ」

「まあな……」

「そうすれば畑だって大きくできるし、作物だっていっぱい作れるよ!」


 シドは少しだけ考える顔をした。


「だったらどうする?」

「待ち伏せする」

「昨日の盗賊みたいにか?」

「たとえが悪いけどそういうこと。昨日手に入れたサンドシャークの歯があるでしょう。あれと紫晶で雷属性の矢を作るよ」


 サンドシャークの歯は鉄をえぐるほど鋭く硬い。

皮膚の分厚い巨大シャークにも通用するに違いない。

雷属性の矢の同時攻撃を与えれば動きを止めることができると思う。


 僕は夜中までかかって『紫電の矢』を三本作った。

採取した紫晶をすべて使ってしまったけど悔いはない。

明日こそ決着をつけてやるっ!


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