第21話 黒い刃からのお招き
翌日も僕は砂を運んだ。
シドとリタは別行動で採取に励んでいる。
僕はジャカルタさんと二人で地下一階第八区の秘密農場へ移動した。
「おお……」
畳一畳ほどの畑を見てジャカルタさんが涙ぐんでいる。
「どうしたんですか、どこか痛いところでも?」
「そうではありません。そうではありませんが……」
ジャカルタさんは嗚咽まで漏らして泣き始めてしまった。
「ジャカルタさん……」
「失礼しました。ですが私は感動してしまったのです」
「感動?」
「はい。ご存じの通り、私の固有ジョブは『農夫』です。ですがこの収容所に来て以来、ずっと畑というものを見ておりませんでした。八年ぶりに畑を見て、私の血がざわめいたのです。魂が震えました……」
家庭菜園ともいえないくらいの小さな畑が大人の人をこんなにも感動させるんだ。
「それでは……」
「はい、ぜひ私にも協力させてください。ここに一大地下農園を作り上げましょう!」
その日、僕は新しい畑を作り、ジャカルタさんはスイカの種を蒔いた。
「どれくらいで芽が出るのかな?」
「それはすぐです。この品種なら収穫までは五カ月を見ておいてください。私がスキルでサポートするので普通よりは早いはずです」
「楽しみだなあ。他の種や苗も手に入れるね」
「夢のような話ですなっ! ぜひぜひお願いします!」
この分なら近いうちに新鮮な果物や野菜が食べられそうだ。もっともっと畑を広くするとしよう。
◇
エルドラハは本日も晴天なり。空気は乾き切っていて雨の降る気配は一切ない。
ここの天気は単純だ。
カンカン照りか砂嵐、その二つしかない。
もともと人が住めるような土地じゃないのだ。
だから収容所になっているわけだけどね。
僕はその地で農業を始めている。目下の悩みは水不足だった。
「畑が大きくなり過ぎて散水機が足りないんだよ」
大きなため息をついてリタとシドに愚痴った。
「散水機ならまた作ればいいんじゃない? 魔結晶のストックだってたくさんあるでしょう?」
「それがね、どこを探しても湧水杯とマジックボトルが見つからないんだ」
砂漠で生きる者にとってこの二つは生活必需品だ。
宝箱から見つかったとしても、市場に出てくることは滅多にない。
たとえ出たとしてもすぐに売れてしまうのだ。
前回はたまたまゴミ捨て場で割れた湧水杯を見つけたけれど、さすがに二個目は見つかっていなかった。
「邪魔をする」
誰かがやってきたと思ったらメリッサとタナトスさんだった。
「こんにちは。今日はどうしたの? なに何か困っているみたいだけど」
僕がそう言うとリタとシドが驚いた。
「はっ? メリッサって無表情じゃない。どこをどう見たら困っているように見えるのよ」
「え? だっていつもより眉が少し寄っているし、肩を落として気落ちしているみたいじゃない」
「いや、どう見ても普段通りだろう。俺にもぜんぜんわからんぞ」
リタとシドにはわからないのか?
「実は少し困っている」
「ええっ!?」
ほらね。
気を付けて見ていればメリッサの表情はころころ変わるのだ。
その動きはすごくちょっとだから、わかりにくいとは思うけど。
「セラ、黒い刃の装備を修理してはもらえないだろうか?」
「うん、いいよ。どこにあるの?」
見たところ、メリッサのもタナトスさんの装備も破損している感じには見えない。
剣が刃こぼれでもしたのかな?
僕の疑問にはタナトスさんが答えてくれた。
「地下四階でサンドシャークの大群に遭遇してしまったのです。幸い死者は出ませんでしたがチームメンバーの装備はボロボロになりましてね。新調するにしても時間がかかると思いますので、セラ殿に修理を依頼したいわけです。どうぞ黒い刃の本拠まで足を運んでいただけないでしょうか?」
サンドシャークは砂の中を泳ぐサメで非常に凶暴だ。
群れで人間を囲んで襲ってくる。
「承知しました。今日はダンジョンに行く予定もないのですぐにうかがいましょう」
謝礼の魔結晶もたくさんもらえるそうなので、僕はメリッサの依頼を引き受けることにした。
「シドとリタはジャカルタさんを送っていってあげて」
地下菜園とジャカルタさんの護衛は二人に任せて、僕はメリッサたちと出かけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます