第20話 秘密の菜園 その2


 数日後、デザートホークスは地下一階の第八区を歩いていた。

僕らは大量の砂を背中に背負っている。


「セラ、どこまで行く気だ? そろそろ限界なんだが……」

「オッケー、ちょっと待ってね」


 修理でシドの疲労物質を取り出し、筋肉の疲れを取ってあげた。


「ふぅー……体が軽くなる」

「マッサージよりも効果があるでしょう?」

「ああ、いい気持 だ」


 シドはうっとりとしている。


「リタにもやってあげるね」

「セラは平気なの?」

「うん、ぜんぜん疲れないよ」


 重力の呪いが解けてからこっち、僕は疲れに無縁だ。

万が一疲れたとしても、このように修理ですぐに治せる。


「それにしてもセラはタフね。砂の他にいろんな道具まで運んで…」

「畑を作るための道具だよ。あ、ここなんかいいんじゃないかな? 入ってみよう」


 目の前の部屋に続く扉を開けると、中にいた一角兎が二頭で突進してきた。

ウサギと言っても可愛いのを想像しないでね。

こいつは体長が一メートルはある恐ろしい魔物だ。

槍のような鋭い角が迫ってきたけど、僕は根本を手で掴み、壁に叩きつけて戦闘を終わらせた。


「常識外れな戦い方をしやがって……。最近可愛げがなくなってるぞ」


 シドが倒れた一角兎を覗き込んだ。


「いいじゃない、夕飯のおかずができたわ。今日はウサギのシチューにしましょう」


 リタは肉が得られて満足そうだ。

レッドボアと同じで一角兎も食べられる魔物だ。



 僕は部屋を見回して確認した。

十五メートル四方くらいの正方形の部屋で広さはじゅうぶんにある。

第八区は魔結晶がほとんど採れない枯れた場所と言われているから、人が来ることもないだろう。

念のために扉を改造して鍵をつけておくか。


「よおし、始めるぞ! 僕は床に穴をあけるから二人は休憩していて」

「まったく元気な奴だぜ」


 さっそく畑となる場所を『改造』と『解体』で作っていく。

石の床に二メートル×一メートル、深さ四十センチの溝を作った。

たいした広さじゃないから時間は五分もかかっていない。


「なんだこれは、俺の墓穴か?」

「サイズ的にはぴったりだけど、これは畑だよ。今から土を作るからね」


 畑の横に少し大き目の魔導具を二つ設置した。


「それはなんなの?」

「マジックランプを改造して作った人工太陽照明灯と、湧水杯ゆうすいはいを改造して作った散水機だよ」


 湧水杯は水が湧き出る器で、大きさはラーメンどんぶりくらいある。

魔結晶を利用して水を作り出す魔導具だ。

僕はそれを改造して散水機を作ったわけだ。


「この穴の中に運んできた砂と油かす、麦のふすまを入れるんだ」

「油かすや麦のふすまなんて何にするのかと思ったら土を作るためだったのね」

「その通り。最後に散水機から水も入れて、改造のスキルを発動させる」


 僕は両手を穴につっこみ魔力を流し込んだ。

茶色い砂が湿り気を帯び、豊かな土壌へと変化していく。


「リタ、カルシウムとリン酸が欲しいから一角兎の骨を持ってきて」

「かるしう? わかったわ」


 魔法により微生物の働きも活発になってきた。


「とってきたわよ」


 まだ血の滴る骨をリタが持ってきてくれる。


「いいよ、そのまま穴に投げ入れて。もう少し時間がかかりそうだからリタは肉を焼いておいてよ。それでお昼ご飯にしよう」

「任せといて」


 リタはすらりと剣を抜いた。

お得意のフレイムソード焼きをしてくれるのだ。



 農業用の土が完成するのに三十分かかった。

でも用意した穴の土は黒々としていてホカホカと湯気を立てている。


(おめでとうございます。スキル『発酵』を習得しました!)


 今度は発酵に特化したスキルだな。

これで次回からは土づくりの時間が短縮するに違いない。

お酒造りも簡単にできそうだ。

きっとシドが喜ぶだろう。


「持ってきたスイカの種やジャガイモを植えちゃう?」

「それはまた今度でいいよ。どれくらいの深さに植えるかもわからないもん。今日はここに置いておこう」


 今回作った土がスイカの栽培に向いているかもわからない。

前世の記憶にも農業の知識はないんだよね。


「だったらどうするの?」

「先日、固有ジョブが『農夫』のおじさんを治療したんだ。その人に相談してみる。謝礼が折り合えば、作物を育てるのを任せてみようと思っているんだ」


 畑はもっと大きくしたいから明日も砂を運んで来よう。

ついでに農夫のジャカルタさんにも来てもらえるといいな。

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